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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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悠久の戯れ【tactics】

オフラインで発行している本
「不入森の記憶(いらずのもりのおもいで)」のサイドストーリー(ちょっと過去話)
悠久の戯れ



√ ひととせ ひとのよ じゅうにつき

  ふたとせ ふくがみ おとずれて

 


 小さな女の子が楽しげに笑い声を上げていた。
 その幼い手がつく鞠が、と~ん、と~ん…と規則正しく単調な音を奏でていた。

 

 

√ やつとせ ややこは しがんのこ
  

と~ん、と~ん…


  鞠の音しか聞こえない
 人の手が入っていないかのような森。
 鳥の囀りも、葉ずれの音も聞こえない。
 


と~ん、と~ん…
 


 体が自分のものでないかのような…不思議な感覚に包まれる
 
 

と~ん、と~ん…

 

√ ここのえ はなさく おだいりは

  とおくに かすみが かかるそら

 
 

しゃ~ん…しゃ~ん…

と~ん、と~ん…

 

 混じる鈴の音
 次第に思考に霧がかかってくる
 

 

しゃ~ん…

と~ん…

 
 

 視界が…世界が狭まる
 鞠だけしか見えない……
 


しゃ~ん…しゃらん…

と~ん、と~ん…

 

しゃ~ん…

と~ん…

 
 

 視界が回る
 女の子の笑う声
 
 意識に霧がかかる
 鞠の音

 世界が…視界が…回る
 鈴の音




しゃん!

  

 一際大きく鈴の音が響いた瞬間…森も鞠も女の子も消えた。
 
 意識が闇に落ちた。

 

 

 
 
 

「はぁ~」
 溜息をつき、青年は向かっていた机にペンを投げ捨て、仰向けに寝転がった。
 色素の薄い髪の色が、サラリと畳に零れた。
 天井を見上げる瞳も、角度によって血の色を見せる程に薄い色合い。
 金髪碧眼の異国人が町を歩くようになった今の世が、この少し他人と違う容貌を目立たなくしていた。
 ……決して、奇異の視線や畏怖の蔑みがないわけではなかったが……
 歳相応とはいえない、どこか幼げな顔つきに浮かぶのは、眉根を寄せた難しい表情。
「いつになったら出られるんだろ…」
 呟いて、ゴロリと横になる。
 後輩が先に巣立って行くのにも慣れっこだったし、師が何も言わず好きにさせてくれているから、あまり気にしていなかったが…
「うるさいんだよ…蓮見は……」
 昨年入って来た後輩の一人が、一々厭味をぶつけてくるから、面倒だった。

 民俗学に至るには、理由があった。
 ……幼い頃から捜し続けている…彼の存在
 捜し求めるうちに、気付いたらここにいたのだ。
 
「人のやり方に、文句ばっかりつけて…」
 幼い頃から、人には見えないものが見えた。
 人には見えない存在と話ができた。
 人間は外見で判断するから…いつも、人に見えない彼らと一緒にいた。
 だから……

「ボクには、ボクのやり方があるんだ。」

 譲れない……思い。
 たくさんの「友達」が教えてくれた「彼」のこと。
 捜し求めて、さまよって。
 気がついたら、何年も同じ場所にいた。
 けれど……

「本当に…どこにいるんだろう」
 
 思考は、煩い後輩から…夢見続けてきた「彼」へと移っていった。

 
 

 

 

 夢を見た
 幼い頃の夢
 他の子より少し小さくて、皆と違う髪と瞳でいじめれていた…弱かった頃の……
 
 探しても皆が見つからない。
 深い森をさまよっていた
 結末は知ってる
 過去の事実だから

 

 

「もう、そんな時期か」
 開いた目が天井を映し、勘太郎は呟いた。
 いつのまにか、畳に寝転がったままで眠ってしまっていたらしい。
 苦笑を浮かべ、起き上がる。
 「じゃあ、行ってこようかな。」
 散らかったままの部屋はそのままに。
 勘太郎は、腰を上げた。
 身支度を整え、簡単に準備を整えて……
 足の向かう先は、幼い頃に過ごした地。
 夢の中で彷徨っていた…森。

 

  

√ ひととせ ひとのよ じゅうにつき

  ふたとせ ふくがみ おとずれて

 

 

 手鞠唄が、直接頭の中へと届く。

  勘太郎は、目の前にひっそりと佇んでいるかのような…人の手が入っていない深い森の中へと足を踏み入れた。

 手鞠唄は何時しか途切れ。
 代わりに聞こえてくるのは別の唄。
 幼子たちが手をとり輪になって、遊ぶ…神降ろし唄。
 
 がさがさと生い茂った木々や茂みを掻き分けて。
 けれど、獣道ではない道を遺す、そこを…勘太郎は迷うことなく真っ直ぐに進んでいた。
 しばらくすると。
 ふ…と、開けた場所へたどり着く。
 
 懐かしい場所。
 いつもの光景。
 手をとり、唄い遊ぶのは……大きな「子供」たち
 
 勘太郎は溜息をついた

「勘ちゃん、いらっしゃい。」
 大きなウロを持つ、巨大な樹木。
 朽ちかけた、祠。
 そして――
「久しぶりだね。」
 勘太郎は、目の前で微笑む少女へと声を掛けた。
「今日は、何をして遊んでるんだい?」
「見ての通りよ。」
 言いながら、勘太郎の手をとると、輪になっている大きな「子供」たちの方へと促す。
「かごめかごめ?」
「そう」
 少女は、嬉しそうに笑いかけた。
 「勘ちゃんはやらないの?」
 さりげなく、掴まれた手を解き立ち止まってしまった勘太郎に、少女は首をかしげた。
「……分かってるんでしょ?ボクが何をしに来たか。」
「――分かってるけど……」
 頬を膨らませる少女。
「ダメだよ。もう。」
 少しだけきつい口調で、勘太郎は少女を窘める。

 輪になっている者たちは、勘太郎と歳の変わらない――大人だ。
 今では、皆、それぞれ仕事についているだろう。
 子供の頃、一緒にいた子供達。
 ……といっても、いじめられていたわけだから、仲がよかったわけではない。
 けれど――
 
「やっぱり、勘ちゃんは…みんなを連れ戻す為だけに来るのね。」
 ぷい…と少女は拗ねたように祠の、半分朽ちた屋根に腰を下ろした。
「昔とは違うんだよ。」
「分かってるけど……」
 視線を逸らし、小さく溜息をつくと…それを合図としたかのように、手をつなぎ輪になっていた者達は、その場に崩れるように倒れ込んだ。
「鞠つき、したいんでしょ?」
 完全に拗ねてしまった少女に、勘太郎は溜息交じりに言う。
「………」
「毎晩毎晩、手鞠唄歌ってたでしょ?」
 言われて、少女は小さく頷いた。
「今日は、一緒に鞠つきしよう。だから――」
 

 

 忘れ去れて久しい杜。
 誰の訪ないも…関心すら持たれない――土地。
 
 大きな「子供」が集い、戯れる……場所。
 夢心地で少女と思い出を辿り、いつの間にか日常に還る。
 それは、昔にかけられた……淋しさの呪縛。
 
「また、来るからね。」
 寂しげに微笑み、勘太郎は、悠久の時間を湛え続ける深い森を振り返った。


 ――悠久の時間の中、とどまり続けていた記憶の……動き出す日が近づこうとしてい




まず、話の中に出した手鞠唄はこんな感じです↓
 ・手鞠唄・
ひととせ ひとのよ じゅうにつき(一年  人の世 十二月)
ふたとせ ふくがみ おとずれて (二年  福神  訪れて)
みとせで みつつご ひもおとす (三年で 三つ子 紐落とす)
よつとせ ようよう よへいじが (四年  漸う  与平次が)
いつつの いわいに はかまきた (五つの 祝いに 袴着た)
むぅとせ むかいの むすめごは (六年  向いの 娘御は)
ななつご しちいれ おびいわい (七つ子 質入れ 帯祝い)
やつとせ ややこは しがんのこ (八年  赤子は 此岸の子)
ここのえ はなさく おだいりは (九重  花咲く お内裏は)
とおくに かすみが かかるそら (遠くに 霞が  かかる空)

 数字と民俗事象を組み合わせようと、自作してみました。
とりあえず、「ひととせ」という言葉が浮かんできたんで、
実際に鞠をつく動きをしながら、出てきた言葉を繋げると…
子供の成長を中心とした民俗行事の内容に……何故だろう。
ちなみに、ネタ探しにぺらぺら捲った本は、手元にあった
和歌森太郎先生の『年中行事むかしむかし』でございます。

 贔屓目に見ても穴だらけなのは、自分で分かってますので、
あえて無視していただけると、とてもありがたいのですが…
時間軸的な設定は、蓮見さんが後輩として大学に入ってきて、突っかかってきていた(だろう)頃です。
勘ちゃんのことだから、それまで気にもしてなかったのに、「煩いなぁ」とか思っていたんじゃないかしら?
20代半ば~…と推測。現在の私くらいの年齢かしら?と勝手に推察。実年齢不明の為、推測の域は脱出不可能。

かごめかごめを、「神降ろし唄」と称してみました。理由は、原作内でも出てましたが、
子供たちによって行われるこの遊戯が、「地蔵つけ」などの神降ろしの為の儀式として行われる例が実際にあるからです。
私は、まだ書物上の知識としてしか知りませんが…

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