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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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WITH 5【最遊記 三空】

【最遊記/三空】
過去に友人の三空本へ寄稿した中編作品です



WITH 5


 そういえば、この道はさっきも通った気がした。
 空腹を感じ、先程、八戒に勧められた肉まんを食べて置くべきだったかと、悟空は後悔しながら大きくため息をついた。
「おっかしいなぁ」
 立ち止まって辺りを見回す。
 寺院と、悟浄と八戒の家の間の道は、今までにも何度か行き来している。「やばいなー。迷ったかもしんない……」
 飛び出してきて闇雲に走ったせいだろう。慣れたはずの道を、途中で変なふうに来てしまったのか……どうやら、迷ってしまったらしい。
 空がオレンジ色に染まりつつあった。
「オレしか三蔵の看病してやる奴いないし……でも、帰っても、三蔵……うるさいとかいうかな……」
 傍らの木の根元に座り込んで、ぶつぶつとつぶやき始める。
「――でも、飛び出してきたから、悟浄と八戒の所には戻りづらいし……」
 ふと思い出したのは八戒の言葉。

――きっと三蔵は、また風邪をうつしてしまわないように、悟空を自分のそばから離したんですね。

「でも、オレは三蔵の傍にいたい……」
 ふてくされたように呟く。
 熱で辛そうにしているのを見ているのは苦しいけれど、何もしないよりは、傍にいて何かしてやりたい。
 傍にいられないのは、なんだか不安だから。
「さんぞう……」
 ため息と共に、悟空はその名を吐き出した。

 

◇   ◆   ◇

 

「…………」
 無言のままで、三蔵は窓の外に視線を向けた。
 呼ばれたような気がした。
「チッ」
 舌打ちをして、ベッドから降りる。
 頭が重いように感じて僅かに顔をしかめ、身体を支えるようにベッドに手をついた。
「……ったく………いてもいなくても煩い……」
 吐き捨てるようにそうつぶやくと、三蔵は部屋を後にした。

 

◇   ◆   ◇

 

「おかしいですね……ジープで追いかけているというのに、追いつけないなんて。」
 飛び出していった悟空を追いかけてきたものの、まだ悟空を見つけることができないでいた。
 日はどんどん西に傾いている。
「とっとと帰ったんじゃねーの?……まさか迷ったんじゃないだろーな……あのバカ猿」
 助手席の悟浄が、頭の後ろで両手を組みながら、独り言でも言っているような口調でそう答えた。
 しばし考え込み、八戒はハンドルをきった。
「とりあえず、三蔵のところに行ってみましょうか。」
 悟浄と八戒を乗せたジープは、一路、寺院へと向かった。

 

 

「一体何処に……」
「ったく、何考えてんだ三蔵サマはよっ!」
 寺院の石段を急ぎ足で降りながら、口々に愚痴る。
 到着した二人を待っていたのは、「……三蔵様ならば、つい先程『出掛ける』とおっしゃって外に……」という、僧の言葉だった。
 先導するかのように二人の前を飛んでいたジープが、石段を降りた辺りで車に変化する。
「とにかく追いますよ。」
 言って、八戒はジープを急発進させた。

 

◇   ◆   ◇

 

 黄昏時、
 木の根元に座り込み膝を抱えたまま、悟空は暗くなりゆく空を見上げた。
 これ以上動き回っても更に迷うだけだ……と悟ったわけではなく、ただ、おなかがすいて動くのが億劫になっただけ。
「あーあ……腹減ったなぁ……」
 ぽつり、と呟く。
 そして次に思うのは、
「三蔵、大丈夫かな。」
 本当は、早く三蔵の元に帰りたかった。
 大きく、ため息をつく。

 ――と、その時。

「おい」
 声が聞こえた。
 聞きなれた声だ。
 振り返ると、薄暗くなった中でも輝いて見える金色……
「さん…ぞう?」
 名前を呼んだ途端。

  っばしぃぃぃっ!

 いきなりハリセンで張り倒される。
「っ!?なにすんだよっ!いきなりっ!」
 涙目で三蔵を見上げながら、非難の声を上げる悟空。
 なぜここに三蔵がいるのか、どうしてハリセンで張り倒されなければならないのか……頭の中で疑問が渦巻く。
 問おうと口を開きかえると、
「帰るぞ。」
 くるり、と背を向けて三蔵が宣言する。
「……え?」
 どう答えてよいか分からず、思わず間抜けな声を洩らした悟空を、三蔵は肩越しに振り向いた。
「近くにいてもいなくても煩いなら、まだ、目の届くところで騒がれている方がましだ。早く来い。」
 言って、歩き始める。
「あ、待てよ!オレ、腹減ってもう動けねえんだよ!」
「なら、そのままそこにいろ!」
 歩みも止めずそう言われて、悟空は慌てて立ち上がって駆け出した。




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