WITH 5【最遊記 三空】 2008年06月30日 その他版権 0 【最遊記/三空】 過去に友人の三空本へ寄稿した中編作品です WITH 5 そういえば、この道はさっきも通った気がした。 空腹を感じ、先程、八戒に勧められた肉まんを食べて置くべきだったかと、悟空は後悔しながら大きくため息をついた。 「おっかしいなぁ」 立ち止まって辺りを見回す。 寺院と、悟浄と八戒の家の間の道は、今までにも何度か行き来している。「やばいなー。迷ったかもしんない……」 飛び出してきて闇雲に走ったせいだろう。慣れたはずの道を、途中で変なふうに来てしまったのか……どうやら、迷ってしまったらしい。 空がオレンジ色に染まりつつあった。 「オレしか三蔵の看病してやる奴いないし……でも、帰っても、三蔵……うるさいとかいうかな……」 傍らの木の根元に座り込んで、ぶつぶつとつぶやき始める。 「――でも、飛び出してきたから、悟浄と八戒の所には戻りづらいし……」 ふと思い出したのは八戒の言葉。 ――きっと三蔵は、また風邪をうつしてしまわないように、悟空を自分のそばから離したんですね。 「でも、オレは三蔵の傍にいたい……」 ふてくされたように呟く。 熱で辛そうにしているのを見ているのは苦しいけれど、何もしないよりは、傍にいて何かしてやりたい。 傍にいられないのは、なんだか不安だから。 「さんぞう……」 ため息と共に、悟空はその名を吐き出した。 ◇ ◆ ◇ 「…………」 無言のままで、三蔵は窓の外に視線を向けた。 呼ばれたような気がした。 「チッ」 舌打ちをして、ベッドから降りる。 頭が重いように感じて僅かに顔をしかめ、身体を支えるようにベッドに手をついた。 「……ったく………いてもいなくても煩い……」 吐き捨てるようにそうつぶやくと、三蔵は部屋を後にした。 ◇ ◆ ◇ 「おかしいですね……ジープで追いかけているというのに、追いつけないなんて。」 飛び出していった悟空を追いかけてきたものの、まだ悟空を見つけることができないでいた。 日はどんどん西に傾いている。 「とっとと帰ったんじゃねーの?……まさか迷ったんじゃないだろーな……あのバカ猿」 助手席の悟浄が、頭の後ろで両手を組みながら、独り言でも言っているような口調でそう答えた。 しばし考え込み、八戒はハンドルをきった。 「とりあえず、三蔵のところに行ってみましょうか。」 悟浄と八戒を乗せたジープは、一路、寺院へと向かった。 「一体何処に……」 「ったく、何考えてんだ三蔵サマはよっ!」 寺院の石段を急ぎ足で降りながら、口々に愚痴る。 到着した二人を待っていたのは、「……三蔵様ならば、つい先程『出掛ける』とおっしゃって外に……」という、僧の言葉だった。 先導するかのように二人の前を飛んでいたジープが、石段を降りた辺りで車に変化する。 「とにかく追いますよ。」 言って、八戒はジープを急発進させた。 ◇ ◆ ◇ 黄昏時、 木の根元に座り込み膝を抱えたまま、悟空は暗くなりゆく空を見上げた。 これ以上動き回っても更に迷うだけだ……と悟ったわけではなく、ただ、おなかがすいて動くのが億劫になっただけ。 「あーあ……腹減ったなぁ……」 ぽつり、と呟く。 そして次に思うのは、 「三蔵、大丈夫かな。」 本当は、早く三蔵の元に帰りたかった。 大きく、ため息をつく。 ――と、その時。 「おい」 声が聞こえた。 聞きなれた声だ。 振り返ると、薄暗くなった中でも輝いて見える金色…… 「さん…ぞう?」 名前を呼んだ途端。 っばしぃぃぃっ! いきなりハリセンで張り倒される。 「っ!?なにすんだよっ!いきなりっ!」 涙目で三蔵を見上げながら、非難の声を上げる悟空。 なぜここに三蔵がいるのか、どうしてハリセンで張り倒されなければならないのか……頭の中で疑問が渦巻く。 問おうと口を開きかえると、 「帰るぞ。」 くるり、と背を向けて三蔵が宣言する。 「……え?」 どう答えてよいか分からず、思わず間抜けな声を洩らした悟空を、三蔵は肩越しに振り向いた。 「近くにいてもいなくても煩いなら、まだ、目の届くところで騒がれている方がましだ。早く来い。」 言って、歩き始める。 「あ、待てよ!オレ、腹減ってもう動けねえんだよ!」 「なら、そのままそこにいろ!」 歩みも止めずそう言われて、悟空は慌てて立ち上がって駆け出した。 【WITH6】へ PR