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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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WITH 4【最遊記 三空】

【最遊記/三空】
過去に友人の三空本へ寄稿した中編作品です



WITH 4



 部屋に差し込んでくる日の光が、西に傾き始めていた。
 ふと目を覚まして、三蔵はベッドに上体を起こした。
 ……静かな目覚め。
 静かな……部屋の中。
「夢……か」
 三蔵はポツリとつぶやいた。
 まだ、悟空を連れ帰って間もない頃の・・・…出来事。
 熱に苦しむ悟空にどうしてやればよいのか分からなかった日のこと――見ていることしかできなかったあの日の……やり場のない感情。
 片手で顔を覆い、三蔵は、皮肉げに唇の端をつり上げた。
 ――ふ……と、静寂が耳についた。
 聞こえるのは、遠く外から届く寺院内を流れる運河の水音。
 ……久しぶりの静けさ。
「そうか……」
 あたりを見回し……静寂の理由に思い当たって、呟いた。
「こんなに静かなのは、随分久しぶりだ。」
 呟く言葉は、夕闇の静寂の中に消えた。

 

◇   ◆   ◇

 

「悟空、肉まん食べませんか?」
 器に満載した肉まんの山を持った八戒が呼びかける。
「………」
 背もたれに抱きつくように椅子に座った悟空が、無言のままで首を横に振った。
 顔を見合わせて、悟浄と八戒は小さく息を吐き出す。
「悟空、三蔵が言ってましたよ、『また、ぶっ倒れられちゃかなわん』って。」
 八戒が諭すように悟空に話しかけた。
「また……って、前にぶっ倒れたって事か?」
 悟浄が、くわえた煙草の紫煙を目で追いつつ問う。
「………ずっと前に、三蔵の看病してて風邪うつった。」
 悟空が呟いた。
「じゃあ、なにか?
 その風邪ひいた悟空を三蔵サマが看病したってわけか?」
 驚いたように問う悟浄に、悟空が小さく頷いた。
「あの三蔵サマが看病してる姿ってヤツ、一度見てみたいもんだな……つーか、看病なんてできんのか?あの生臭ボーズに。」
 本人が聞いていたら、ハリセンどころでは済んでなさそうなことを言いながら、悟浄が笑う。
 それを聞き流しつつ、
 ああ。と八戒は合点がいく。
「きっと三蔵は、また風邪をうつしてしまわないように、悟空を自分のそばから離したんですね。」
 呟くように言った八戒の言葉に、それまでじっとしていた悟空の肩が小さく跳ねた。
「だから悟空。三蔵は邪魔だからあなたを僕らに預けたんじゃないと思いますよ。そんなに落ち込まないで。
 ああ、肉まん、ここに置いておきますからね。」
 優しくそう言葉をかけてやり、器をテーブルに置く。
 ピイ
 と、八戒の肩を降りたジープが悟空の肩へと乗っかった。
 
「で、どうすんだよ。」
 台所へ向かおうとした八戒の肩に腕を乗せるようにして、立ち上がった悟浄が小声で話しかける。
「どうするって、なにがですか?」
 同じように小声で問う八戒に、
「悟空だよ。預かるはいいが、食いもんにもジープにも興味示さねえし……三蔵が迎えに来るまであんな状態なんじゃねえだろーな。」
 言いながら、悟浄は肩越しに悟空を示した。
「そんなふうに言われちゃうと……――どうしましょうか?」
 八戒は苦笑を浮かべた。
「……おい」
 悟浄が頭を抱えた、その時。
 ガタン
 いきなり耳に届いた音に、二人は慌てて振り返った。
「――やっぱ、オレ三蔵のとこに帰る!」
 音の元は悟空が座っていた椅子。
 驚いたジープが宙で翼をはためかせている。
 椅子を倒して立ち上がった悟空は、宣言して踵を返した。
「え!?ちょっと、悟空?」
「おいっ!」
 八戒が、悟浄が……慌ててあげた声を背中に受けながら、悟空は家を飛び出していった。
 思わずその後ろ姿を見送ってしまってから、悟浄と八戒は、はた……と我に返った。
「で、どうするよ。」
 ちらりと視線を向けて問う悟浄に、
「捜しに行くしかないでしょう。」
 八戒は苦笑を浮かべて答えた。
 ばさり、と翼をはためかせたジープが、定位置である八戒の肩にやってきたのを合図としたかのように、二人は悟空を捜すべく家を出た。




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