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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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WITH 1【最遊記 三空】

【最遊記/三空】
過去に友人の三空本へ寄稿した中編作品です



WITH 1



「珍しいこともあるもんだな。」
 横合いからけられたのは、驚いたような、それでいて少しからかいを含んだ言葉。
「あれだな、『鬼の霍乱』ってやつ。」
 くっくっくっ、と肩を震わせながら笑う。
「うるせえ」
 しゃがれた声で悪態をついて、紫暗の瞳が面倒くさそうに、隣のベッドに腰掛けている紅い髪の男を睨んだ。
 こんこんっ
 軽くノックされた扉が開き、
「三蔵、お粥くらいなら食べられますか?」
 同時に、聞こえてくる問いかけ。
 湯気の立つ器を載せた盆を片手に部屋に入ってくると、
「あ、悟浄。
 病人のいる部屋で煙草なんて吸わないで下さいね。」
 指先で煙草をもてあそんでいる悟浄を目にして、八戒は全く非の打ち所のない温厚な笑顔を浮かべながら言った。
「はいはい、すぐに出て行くよ。
 うつされちゃたまんねーからな。」
 にっ、と笑い立ち上がると、悟浄はひらひらと手を振りながら背を向けた。
 いつもならばここで、三蔵の「殺すぞ」の台詞が吐かれるのだが…今回に限っては、そんな元気もないらしい。
「……そういや、猿はどこへ行った?」
 隣の自分の部屋に戻るべく扉に手をかけた悟浄が、ふと、騒がしい存在がいないことに気付いて動きを止めた。
「あ、悟空なら……」
 八戒が答えようと口を開いたその途端、
 ばん!
 ごんっ。
「さんぞー!だいじょうぶか?」
 勢いよく扉が開くと共に、勢いのよい声が聞こえてきた。
 それらと同時に、何かがぶつかる派手な音もしたようだが……
「………って、何やってんだよ、悟浄。」
 ふと足元に視線をやった悟空が、床にコケている悟浄に向かって、半ば呆れたかのような言葉をかける。
「てめっ!このバカ猿!」
 勢いよく身を起こして、悟浄が怒鳴る。
「何だよ!バカ猿ゆーな、エロ河童!」
 いつものごとく、悟空も言い返す。
「ドア開けんなら開けるで、先にノックくらいしやがれ!」
 どうやら、悟空が勢いよく飽きた扉にぶつかったらしい。
「んなの知るかよ!
 ぶつかるよーなところに居る方が悪い!」
 始まってしまった日々恒例の二人の喧嘩に、八戒は苦笑を浮かべ、三蔵は……ベッドに上体を起こした。
 その眉間に刻まれた皺は、いつもの倍以上。
 ……風邪による頭痛と咽の痛み、それに加えて体のだるさが彼の不機嫌さを普段以上に増大させている。
 三蔵の怒りが頂点に達するまで秒読み段階に入ったその時、
「てめー!」
 怒り心頭上体の悟浄が、悟空の胸倉を掴んだ。
「あっ、悟浄、ストップ!」
「うあ!」
 ばっしゃーん
 八戒の制止と共に、悟空の声と水音がした。
 部屋の中に、数瞬の沈黙が訪れる。
「あ………わり……」
 決まり悪げな悟空の声。
 額に手を当てて大きく溜息をつく三蔵。
 そして……
「悟空は、水を換えに行っていたんですよ……」
 苦笑を浮かべて八戒が言った。
「そーゆーことは、先に言ってくれ。」
 悟空が持っていた洗面器を頭にかぶって、濡れ鼠と化した悟浄は、脱力して言った。



 「……あいつらの辞書には、『静かにする』という言葉はないのか……」
 ずぶ濡れの服を着替えに悟浄が部屋へと戻り、濡れた床を拭いて再び洗面器に水を汲みに悟空も出て行った後、溜息をまじえて三蔵は呆れたように呟いた。
「あはははは――でも……」
 肯定するでも否定するでもなく、八戒は苦笑すると、ふ……と苦笑を微笑に変えた。
「悟空はすごく心配していましたよ。」
 先程、粥を持ってくる際、水を換えに行こうとしていた悟空と会ったときのことを思い出して、そう告げる。
「フン」
「そういえば、あの時も大変でしたよね。」
 先程まで悟浄が居た隣のベッドに腰を下ろして、八戒はそう切り出した。
「………」
 無言のまま、三蔵は天井に目をやる。

 旧い事を思い出した。
 まだ、八戒と悟浄の二人に会って間もない頃の出来事。
 あの時も……三蔵は風邪をひいて寝込んでいた。



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