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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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WITH 2【最遊記 三空】

【最遊記/三空】
過去に友人の三空本へ寄稿した中編作品です


WITH 2


「珍しいこともあるもんだな。」
 横合いからかけられたのは、驚いたような、それでいて少しからかいを含んだ言葉。
「あれだな、『鬼の霍乱』ってやつ。」
 くっくっくっ、と肩を震わせながら笑う。
「うるせえ」
 しゃがれた声で悪態をつくと、面倒くさそうに、ベッドの横に立つ赤い髪の男を睨んだ。
「大丈夫ですか?三蔵。僕ら、やっぱり帰った方がいいですかね。」
 悟浄とは逆に、心配げに問いかける八戒。
「きゅー……」
 その八戒の肩で、大きな羽の生えた真っ白い生き物も心配そうな鳴き声を出した。
「そうそう。うつされる前に帰ろうぜ、八戒。」
 唯一、悟浄だけが心配の『し』の字すら見せない。
「……」
 三蔵は、不機嫌そうにベッドに上体を起こした。
 と、その時。
「あーっ!三蔵、だめじゃん寝てなきゃ!」
 扉が開いて、両手で盆を抱えるように持った悟空が、入ってくるなり声をあげた。
「……だ、そうですよ?」
 笑みを浮かべて、八戒が視線を三蔵に向ける。
「……チッ……」
 小さく舌を打って、三蔵は八戒を軽く睨んでから悟空の方へと視線を向けた。
「三蔵。厨房の奴らに頼んで、お粥作ってもらったんだ。食えるか?」
 盆に載った、湯気の立つ器に気を使いながら、悟空はベッドに駆け寄る。
 それを黙ったまま目で追う三蔵。
「どけよ、悟浄。」
 ベッドの脇に立っている悟浄を退かせ、悟空は三蔵の真横を陣取ると、盆ごとベッドに座っている三蔵に差し出した。
「まだ熱いから気をつけろよ。」
 三蔵が盆を受け取るのを確認して言う悟空の表情に、どこかほっとしたようなものが浮かんだ。
「へー、猿が看病なんてできんのかよ。」
 からかうように悟浄が言うのに、
「エロ河童と一緒にすんなよ。」
 悟浄を睨みながら、悟空は言い返した。
「はいはい、二人とも。病人の傍で喧嘩なんかしないでくださいね。」
 放っておくといつもの如く喧嘩になりかねないことを案じた八戒が、先に予防線を張り巡らせる。
「こんなところにいたら、マジで風邪うつされるぜ。なあ、八戒。」
 帰ろう、と再び悟浄が言う。
「………」
 未だ粥に口をつけていない三蔵と、そのすく傍にくっついて離れようとしない悟空を見て、
「そうですね、僕らがいて気を使わせるより、帰ったほうがよさそうですね。」
 八戒は言った。
 肩にとまっているジープのたてがみをそっと撫でて、部屋を出ようと扉を開けた悟浄を追うように、八戒は、それじゃあ。と背を向ける。
「おい、八戒。」
 その背中に掛けられる声。
「はい?」
 振り返ると、変わらず視線を粥に落としたままの三蔵が目に入った。
「――帰るなら……悟空をしばらく預かってくれ。」
 視線を合わせないままの、言葉。
「…………はい?」
「何ぃ!?」
 一瞬の間を置いて、八戒が問い返し悟浄が不満の声を上げた次の瞬間。
「なんでだよっ!」
 悟空が声を上げた。
「寝てる横でうろちょろ騒がれたんじゃ、治るもんも治らん。」
 冷たくそう言い放つ三蔵。
「っ!?……………」
 何か言おうと口を開きかけた悟空が、三蔵の横顔を見上げ、きゅっ、とこぶしを握り締めて俯いてしまう。
「三蔵、そんな言い方はないんじゃないですか?
 悟空は貴方を心配して、懸命に看病しようと……っ」
 黙り込んでしまった悟空の代わりとでもいうように、三蔵に言う八戒の言葉が途中で途切れる。三蔵の視線に気付いて……
「………分かりました。でも風邪が治ったら、すぐに迎えに来てあげてくださいね。」
 溜息と共に言葉を吐き出す。
 縋るような悟空の視線を感じた気がした。
「おい、八戒!」
 納得できないと、不平を洩らす悟浄に、
「仕方ないでしょう。悟浄、悟空と一緒に先に表に出ててください。」
 困ったような笑みを浮かべつつ、八戒は俯いたままの悟空の肩を抱くようにして悟浄に引渡した。
「………ったくよ……」
 頭をかき、悟浄は悟空の頭を抱えるように腕を回して、歩き始めた。
 異常に無口なまま、悟空はそれに従う。
 ぴぃ、と小さく鳴いてジープもその後を追った。

「さて、三蔵。訳を聞かせてもらいますよ。」
 有無を言わせぬような笑顔。
「チッ」
 三蔵は小さく舌打ちした。
「一体何だっていうんです?悟空……見ていられないくらい落ち込んじゃったじゃないですか。」
「………」
 八戒が言うのに、三蔵は無言のままで答えようとしない。
「言っときますけど、悟空を預かることでうちの食費はかなりかさみますからね。」
 暗に、預かる代わりに理由を聞かせろ。と言っているのだ。
「また、ぶっ倒れられちゃかなわん。」
 一言だけ言って、三蔵はそれ以上は語ろうとしなかった。
「………分かりました。」
 それだけで分かるはずはないが、これ以上聞いても答えてくれそうにはなかった。
 仕方なく八戒は引き下がる。
「まあ、今日一日おとなしく寝てれば、すぐ熱も下がるでしょうし……それじゃあ、帰りますね。」
 笑顔を残し部屋を出て行く八戒。
 その気配が消えるのを待ったかのように、
 ことん……
 傍の机に粥の載った盆を置き、三蔵はベッドに寝転がった。
「……チッ」
 いらだちが生まれる。

 ――また、ぶっ倒れられちゃかなわん

 それは本当の理由。
 三蔵の看病のためならば、あの小猿はいつかのように無茶をして自分まで寝込むことになるだろう。風邪がうつって……
 決して誰にも言いはしないが、それだけは避けたかった。
 ――『いつか』のようなことは、もう二度とごめんだ。

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