荷馬車にゆられて【スレイヤーズ/ガウリナ】 2006年06月06日 スレイヤーズ/ガウリナ 0 偶然行き会ったのは、隣村の祭へ向かう人たち。 たまにはのんびりしてみよう? ほのぼの。 荷馬車にゆられて ふと聞こえてきたのは、楽しげな、賑やかな、おしゃべりの声たち。 振り返って、あたしたちは一瞬、呆気に取られてしまった。 そんなに大きくはない荷馬車の上に、思い思いに着飾った人たちが、すずなりになっている。 何事かと、思わず二人で顔を見合わせる。 「ねえ!どこへ行くの?」 問いかけると、あたしと同い年くらいの女の子が、器用に荷馬車の上に立ち上がって笑った。 「ふもとの村まで♪」 あたしたちが向かおうとしていた場所だ。 夕暮れまでに着けないかもしれない…って思ってたとこだったから、 「乗せて行ってもらってもいい?」 ダメ元で頼んでみると、意外や意外。 おじさんは笑って、手で「乗ってけ」と示した。 荷馬車の許容量、いっぱいいっぱいに見えるのになー。 「お祭り?」 教えてくれたのはさっきの女の子。 「そう、今日は年に一度のお祭りよ♪ あなたたちもそのつもりじゃなかったの?」 とても不思議そうに聞いてくる。 「知らなかった。」 あたしが答えると、 「楽しみましょうよ、私達と一緒に。」 横合いから、きれいに着飾ったおばさんが誘ってくれた。 「賑やかだよ、今日の祭りは。」 おじさんも笑う。 距離の離れた隣の村から、この人たちは、わざわざ祭りの為に麓の村まで行く途中らしい。 「なんでわざわざ、遠い隣の村まで?」 聞くと、 「お祭りはの日はね特別なの。 お祭りの日だけは、みんな仕事も休み。悩むのも休み。」 明るい笑顔で、女の子はそう答えた。 この辺の村々じゃあ、お互いにお祭りを行き来するのが当たり前らしい。 のんびりと道を行く荷馬車に風が吹き抜けて、みんなの髪や服に飾られた花から花びらが舞う。 「そう。 普段の苦労なんか忘れて、今日は目一杯楽しむのよ!」 「今日は、仕事の話は一切なし!だよ」 明るい、陽気な笑い声が、荷馬車の上に広がった。 手拍子が聞こえる。 笑い声が聞こえる。 歌声も聞こえる。 たくさんの人。 みんな着飾って、お酒を飲んで、ステップを踏む。 「ガウリイ、あたしたちも踊ろう!」 「踊れるのか?リナ。」 「大丈夫。だって、あんな小さい子も踊ってるわよ。 それにいいのよ、そんなの好きに踊っちゃえば。」 苦笑するガウリイを引っ張って、踊りの輪の中へ入って行く。 気取った舞踏会でもあるまいし…… 村のお祭りの踊りに、規則なんてない。 宿の女将さんは、そう言ってあたしたちを送り出した。 わざわざあたしに、この辺りの民族衣装まで貸してくれて…… 適当に、軽く踏んだステップで、スカートの裾がふわりと舞った。 ふと気づいたら、荷馬車で会った女の子と目が合った。 お互いに軽く手を振って笑い合う。 今日は『特別』な日。 何かも忘れて、ただただ楽しむ日。 ちょっと遠くに離れていても、みんなで荷馬車にゆられて集まって。 いつもの苦労なんて、今日だけは忘れて、陽気に歌う日。 明日からはまた、いつもの生活が始まるから。 今日だけは、いつもと違う時間を過ごす。 明日は、何が起きるか分からないから。 今日は、明日からを生きるために、楽しむ日。 あたしたちも、今日はいつもの生活を忘れて、村の人達と笑い合う。 魔道士と剣士じゃなくて…… 今日だけは、ただの『リナ』と『ガウリイ』になって、楽しもう。 さっき、おじさんが言ってた。 どんなに悲しいことや辛いことがあっても、あきらめたりなげやりになったりしたくないから。 だけど、明日は昨日よりほんの少しでも幸せであるために、今日だけはくよくよするのも忘れて踊るんだって。 あたしたちも、たくさんの事に遇ってきたから、今日は…今日くらいは…… 明日が幸せであるために、みんな忘れて、はしゃごう。 偶然出会った荷馬車にゆられて、偶然出会ったのは……ささやかな、心の休息。明日への活力。 PR