ちかいきょり 3【雅恋/和彩】 2010年12月18日 雅恋~MIYAKO~ 0 【ちかいきょり 和彩】3 外から吹き込む心地よい風が、几帳を揺らす。 毎日がとても忙しいんだろうけど…… まるで、そこが自分の部屋であるかのように、和泉はわたしの部屋の中で寛いだ様子を見せていた。 「君が傍にいてくれるから、すごく落ち着くよ。」 「だからって、寛ぎ過ぎじゃない?」 足まで伸ばして座っている和泉に、わたしは苦笑を浮かべた。 「さっきまで、いつ見つかるか冷や冷やしてたんだよ? それに、宮中にいてもライコウが毎日うるさいし……さ。」 悪戯っ子のような顔で和泉が言う。 「たまには俺も、ゆっくり寛ぎたいよ。」 ああ、和泉はやっぱり和泉だ。 そんな何気ないことに、何だか嬉しくなる。 何より、わたしがいるから落ち着ける……寛げるって言ってくれるのが嬉しい。 だけど…… 「抜け出してくるから、冷や冷やしなきゃいけないんだよ?」 呆れたように和泉へと視線を向けて、わたしはため息交じりに言った。 「誰かさんが会いに来てくれなかったからね。」 「そ…それは……」 それは、神泉苑でも言った。 会いに行けるわけなんてないって、思っていたから。 会いに行っちゃいけないって、そう決めていたから。 「うん、分かってるよ。彩雪。」 言葉と共に向けられるのは、 優しい声。 優しい瞳。 優しい…… 「和泉……」 わたしの大好きな本当の笑顔が、すぐそばにあった。 頭を撫でてくれる手の感触が、心地いい。 けれど―― ほんの一瞬、切なそうに寄せられた眉根。 そして翳りを見せた瞳。 それを疑問に思うより先に、頭を引き寄せられた。 「……ん…」 額に触れる柔らかい髪。 すぐそばにある瞳。 唇に軽く触れた熱。 一度触れたそれは、すぐに離れていって……吐息を感じる程そばで、和泉がわたしを見つめた。 そっと目を閉じれば、再び吐息が交わされる。 今度はすぐには離れていかず、熱を互いに分け合い混じり合わせるように何度も啄ばむように重なった。 「……ッ……ぅん……」 少し息苦しくて、縋りつくように和泉の襟元を握り締める。 まるで、それを合図としたかのように、触れて熱を交わし合うだけだった唇が違う動きを見せた。 「……んんっ……」 「さ…ゆき……ッ……」 吐息混じりに呼ばれる名。 熱のこもった甘い響きに、頭の芯がじんとした。 「……ぁ…」 いつのまにか背に回っていた和泉の両腕が、わたしを強く抱きしめる。 もっと近くに…… わたしも、縋りついていた手を伸ばして和泉の首へと腕を回す。 深く、熱く、重なりあい、絡み合い……交わってゆく。 つぅ…と頬を伝い落ちていったのは、一滴の涙。 こんな近くに、和泉がいる。 一度は諦めたはずの想いだったのに…… 喜びに胸が震えた。 【ちかいきょり4】へ PR