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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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荷馬車にゆられて【スレイヤーズ/ガウリナ】

偶然行き会ったのは、隣村の祭へ向かう人たち。
たまにはのんびりしてみよう?
ほのぼの。
荷馬車にゆられて



 ふと聞こえてきたのは、楽しげな、賑やかな、おしゃべりの声たち。

 

 

 振り返って、あたしたちは一瞬、呆気に取られてしまった。

 そんなに大きくはない荷馬車の上に、思い思いに着飾った人たちが、すずなりになっている。

 何事かと、思わず二人で顔を見合わせる。

 

「ねえ!どこへ行くの?」

 

 問いかけると、あたしと同い年くらいの女の子が、器用に荷馬車の上に立ち上がって笑った。

 

「ふもとの村まで♪」

 

 あたしたちが向かおうとしていた場所だ。

 夕暮れまでに着けないかもしれない…って思ってたとこだったから、

 

「乗せて行ってもらってもいい?」

 

 ダメ元で頼んでみると、意外や意外。

 おじさんは笑って、手で「乗ってけ」と示した。

 

 荷馬車の許容量、いっぱいいっぱいに見えるのになー。

 

 

 

 

 

「お祭り?」

 

 教えてくれたのはさっきの女の子。

「そう、今日は年に一度のお祭りよ♪

 あなたたちもそのつもりじゃなかったの?」

 

 とても不思議そうに聞いてくる。

「知らなかった。」

 あたしが答えると、

「楽しみましょうよ、私達と一緒に。」

 横合いから、きれいに着飾ったおばさんが誘ってくれた。

「賑やかだよ、今日の祭りは。」

 おじさんも笑う。

 

 距離の離れた隣の村から、この人たちは、わざわざ祭りの為に麓の村まで行く途中らしい。

 

「なんでわざわざ、遠い隣の村まで?」

 聞くと、

「お祭りはの日はね特別なの。

 お祭りの日だけは、みんな仕事も休み。悩むのも休み。」

 

 明るい笑顔で、女の子はそう答えた。

 

 この辺の村々じゃあ、お互いにお祭りを行き来するのが当たり前らしい。

 

 のんびりと道を行く荷馬車に風が吹き抜けて、みんなの髪や服に飾られた花から花びらが舞う。

 

「そう。

 普段の苦労なんか忘れて、今日は目一杯楽しむのよ!」

「今日は、仕事の話は一切なし!だよ」

 

 明るい、陽気な笑い声が、荷馬車の上に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手拍子が聞こえる。

 笑い声が聞こえる。

 歌声も聞こえる。

 たくさんの人。

 みんな着飾って、お酒を飲んで、ステップを踏む。

 

 

「ガウリイ、あたしたちも踊ろう!」

「踊れるのか?リナ。」

「大丈夫。だって、あんな小さい子も踊ってるわよ。

 それにいいのよ、そんなの好きに踊っちゃえば。」

 

 苦笑するガウリイを引っ張って、踊りの輪の中へ入って行く。

 気取った舞踏会でもあるまいし……

 

 村のお祭りの踊りに、規則なんてない。

 

 宿の女将さんは、そう言ってあたしたちを送り出した。

 わざわざあたしに、この辺りの民族衣装まで貸してくれて……

 

 

 適当に、軽く踏んだステップで、スカートの裾がふわりと舞った。

 

 ふと気づいたら、荷馬車で会った女の子と目が合った。

 お互いに軽く手を振って笑い合う。

 

 

 

 

 

 今日は『特別』な日。

 何かも忘れて、ただただ楽しむ日。

 

 ちょっと遠くに離れていても、みんなで荷馬車にゆられて集まって。

 いつもの苦労なんて、今日だけは忘れて、陽気に歌う日。

 明日からはまた、いつもの生活が始まるから。

 今日だけは、いつもと違う時間を過ごす。

 明日は、何が起きるか分からないから。

 今日は、明日からを生きるために、楽しむ日。

 

 あたしたちも、今日はいつもの生活を忘れて、村の人達と笑い合う。

 魔道士と剣士じゃなくて……

 今日だけは、ただの『リナ』と『ガウリイ』になって、楽しもう。

 

 さっき、おじさんが言ってた。

 どんなに悲しいことや辛いことがあっても、あきらめたりなげやりになったりしたくないから。

 だけど、明日は昨日よりほんの少しでも幸せであるために、今日だけはくよくよするのも忘れて踊るんだって。

 

 あたしたちも、たくさんの事に遇ってきたから、今日は…今日くらいは……

 明日が幸せであるために、みんな忘れて、はしゃごう。

 

 

 偶然出会った荷馬車にゆられて、偶然出会ったのは……ささやかな、心の休息。明日への活力。

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