穏やかな時間
いい天気だった。
はたはた…と、春風に揺れる洗濯物。
望美は、洗濯という一仕事を終えて、庭に面した縁に座って、はためく洗濯物を見上げていた。
「洗濯、終わったんですね。」
「はい。」
ひょい…と顔を覗かせた弁慶は、つい先ほどまで、文机に向かって何かを書き付けていた。
「弁慶さんも書き物、終わったんですか?」
「ええ、おかげさまで。」
紙や筆を片付ける音がして、弁慶が望美の隣へとやってきた。
「何書いてたんですか?お手紙?」
「いいえ。覚書のようなものです。」
たわいもない会話。
穏やかに過ぎてゆく時間。
「ね、弁慶さん。」
「何ですか?」
隣に腰掛けている弁慶ヘと微笑みかけて、望美は小さなおねだりをする。
「一緒に、どこか行きませんか?」
「どこか…ですか?」
「はい。お散歩……というかデートです。」
たまには、二人っきりで外を歩きたいと思った。
「だって、とってもいい天気でしょう?家にいるのは勿体無いです。」
「……そうですね。幸い、今日は誰も来ないようですしね。」
殆ど毎日のように、患者の訪れる日々。
こんなに長閑な日は珍しい。
だから……
「あ、途中から薬草採取とかダメですからね。」
「君も、厄介ごとに首を突っ込むのはダメですよ。」
互いに小さく釘を刺す。
今日は、ちょっとだけ日常から離れて…
ゆっくり過ぎてゆく時間を満喫しよう。