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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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聖夜の華 3【遙か3/弁望】

迷宮クリスマス捏造③
終わりを告げる幸福な夜。募ってゆく想いの行き先は?

3.幸福な贈り物



「それじゃあ、おやすみなさい。」
 私の家の前。
 そう言って弁慶さんが微笑んだ。

 部屋の明かりは、点いていない。
 それはつまり、留守だということ……
 私が、お隣でクリスマスパーティーをするのをいいことに、うちの両親は二人でディナーに出かけてしまったのだ。

「送ってくれて…ありがとうございました。あの…よければ、温かいお茶でも……」
「嬉しいお誘いですね。でも……君を連れ出して二人きりの聖夜を楽しんだ上に、ご両親も留守の家に上がり込んだりしたら……それこそ、皆から吊るし上げられてしまいます。」
「でも…」
「それに――」
 言い募る私に、弁慶さんは少し意地悪な笑みを向けた。
「君は、『送り狼』という言葉を知らないのかな?さっきは邪魔をされてしまったけれど……」
 冷たい指先が、私の顎を引き寄せる。
「えっ!?」
「僕が、どんな悪さをするか分かりませんよ?」
 パニック寸前の私の顔を暫く見つめた後、弁慶さんはにっこりと微笑んだ。
 顎から離れた手が、私の手をそっと握り…
「すこし苛めすぎましたね…すみません。」
 指へ軽く唇を押し付け……呆然とする私を面白そうに見ながらニ・三歩後ろに下がった。
 数瞬後、一気に顔に血が上ってくるのを感じた。
 冷え切っていた身体の温度が上昇する。
「かっ、からかわないで下さいっ!」
 真っ赤になった私が抗議するのを、いつもどおりに受け流しながら弁慶さんが微笑む。
「ふふっ……僕も、いい加減帰らなくてはいけません。今度こそ本当に…おやすみなさい。」
「――……」
 何を言っても、勝ち目はない。
 小さく溜息をつき、仕方なく私も微笑んだ。

「はい。おやすみなさい、弁慶さん。」
 手を振り、私は玄関の鍵を開けた。
「また、明日。」
「ええ。また明日も…君の可愛い笑顔を見せてくださいね。」
「っ!また、そんなことをっ!!」
 頬を染め、声を上げた私に、弁慶さんが手を振る。

 隣の家に帰るだけなのに…どうしてこんなに離れがたいんだろう……
 どうして、こんなに……寂しいと思ってしまうんだろう……

「あのっ!」
 ふと、思い出して私は閉じかけた扉をもう一度開いた。
 まだ、そこに佇んだままだった弁慶さんへ、
「お花、ありがとうございました。すごく…嬉しかったです!」
 そう告げた私の目に、すごく、珍しいものが映る。
 ……驚きに目を見開き、僅かに頬を染める…弁慶さんの姿が……
「おやすみなさい。」
 何だか、一勝を得た気分で…私は、もう一度そう言ってドアを閉めた。

 

 小さく息をつき…そっと、花束を胸に抱える。
 どんな表情で…弁慶さんは、この花束を選んでくれたんだろう……
 あまり想像できなくて…でも…とても幸せな…嬉しい気分になってくる。
 私のために、たくさんある花の中から選んでくれたのだと思うと…いけないのだと分かっているのに……胸の奥の愛しさが募ってしまう。

 しん……とした中、僅かに玄関先に物音を感じて、私はそっと扉を開いて外を覗いた。
 真っ白な雪の中、真っ白いコートの背中で…淡い色の髪が揺れていた。
 私の家から隣へと、ほんの短い距離を帰って行く背中を見送って…私は再び扉を閉めた。

 弁慶さんは、私に「幸福な時間をありがとう」と言ってくれたけれど……
 今夜、私は弁慶さんから、とても「幸福な時間」を貰った。
 花をそっと花瓶に生けて、私は、それをベッドのすぐ脇の棚へと乗せた。
 枕元から一番よく見えるところ。

 ベッドに寝転がって花を見つめていると、今夜のいろんなことを思い出す。

 手を繋いで歩いた光の道。
 伝わってくるぬくもりにドキドキしながら見上げた花火。
 人ごみの中かばってくれた…広い胸。
 白い欠片の舞い散る中…間近に迫った瞳……
 顎を捉えた冷たい指先と…手に触れた熱い唇……
 そして……僅かに頬を染めた……照れたような表情。

 胸の奥が切なくなって……私は、枕に顔を埋めた。

 ――眠ってしまおう。

 すぐそこまで出かかる声を抑えて…私は眠りについた。
 ……きっと、名前を口にしてしまったら…声に出してしまったら……この想いは…止められなくなってしまうから……

 

 

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