猫と一緒に日溜まりでお昼寝していた賢者を見つけたシャイロック
日溜まりで
ぽかぽかと暖かな日差しが降り注ぐ魔法舎の庭。
にゃあ、と猫が木陰で鳴いたから……つられるように、賢者は背の低い植え込みの陰へと入り込んだ。にゃっ、みゃあ、と数匹の猫が日溜まりでまったりとくつろいでいる。
お邪魔します……と猫たちに声を掛け賢者はそっとそこに腰を下ろした。ぱたり、と尻尾で返事して、猫はくぁっとあくびする。
賢者は、手にしていた賢者の書を膝にのせてページを捲った。
にゃあ、と猫が木陰で鳴いた。
おや?と視線を向けてみれば、背の低い植え込みから猫がひょっこりと顔を出していた。
手を伸ばせば、すりすりと頭を擦り付けてくる。日溜まりで昼寝でもしていたのだろうか?ふかふかの毛並みをしている。
ガサガサと音を立てて、植え込みからもうひとつ出てくる顔。みゃあ、と鳴いて猫はシャイロックの足元へとじゃれついてきた。
ここは猫たちの昼寝場所なのだろうかと思いつつ、ひょいと植え込みの向こう側を覗いてみれば、
「こんなところで……」
思わず溢れたのは呆れの溜息。
植え込みの陰に、丸くなった猫たちと一緒になって、賢者も丸くなって転がっていたのだ。すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てて。
さて、どうしたものかと思いながらも、いつまでもここに寝かせておくわけにもいかないか……と、シャイロックは賢者の傍へと歩み寄った。
「賢者様、こんなところで寝ていては風邪をひいてしまいますよ」
肩を揺すってみるも、起きる気配は一向にない。
仕方ない。と、身に纏うショールを賢者の体に掛けてやった。
「少しだけ、ですよ」
クスリと笑いそう言って、眠る賢者の隣に腰をおろす。
猫にそうするように、そうっと賢者の頭を撫でた。
さらさらと指に絡んではほどけてゆく髪の触り心地を楽しみながら見つめる寝顔。
少女の歳は過ぎ……けれど、大人としてはまだ熟してはいない娘の、無防備過ぎる寝姿。
「いけませんよ、賢者様。ここは、悪い魔法使いの巣窟なのですから」
クスクスと笑いながら、口だけは嗜めるように言葉を紡ぎ出す。
髪を指に絡めてはほどきを繰り返し、そのまま手の甲で触れる頬。
ん……っ、と小さく漏れ聞こえた声。
「そんな無防備でいるだなんて、何をされても文句は言えませんよ」
地面についた手を支えに、ゆっくりと体を傾ける。
閉じた瞼を飾る睫毛は、間近で見れば思っていたより長いのだと分かった。
目の前で瞼が震え、それはゆっくりと持ち上がる。
賢者の、寝起きでぼんやりとした瞳を覗き込むようにしながら、シャイロックは唇の端をつり上げた。
「おはようございます、賢者様」
愉しげに言葉を紡いだ唇が行き着いた先は、戸惑いに瞬いた瞼。
ひっ!と小さく上がった悲鳴は、わざとらしく立てられたリップ音にかき消された。