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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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お菓子と金庫【文スト・乱夢主】

劇場版小説読んでて浮かんできた金庫の中の駄菓子と絡めたSS
帰る場所」のオマケみたいなもの
お菓子と金庫



 荒れ果てた探偵社の部屋の中。
 床に落ちた金庫を拾い上げ、机の上に散らばるものを床に落としてそこに座り込む。
 金庫の扉を開ければ詰め込んであった中身が零れ出た。
 入れてあった駄菓子を取り出そうとして、不意に頭を過った考えに肩を竦めた。
「馬鹿馬鹿しい」
 ぽいと口の中に駄菓子を放り込み明け始めた空へと視線を向けた。

 静寂を破って、開け放たれた扉の外から慌ただしい足音が聞こえてくる。
「おかえり」
 室内の惨状に足を止め息を飲んだのを背中で感じながら声を掛ければ、振り返る間もなく背中に軽い衝撃と熱が伝わった。
「君が無事で良かった」
 背に抱きつき腹に回された細腕にそっと触れる。体を小さく震わせる様子に、少し前に過った馬鹿馬鹿しい考えが浮かんできた。
 嗚呼、まったく……冷たい指先を掴み抱きつく腕を解いて振り返れば、今にも泣き出しそうな顔がそこにあった。
 解けて乱れたいつもはきっちりと結い上げられた髪へと手を伸ばしては撫で、煤やら何やらで汚れた頬に触れては撫で、目尻から零れ落ちた涙を指で拭った。
「そんな顔させるくらいなら」
 両手を伸ばして抱き寄せる。背を優しく叩けば胸に顔を埋めて抱きついてくるのを更に強く抱き締めた。
「駄菓子と一緒に君も金庫の中に隠しておけばよかった」
 耳元で囁けば驚いた顔をするのを眉尻を下げて見つめる。今の自分の顔は少し情けない表情になっているだろうと思った。
 こんな顔は君以外に見せられるわけない……などと思いながら抱き締めた体を机の上に引き上げる。 胡座をかいた上に抱き上げれば、いつもならばやめてくれと嫌がるのに大人しく従う。
 自分と同じなのに違う厄介な彼女。きっと一晩中この街を駆けずり回ったのだろう。起こっていたことは大体分かっている。けれど想像も及ばぬ光景が彼女の目にはたくさん焼き付いたはずだ。
「君が見たもの聞かせて」
 頷き話し出すのを、金庫の中から出した駄菓子を二人で食べながら聞く。

 皆が戻るのはもうしばらく後だろう。それまでは、金庫の中に隠して守れなかった分この腕の中に大切に閉じ込めておきたいと思った。

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