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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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光の輪舞~冬の夜の輝き~【遙か1/鷹あか】

京ED後
鷹通さんBD記念。
思い出した現代の冬の風景。それを鷹通に見せたくて…
光の輪舞~冬の夜の輝き~



 この世界に暮らすようになって、どのくらいの月日が流れただろうか……

 遠く東や北に見える山々の、赤や黄色の彩りも薄れ…吐く息も白く見えるようになってきた。

 元の世界では、様々な暖房器具が冬の寒さを解消してくれていたが、ここにそんなものはなく……

 足元から這い上がってくるような冷気を温ませているのは、傍らの火桶。

 寒い寒いと連呼する、この世界の冬を初めて経験する神子のために…と藤姫が通常より多めに暖めてくれているせいか、小さな姫君が飼う子猫は、いつもこの部屋で丸くなっている。

 

「猫って寒いの苦手だもんね。」

 膝元で丸まっている猫を撫でて、あかねは、くすくすと笑う。

「神子様のお部屋が、一番あたたかいですもの」

「ごめんね、やっぱりすぐには慣れないよ…」

 微笑んだ藤姫に、あかねは苦笑を返す。

「仕方ありませんわ。」

「でも……寒くなったよね。」

 

 この世界に来たのは春。

 まだ、桜の花が咲いていた。

 全てが終わって……あかねはこの世界へと残ったのだが、全然違う生活スタイルだ。

 なにもかもが初めてのこと。

 戸惑いや驚きばかりの日々を過ごしていた。

 

 

「そうですわね。」

 葉を落とした庭の木々を見ながら、藤姫が頷く。

「師走も半ばですから……まだしばらく、春は遠いですわね。」

「12月…かぁ……」

 脳裏を過ぎった元いた世界での12月の風景を思い出し、あかねは小さく溜息をついた。

「そうだ!あのね……」

 

 

 にっこりと微笑んで、あかねは藤姫に話して聞かせる。

 光に彩られた、美しい冬の夜の風景を……

 

 

「それはとても綺麗なのでしょうね……」

 話を聞いた藤姫が、うっとりと思いを馳せるように呟いた。

「うん。通りの木とか、家とか、色んなところに明かりを灯すんだよ。」

「神子様の世界には、そんなに素敵なものがあるのですね。」

 

「そうだ!」

 声を上げて、突然あかねはその場に立ち上がった。

 ふにゃぁっ!と、丸くなっていた猫が驚いて藤姫の側へと逃げてゆく。

「神子様?どうされたのですか!?」

「ね、こっちの世界でもできないかな?」

 勢い込んで振り返るあかねに、藤姫は目を瞬かせる。

「その、光の飾りを…ですか?」

「うん。この庭に全部…っていうのは無理かもしれないけど、一角だけでいいの。」

 藤姫の目の前に座りなおして……

 あかねは、その理由を話し始めた。

 

 少し前から考えていた…とある特別な日のことについて――

 

 

 

 

 

 

 

 
*     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段、そんな文を寄越すことなどないのに……

 

 ――二十二日の夜、必ず来てください。

 

 先程手元に届いたのは…拙い文字で記された短い一言。

 年の瀬の慌しさにかまけて足を運べない日々が続いていることへの催促だろうか?

 それとも、何か大切な用件があるのだろうか?

 頭の中を巡っていく、様々な考え。

 

 あの戦いの末、この世界へ留まってくれた異世界の少女。

 我が儘とも言える願いを聞き届けてくれた想い人は、これまで…決して寂しいなどとは一切口にせず、逆に…忙しい自分を心配してくれる。

 

 ここ暫く顔も見ていないことを思い出して……積まれた紙の束へと恨みがましく視線をやりながら、鷹通は溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 
*     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

「神子様、このくらいで足りますでしょうか?」

 

 かき集めてきたのは無数の灯芯。

 さすがに、これだけの油を一所に集めると、少し鼻をさす匂いがする。

 庭に面した縁の上に並ぶのは、小さなカワラケが複数枚。

 

「ありがとう。これだけあればなんとかなると思う。」

 にっこりと微笑んで振り返ったあかねは、縁から庭にいる自分を心配そうに見る藤姫の方へと駆け寄った。

 

「そのお召し物…久しぶりですわね。」

 紫苑の水干に袖を通したあかねの姿に、藤姫が微笑む。

「こういう作業には、こっちの方が向いてるから。」

 少し、制服のスカートが寒い…とは思ったが、動き回っているうちに気にならなくなっていた。

 

 両手にカワラケを抱えて、庭の一角と縁との間の…何度目か分からない往復を繰り返しているあかねを、女房たちも興味深げに見守っていた。

 

「神子様は、いつも不思議なことを思いつかれますわね。」

「この度のことは…あの方への贈り物にされるのだとか…」

「ですが……どれほど美しいものなのか、興味深いですわ。」

 

 口々に噂する女房たちも、あかねがしでかす「この世界ではあり得ないこと」に慣れっこになっていた。

 恐らくは…この京の、どの邸勤めの者たちよりも、思考が柔らかくなってしまっているのだろう。

 

 

 

「電飾がないんだから、これでなんとかするしかないもんね。」

 小さなカワラケを、枝にのせたり、上手く吊ったりしながら、庭の一角を改造してゆく。

 設置し終えたら油を注ぎ灯芯をつけて、火を灯すだけだ。

 日が暮れるまでは、まだ時間がある。

 

「よし!あと少し、がんばらなきゃ!!」

 慌しく動き回るその横顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 
*     *     *

 

 

 

 

 

 すっかり日が暮れてしまった空の下、なんとか仕事を終わらせた鷹通が藤姫の館へと到着した。

 

「お待ちしておりました。」

 

 いつもと違い、どこか浮き足立ったような館の様子に、鷹通は首を傾げる。

 取り次いでくれた女房も、何か含んでいるようで落ち着かない。

 案内され部屋に向かうと、その前で待っていたのは藤姫。

 視線をめぐらすものの…あかねの姿は見えなかった。

 

「ようこそおいでくださいました。」

 

 藤姫の笑顔も、いつもと違う。

 ますます不可解だ。

 

 眉を顰めてしまった鷹通に、

「鷹通殿。神子様は、あちらでお待ちです。」

 藤姫は部屋ではなく庭を指した。

 促され庭に降りた鷹通の背に、藤姫の声が届く。

「ゆっくりしてくださいましね。」

 耳に届く衣擦れの音。

 肩越しに振り返ると…そそくさと、と言う方がしっくりくるように、藤姫も女房たちもその場を後にするのが見えた。

 

 この寒い中…何を考えているのだろう…

 あかねの突拍子もない思い付きに慣れ始めていたが、今回は、さすがに心配になる。

 

「あかね殿?」

 声を掛けながら、藤姫に示された植え込みへと向かうと……

「こっちです、鷹通さん。」

 弾んだような声が聞こえた。

 その声に誘われるように歩を進めると………

 

「これは……」

 

 目の前には光に包まれた少女の姿。

 鷹通はその場に立ち竦んでしまった。

 

 

 

 

 

 驚いてその場に佇んだままの鷹通の姿に、あかねは苦笑を浮かべた。

 

 なんとか日暮れに間に合った「京風イルミネーション」は、油断すれば簡単に火が消えてしまうから、しっかりと監視していなくてはならなかったから… 鷹通が到着したら、直接ここへ来てもらうよう頼んであったのだ。

 

 

「これ…は?」

 ようやく我に返った鷹通が、あかねの傍へ歩み寄る。

「この時期に、私の世界では…こんな風に光で飾り付けをするんです。」

 

 

 視線をめぐらせて、あかねは説明する。

 クリスマスイルミネーション…という風物詩を。

 

 好きな人と一緒に見てみたい…友達と、そんな話をしたのも懐かしい思い出だ。

 この世界に来て、何者にも変えがたい愛しい人と出会って…この地に残ってから数ヶ月。

 自分がいた世界のことを話すたびに、興味深げに目を見張る鷹通のことが、日毎愛しく思う。

 ……あの世界で、一緒にクリスマスイルミネーションを見ることは叶わないけれど……

 

 

「今日は、鷹通さんの誕生日でしょう?だから……」

 にっこりと微笑んで、あかねは話す。

 

 クリスマスを共に過ごすことよりも…

 この世界では、誕生日を祝うことはない。

 けれど、二人出会えたことは…たとえ異なる世界であったとしても生を受けたから……

 だからこそ、心からの祝福を送りたかった。

 

 

「お誕生日、おめでとうございます。鷹通さん。」

「あかね…殿……」

 不意に抱き寄せられる。

 すっかり冷え切っていた身体に、ぬくもりが伝わる。

 

 二人をめぐり逢わせてくれた白き龍の神へ…あかねは、心の中で感謝の言葉を送った。

 

 

 

「一体どうやって?」

 凛とした冬の空気の中、時折揺らめく小さく灯った火。

 肩を抱き寄せられ、二人並んで輝きを見つめながら…鷹通が問う。

「藤姫にお願いして、灯明をたくさん用意してもらったんです。」

 

 イルミネーションの話を藤姫にした日。

 どうやれば、ここで同じようなものを作れるかと考えた末の方法だった。

 

「今朝から、ここに設置したんですよ。」

「お一人で…ですか?」

 頷いた少女が愛しくて……

 言葉が浮かんでこない。

「でも、準備するのも…凄く楽しかったです。」

 

 大変なことも、楽しいと言い切ってしまう。

 出会った頃から変わらない…真っ直ぐな心。

 太陽のように、明るく…どこまでも照らし続ける愛しい人。

 

「ありがとうございます。」

 冷え切ってしまった頬に手を触れ、そっと唇を重ねる。

 

 

 

 ひらり…舞い落ちてくる風花。

 ゆらり…と揺れる輝き。

 現実と、どこか遠く離れてしまったかのような風景。

 

 

 

「この風景も…いつまでも見ていたいですが……」

 手をとり促される。

「このままでは風邪を召されてしまいます。」

「鷹通…さん?」

 

「だから――」

 眼鏡の奥で、優しい瞳が見つめる。

「部屋へ戻りましょう。」

「はい……」

 頷いて頬を染めた少女を、幻夢の世界から現実の世界へと呼び戻す。

 

 

 

 

 

「冬の……夜の時間は長いから………」

 

 室内に灯されていた僅かな灯明が消えて……

 

 別の夢の時間が…始まる。

 

 

 

 

 

 

 
 終

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