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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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まったりした時間にお題を5つ【遙か3/弁望】

ゲーム中・1周目京
弁神子風味のほのぼの系
まだ先を知らない神子の1周目のお話。

【まったりした時間にお題を5つ】お題配布サイト「1141」様より



01.ベッドから抜けられない朝

 「寒い…」

  目は、ぱっちりと覚めた。
  けれど…

  もぞもぞ、と望美は夜具に潜り込む。
  眠っているうちは気にならなかったけれど、目が覚めてしまえば気になるのが朝の気温。
  毛布だとか暖房だとか、寒さを防ぐものに囲まれて育った望美にとって、どこからともなく絡みついてくる寒さが辛い。
  ふ…と、この世界へやってくる直前の朝のことを思い出す。

  あと5分~…と母に訴えて布団の中で丸まっていた朝。
  不意に、懐かしさが涙を伴って溢れてきた。
  誰も起こしに来ないことと、頭まで夜具を被っていることを免罪符に、望美は小さく鼻をすする。

  ――今…だけ、だから……

  この、自分の体温でぬるめられた空間が愛おしい。
  ここだけは、一人きりの空間。
  だから…今だけは一人の少女に戻らせてほしい。
  もう少しすれば、朔か譲が起こしにやってくるだろう。
  朝ごはんだ…と。
  そうすれば、この空間を飛び出してゆく。
  自分を待ってくれている、皆の元へ……

  ――あ…そういえば

 「今日は、一日、お休みだったっけ……」

  袖で涙を拭って、望美はごろり…と寝返りをうった。
  浮かんできたのは、今度は苦笑。
  ならば、少しぐらいの寝坊は許してもらえるだろうか…

 「望美、起きているかしら?」

  足音と衣擦れの音を伴って、朔の声が聞こえてきた。

 「あと5分~~」

  部屋のすぐ外で、朔が、聞きなれぬ言葉に戸惑う気配がした。
  くすくす、と小さく笑いながら夜具から顔を出す。
  涙で少し濡れた頬が、外気に曝されてひんやり感じる。

  ――5分もあったら、乾く…よね……



02.ひなたぼっこ

 「神子、ここは、あたたかいね。」
 「そうだね。」

  隣で、望美と同じように縁から下ろした足をぶらぶらさせながら、幼い姿の白き龍の神が笑顔を向ける。
  春もほど近いこの季節。
  朝晩は冷え込むけれど、陽の光が空気を温ませてしまえば、ぽかぽかと気持ちが良い。

 「おや、望美さん。」

  不意に掛けられた声。
  望美は、声の主を確かめようと、顔を上へ向ける。
  両手に書物を抱えて、邸内ですら黒い衣を纏った弁慶が、望美と白龍へ穏やかな微笑みを向けて立っていた。

 「あ、弁慶さん。」
 「ひなたぼっこですか?」
 「はい。ここ、とっても暖かいんですよ。」
 「弁慶も、一緒に、ひなたぼっこする?」

  振り返った二人に向けられた視線。
  どちらも、無邪気にきらきら輝いていた。
  思わず、弁慶は苦笑を浮かべる。

 「そうしたいのは、やまやまなんですけれど…」
 「だめなんですか?」
 「ひなたぼっこ、神子と一緒で、心地よいよ?」

  白龍の言葉に、目を瞬かせた望美が頬を僅かに染めた。
  ひなたぼっこと同等だと言われるのは、さすがに少し照れくさいらしい。

 「ふふっ、望美さんのように優しくてあたたかい…ということですか?」
 「うん!」
 「ちょっ!弁慶さん!?」

  ほんの少し悪戯心が湧き上がった弁慶が問うと、白龍は嬉しそうに頷いた。
  本格的に頬を赤く染めた望美は、スカートの裾を弄りながら俯いてしまった。

 「……では……」

  傍らへ書物の山を置いて、弁慶が微笑む。
  望美と白龍の間へと、わざとらしく、弁慶は腰を下ろした。

 「僕も仲間に入れていただきましょう。」




03.こたつの誘惑

 「あったかいですね、これ。」
 「望美さん、手を診せに来たのではなかったんですか?」

  火桶の前を陣取って暖をとる望美に、弁慶は呆れたように溜息をついた。
  先程おずおずと部屋を訪れた望美は、夕餉の片づけを手伝っていて椀でぶつけたのだと、弁慶に手を診せに来たのだ。

  ――どうすれば、椀で……

  そこまで考えて、おそらくは落としかけた椀を慌てて受け止めようとしたのだろうと予測する。
  きっと、わたわたとお手玉した挙句、ガツン…と……
  その想像が、当たっているのだと弁慶が知ることはないのだが。

 「望美さん。」

  外は、日が落ちてから徐々に気温も下がっている。
  この分では、今夜は冷え込むだろう。
  春とは、本当に名ばかりだ。

 「だって、このぬくもりが…」

  ――こたつみたいなんだもん

  ぬくぬくと肩までこたつ布団に埋まって、「そんなところで寝たら風邪をひく」なんて怒られても抜け出すことなんて出来なかった、冬の一等席。

 「ぶつけた場所を、あたためるなんて…」
 「あ……」

  しまった、という顔をして望美は、後ろ髪を引かれる思いで火桶から離れる。

 「ひどくぶつけたわけではないから、熱を持ったりはしないでしょうけれど…」

  言いながら手を取る弁慶の指の冷たさに、望美は小さく体を震わせた。

 「ああ、すみません。冷たかったですか?」
 「え、あ、大丈夫…です。」

  ひんやりとした手が患部をなぞり、薬草の匂いのする軟膏を塗り込めてゆく。
  塗られた軟膏は、望美の体温で温められて更に匂いを強くした。

 「ありがとうございます。」

  片づけを始めた弁慶に礼を告げ、望美は待ちかねたように…また火桶へ突進してゆく。
  そんな姿に、弁慶は苦笑を浮かべた。

 「君の部屋にもあるでしょう?」
 「そうなんですけど……」

  一旦ここで暖に当たってしまったからには、外に出る…とか、部屋が暖まるまで待つ…とか、というのが辛い。
  そう苦笑交じりに言った望美に、弁慶は小さく溜息を吐いた。

 「だからといって、いつまでもここにいるわけにもいかないでしょう…」
 「う……」

  いい加減、部屋に戻らねばならない。
  けれど、このぬくもりからは離れがたい。

 「えーっと、ここで寝ちゃ………だめですよね……」




04.ひざまくら

 「足、痺れてきた……」

  眉を顰めて、望美は視線を落とした。
  さやさや、と吹き込んでくるのは心地よい春の風。
  すやすや、と幼い姿の龍の神が、望美のひざまくらで気持ちよさそうな寝息を立てていた。

 「……動いたら起きちゃうよね…」

  ピリピリとし始めていた脚は、そろそろ感覚がなくなり始めている。
  どうしたものか…と、望美はできるだけ自分の動きが白龍へ伝わらぬよう周囲を見渡した。

 「望美?」

  ふと後ろから掛けられた声。
  朔が、景時と共に立っていた。

 「何か探し物かしら?」
 「朔、景時さん。」

  二人に苦笑を向け、望美は白龍を指差す。

 「まあ。」
 「よく寝てるね~」

  くすくす、と朔が小さく笑う。
  景時が、望美の隣にしゃがみこんで白龍を覗き込んだ。

 「そうなんだけど…足が痺れてきちゃって…」
 「あらあら。」

  起こすのもかわいそうだ。
  けれど、そろそろつらくなってきていた。

 「おや、どうかしましたか?」
 「何をしているんだ?」

  聞こえてきたのは二種類の問いかけの声。

 「しーっ!九郎さん、声が大きいです。」

  唇の前に人差し指を立て、望美はしかめっ面をして見せた。

 「な、なんだ!?」
 「白龍が起きちゃうよ。」

  しゃがみこんだまま九郎を見上げて、景時が言う。
  ああ、と弁慶がこれだけの人数が集まってきているというのに、一向に目覚める気配のない白龍へと視線を向けた。

 「ふふっ、君のひざまくらは気持ちいいみたいですね。」
 「ちょ!弁慶さん!?……ッ、痛ったぁ…」

  弁慶への抗議の声を上げた途端、望美が眉を顰める。

 「望美さん?」
 「足が……」
 「痺れたのか?」

  頷く望美に、朔と景時、そして弁慶が苦笑を浮かべて白龍へと視線を向けた。
  九郎は……

 「なら、白龍を起こせばいいだろう。」
 「って!九郎さん、ダメですよ。」
 「なぜだ。」
 「だって、かわいそうじゃないですか。」
 「そうですね、こんなに気持ちよさそうに寝ているんですから。」

  望美だけでなく弁慶にまで言われて、九郎が眉を顰めた。

 「でも……」

  心配そうに望美に視線を送る朔。

 「ん………」

  もぞ…と、白龍が小さく身じろぎした。
  ゆっくりと瞼が持ち上がり、まだ少し眠そうに目を擦る。

 「あ、白龍、起きた?」

  ほっとした顔で、起き上がる白龍へ声をかける望美。
  こくん、と頷き、二度三度瞬きすると、白龍は突然顔を輝かせた。

 「ぷりんの においがする!」
 「へ?」
 「プリン?」
 「そういえば……」

  足音が聞こえた。
  白龍が、きょろきょろと周囲を見渡す。

 「あれ、皆ここにいたんですね。」
 「譲、ぷりん!」

  盆を手にした譲が顔をのぞかせ、白龍が、そちらへ駆け寄る。
  思わず顔を見合わせ笑い出した面々に、譲は不思議そうな顔をした。

 「分かったから、白龍、ちゃんと座らないとあげないぞ。」
 「うん!」

  さやさやと吹き込んでくる、温かな春の風。
  部屋を満たすのは穏やかな時間と甘い香り。




05.至福のひとときです

 「弁慶さんって、本っ当に本が好きなんですね。」

  呆れたような望美の声に、弁慶は読み耽っていた書物から視線を上げた。

 「望美さん?」

  僅かに頬を膨らませ、山になった書物へ頬杖をついた望美が、弁慶をじっと見つめていた。
  どことなく不機嫌そうな表情に、弁慶は一瞬たじろぐ。

  ――いつの間に……

 「私、何回も弁慶さんのこと呼んだんですよ!」

  ――え?

  部屋の外から何度か呼んで、返事がないから部屋に入って弁慶を探した。
  見つけたから、何度か声をかけたけれど……

 「何回呼んでも、全然気づかないんだもん。」
 「え、ああ、すみません。」

  手にしていた書物を脇へ置き、弁慶は望美へ向き直った。

 「それで、僕に何か用ですか?」
 「もう!」

  ばん!と勢いよく立ちあがり、望美は腰に手を当てて弁慶を睨みつけた。

 「文字の読み書き教えてくれるって、約束してたじゃないですか!!」

  ――そういえば……

 「忘れてましたね?」
 「いえ、失念していたというか……」
 「忘れてたんですよね?」

  数日前、龍神の神子に関する書物を読んでみたいけれどこの世界の文字が分からないと肩を落としてしまった望美に、読み書きを教えると約束したことを思い出す。

 「これを読む前までは覚えていたんですよ。」
 「……読んでるうちに忘れちゃったんですか!?」

  呆れて、望美はそのまま溜息とともに座り込んだ。

  ――この部屋もすごいけど……

 「じゃあ、すぐに始めましょうか。」

  にっこりと微笑んで、弁慶は散らかった文机の周りを片づけ出す。
  ……と言っても、書物は別の山を形成し、それ以外のものは周囲に追いやられただけだが……

 「あ、はい!」

  望美は、きっちりと正座をして弁慶に向き直った。

 「ふふっ、そんなに緊張しなくても…」
 「あ、でも……」

  なんとなく、チャイムが鳴って教室に先生が入って来たような気持ちになってしまう。
  それも、書道や古典の授業の……
  少し得体のしれない何かを学ぶ…という緊張感。

 「君が読みたいと言っていたものを、一緒に読んでいきましょうか。」
 「え?」

  教えてくれる…というのだから、手習い用の本何かを一からやると思っていた望美は、目を瞬かせた。

 「興味のあるものなら、身につきやすいでしょう?」

  そう言って弁慶は、龍神についての記録の一冊を手に取ると、望美の隣へと座り込む。

  ――ち、近いよ…

  一瞬跳ね上がった心音。
  ちらり…と盗み見れば、すぐ間近に弁慶の整った顔。
  望美は、慌てて、広げられた書物へ視線を落とした。


  文字を追い、言葉を文章を説明しながらの丁寧な授業。
  学校の先生も、こんな風に分かりやすく教えてくれれば勉強も嫌いにならないのに…と思いながら、望美は徐々に引き込まれてゆく。

  ――君という人は……

  真剣に紙面を見つめる望美の横顔を、弁慶は確かめながら教えてゆく。
  表情のころころ変わる望美は、理解できた所と分からない所の判断がすぐにつく。

 「……弁慶さんって……」

  不意に、望美が顔を上げた。
  向けられた笑顔に、不意に騒ぐ胸の内。

 「教え方上手なんですね!」

  ――ああ……

  それは、一人きりの読書よりも甘美な……至福のひととき。



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