薫風渡る初夏の空【スレイヤーズ/ガウリナ】 2006年06月06日 スレイヤーズ/ガウリナ 0 セリフ少な目。糖度濃密。 爽やかで長閑な初夏の空気を味わってください 薫風渡る初夏の空 どことなく甘い感じのする薫りが吹き込む、宿の部屋の中。 そよ風に揺れるのは、窓辺のカーテン。 なんとなく、ゆっくりしたくて滞在した街。 何か珍しい特産があるわけでも、美味しい名物があるわけでも、古い寺院があるわけでもない……普通の街。 ただ一つあるとすれば、それはちょっと長閑な雰囲気。 そんなこの街にも、微かに初夏の足音が近づいてきていた。 窓際に椅子を持って来て、リナは読書に没頭していた。 さぁ……っ 吹き込んできた風に、カーテンが軽く波打つ。 読んでいる本の内容が頭に入ってこないのに気づいて、リナは小さく苦笑を浮かべた。 「春眠暁を覚えず……とは、よく言ったものだわ」 呟き、小さく伸びをして、頭にかかった眠気のモヤを払う。 ふと、視界の端に何かが光った気がした。 視線をめぐらす……と、思わず笑みが零れる。 「……そういや、いたわね。」 傍らのベッドに、金糸……もとい金色の長い髪が広がっていた。 ――正しくは……、金色の髪の長身の男が、そこに寝転がっている……と言うべきだろうか。 ぱたん… 本を閉じて立ち上がると、リナは、椅子の上に本を置いてベッドに歩み寄った。 「まったく……気持ち良さそーに寝ちゃって……」 ぎっ… 軽くベッドを軋ませて、リナはベッドの端に腰を下ろした。 肩越しに、安らかな寝息を立てている連れの寝顔を見ながら、そっと手を伸ばす。 触れたのは金色の髪。 指の間をさらさらと零れてゆくその感触に、リナは小さく頬を膨らませた。 「男のクセに、何でこんなにキレイな髪してんのよ。」 髪を指に絡ませて、手を持ち上げる。 じっと見つめて……リナは、その髪にそっと唇を押し当てた。 ――と、その時。 「ふえ?……わきゃっ 」 急にバランスが崩れて、リナはベッドに倒れ込んだ。 ベッドの、連れの、上に…… 「ちょっ!なっ、何すんのっ!」 がばぁっ! と体を起こして、リナは声を上げた。 倒れ込んだ先と、直前にしたこととに顔を真っ赤に染めて。 「ガウリイっ!離しなさいよっ!」 楽し気に笑っている、バランスを崩した原因 ―長年の旅の連れガウリイ― に掴まれている手を振りほどこうともがく。 ……ベッドについて体を支えていた手を、いきなり引っ張られたのだ。 「リナ♪」 名前を呼んで、 「なによ …って ちょっ!」 リナが一瞬動きを止めた隙に、 「わきゃっ!」 強く、手が引っ張られる。 リナが慌てて、あいているほうの手で体を支えると、ガウリイの手が伸びた。 「え?」 捕らえられたのは、栗色の髪。 する……、と指にリナの髪を絡ませるガウリイ。 「これでおあいこな。」 にっ、と笑って、ガウリイは驚いて目を見張るリナの目の前で、彼女の髪に軽くくちづけた。 「っ!?……って! あっ、あんた、いつから起きてたのよっ!」 真っ赤になって叫ぶリナに、 「お前さんがオレの髪にキスする直前かなー。」 ガウリイはしれっ、と答えた。 「ひきょーものぉっ!」 「どっちがだ?」 「ッ……」 言葉に詰まったリナに、ガウリイは微笑を浮かべ、髪に触れていた手をそっと、頬へと移動させた。 「リナ……」 呼びかける声はそよ風の薫りより甘くて、見つめてくる瞳はよく晴れた今日の空より蒼くて…… ふんわりとカーテンが揺れる。 髪が風に軽く揺れる。 導くように、頭を引き寄せられて…… リナは瞼を閉じた。 夏の始まりを告げる初夏の風が、部屋のカーテンを軽く揺らし始めていた。 END PR