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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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帰る場所(DA捏造)【文スト・乱夢主】

あまりの出番のなさに勢いに任せて書いた夢小説

≪注意≫
劇場版ラストの捏造なので見てない方はネタバレ注意。
捏造と独自解釈が甚だしいので閲覧注意。

帰る場所(DA捏造)



 急くような足音が社屋のビル内に響くのが聞こえ、乱歩は息を吐いた。

 開け放たれたままの扉の前で一度止まった足音。
 荒れ果てた室内の様子に息を飲み、窓辺で朝日に陰る背中を見つけ足を踏み出した。
 それは間違いなく乱歩が腰を下ろした机へと真っ直ぐに向かってくる。
 振り返らずとも、誰何せずとも分かる。乱歩は手にしていた菓子の袋を机に置いた。

「おかえり」
 近づいてくる人物に向けて振り返りもせず声を掛ければ、背中に何かがぶつかるのが分かった。
「君が無事で良かった」
 そっと腹に回された細腕に触れ声を掛ければ、背中に押し付けられたぬくもりが小さく蠢いた。
 小さく震える手を取り、背中からの拘束を解く。
 そうして、乱歩は机の上に座ったまま振り返った。
 手を伸ばし乱れた髪に触れる。いつもはきっちりと結い上げられた長い髪が解けて乱れていた。
「ひどい顔」
 煤と血と泥に汚れてしまった白い顔を、両の手で包み込み汚れを拭うように撫でた。
「らんぽ、くん……」
 ぽろぽろと涙を零し、幼子のように泣き崩れる顔。
「もう大丈夫だ。君も、僕も、皆も、この街も」
「うん」
 乱歩の胸に顔を埋め抱きついてくる体をそっと抱きしめる。
「沙希ちゃん、怪我とかしてない?大丈夫?」
 髪を撫で、背を宥めるように叩く。
 うんうんと頷く沙希の背を、そっかと答えて抱き寄せた。

 彼女も乱歩と同じで異能者ではない普通の人間。ただ、異能の影響を受けない特異体質なだけだ。
 その所為で、霧に包まれたヨコハマの中で乱歩には体験し得ぬことに遭ったのだろう。
 霧の中で何が起きていたか……乱歩にはそれが想像がついていた。
 異能者が己の異能で死ぬという状況。
 この探偵社の社員たちも、それぞれに自分の異能と対峙したはずだ。
 それは分かっていた。
 分かっていたけれど、乱歩はそれを誰にも告げなかった。
 それに意味がないからだ。
 告げたところで回避できない。
 そして、告げてしまっては意味がないことも分かっていた。
 分かっていて傍観者を決め込んだ。
 分かっていて敵方に入り込んだ太宰と同じだ。

「君も、見当はついてたんだろ」
 机の上に抱き上げ胡坐をかいた膝に沙希を乗せる。
 珍しく、大人しく膝に納まった沙希が泣き腫らした目で頷いた。
 澁澤の件で、沙希は昨日の内にヨコハマに戻っていたのだ。
 夜には事が起こる可能性が高いことも、察してはいた。

「わたしには、何もできないから……」
 むしろ、沙希の仕事はこれからだ。特務課との間の調整で走り回らねばならないだろう。
「それは僕もだ」
 乱歩の顔に浮かんだ自嘲の笑みに、沙希は目を瞬かせた。
「異能者同士の戦いに名探偵は必要ないからな」
 肩を竦め少し拗ねたような顔をしたのを見て、沙希はくすりと笑った。
「何笑ってるの?」
 ぐにと頬を摘ままれ、目を瞬かせる沙希。
「ちょ、やめて」
「君のほっぺたは大福みたいだね」
 乱歩に笑いながらむにむにと頬を弄られ、沙希は唇を尖らせた。
「沙希ちゃん」
 不意に乱歩が優しく目を細め沙希を見つめる。
「何が起きていたか、ゆっくり聞かせて」
「え……あ、うん」
 頬を摘まんでいた指が、するりと顔の輪郭を辿る。
 あっ、と漏らした沙希の声が乱歩の口の中へと消えてゆく。
 間近にある瞳にお互いが映り込んでいるのに気付き、ふと乱歩が唇を離す。
「目くらい閉じれば?」
「だって、急に……ッ!」
 言葉を遮ってまた重なる唇に、沙希は目を閉じた。
「帰ってくるまで、まだしばらくかかるだろ」
 僅かに離れた唇が言い訳のように零して、また重なる。
 沙希は両腕を伸ばして乱歩に抱きついた。
 とくんとくんと少しだけ早い鼓動が伝わってくる。
 生きているのだと実感する心臓の脈打つ音に、一気に安堵が押し寄せた。
 ぽろりと頬を転がり落ちた涙を、乱歩が舐め取って沙希を強く抱きしめる。
「君は僕の所に生きて必ず帰って来ないとだめだから」
「うん」
 頷き笑う沙希を、乱歩は眩しそうに見つめた。

 朝日がガラスを失った窓から直接部屋を照らす。
 傍らの金庫から乱歩が駄菓子をひとつ取り出した。
 指先に挟まれた駄菓子が沙希の口元に差し出され、大人しく開かれた口の中へと放り込まれた。
 ぽつりぽつりと沙希が語る言葉の一つ一つに乱歩は耳を傾ける。

 朝日を背に寄り添いながら、他の社員たちが戻るまで二人だけの時間が過ぎた。






END






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