目を覚ましたら【文スト・乱夢主】 2020年11月22日 文豪ストレイドッグス 0 ※名前・設定あり創作夢主注意 女夢主一人称 これでもこの二人は付き合ってない・・・(ナゼ?) 目を覚ましたら 目を覚ましたら、子供の頃に出たはずの実家だった。 嗚呼、そうか。わたしは夢を見ていたのだ。 此処から逃げたいと思うあまり、妄想の世界を生きていたのだ。 夢だったのだから、ほら、もう大切な人の顔も声も霞んでいく…… 「………………ちゃん!」 少しでも留めておきたくて、ぎゅっと目を閉じる。 「沙希ちゃん!」 この、わたしの名前を呼ぶ大切なあの人の声だけでも…… 「沙希!」 大好きな声に名前を呼び捨てられて、わたしは目を開く。 「え……、あれ?乱歩、くん?」 わたしの顔を覗き込むように、すぐ目の前にある見慣れた顔。 わたしはまた妄想の世界に?と目を瞬かせれば、開かれていた真剣な目がほっとしたように細められた。 「気がついた?」 問われて、わたしは首を傾げる。 探るようにじっと私を見つめる瞳。 そうして、何か考えるように頭に乗る帽子に手をやった彼は、大きく溜め息を吐いた。 「此処はヨコハマの武装探偵社の医務室」 よいしょ、という掛け声に続いてぎっと軋む音が聞こえた。 わたしの横たわるベッドに彼が腰を下ろしたのだ。 ベッド?わたしはあの家でベッドになんて寝ていただろうか? 「君は14で家を出て、18の時に僕に出会って、21の時にこのヨコハマで僕と再会した」 うん。そういう夢を見てた。 「はぁー、まったく」 まだぼんやりしてるの?と呆れた顔を向けられる。 「再会したあと君は武装探偵社に入って僕とは隣人になった……それから、君は大きな怪我をして一度死にかけたけど今もこうやって探偵社の一員で僕の隣人で……」 ぎっと軋む音。 急に近付いた顔。 開かれた目がわたしを射竦める。 「…………え?」 耳に当たる息が擽ったい。 「僕の大事な人だ」 どきりと跳ねた鼓動。 え、なに、これ。 妄想にしても都合が良すぎて……わたしはそんなに現実逃避したかったの? 「君はまだこれが夢だとか思ってるのかも知れないけど、これは現実だよ」 現実? うそ、こんな現実あるわけない。 だってわたしは…… 「いつまで大昔の悪夢に囚われてるつもり?」 「あっ!」 わたしは目を見張る。 唇に触れてるのは何? わたし、これ、知ってる。 「ん……っ」 入り込む舌にぎゅっと目を閉じる。 知ってる……この熱も感触も息遣いも、みんな知ってる。 あれ?わたし、どうしたの? わたし、確か…… 嗚呼、そうだ! 息苦しくて体を押し返せば、ぺろりと唇を舐めてから彼は離れていった。 「わたし……」 そうだ、久しぶりに地方から戻ってきた探偵社は運悪く襲撃を受けてる最中で、過去のトラウマから一瞬反応が遅れたんだ。 襲撃者は現れた社員と思しき女――わたしをいいカモと思ったか襲ってきて……それを思いっきりぶん投げた。そして…… 「なんで一緒に階段落ちるかな……」 呆れたような乱歩くんの言葉に苦笑を浮かべた。 「足場が悪かったかも」 「まったく。やめてよね」 心配かけてごめんなさいと謝るわたしの額に落とされるキス。 「ちょっ!」 「与謝野さんは事務所の片付けでいない」 耳もとで悪戯っぽく囁く声。 そういう問題ではない。 「体、大丈夫?頭、打ったみたいだけど……」 氷枕が頭の下にあるのに気付いた。 「無意識に受け身は取ってたみたい」 「そっか」 するりと額を撫で、指が髪を梳く。 これが、此処が、わたしの現実。 捨てた過去に戻る気はない。 手を伸ばせば、仕方ないなぁと笑いながら手を繋いでくれた。 このぬくもりがわたしの真実。生きてる証。 「君の居場所は此処だ」 「うん」 わたしの大切な場所、大切な人たち、そして大好きな人。 「君のこと、元の場所になんか帰さないから」 「ありがとう」 笑う乱歩くんに、わたしも笑みを返した。 了 PR