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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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ちかいきょり 5【雅恋/和彩】

【ちかいきょり 和彩】5




 さらさらと。

 微かな声と吐息だけが満ちていた部屋に響いたのは、衣擦れの音。

 解かれてゆく、身を包んでいた衣。

 それは、互いの熱を感じ合うためには不要な……もの。

 あらわになる肌に触れてゆく指先が、唇が、熱い軌跡を残してゆく。

 思わず隠してしまおうとしても、強い力が、それを許してくれない。

 だから、わたしは目を固く閉じて、あの恥ずかしい声を堪えるのに必死だった。

 

 

「ねぇ……彩雪?」

 

 突然。

 寂しげな声が聞こえて、わたしは、はっとして目を開いた。

 そこには、わたしを見つめる切ない色の和泉の瞳。

「俺じゃ、君のこと…気持ちよくしてあげられない?」

 何を言われたのか、一瞬分からなかった。

「え……?」

 思わず目を瞬かせたわたしに、和泉は言葉を続けた。

「だって、俺が何をしても…君は、声を聞かせてくれないから……さ。」

 

 え?

 えぇっ!?

 だってそれは。

 恥ずかしいから……

 なんて、そんな恥ずかしいこと言えるはずない。

 それなのに――

 

「なんだか、自信なくしちゃうなぁ……」

 はぁ…と溜息を吐いて、わたしを見つめる和泉。

「あ…あの……和泉?」

「彩雪の可愛い声、全部聞きたいって思ってたのに……俺じゃダメなのかな……」

 すごく落ち込んだように項垂れてしまった和泉に、わたしは慌ててしまう。

 

 ど…どうしよう……

 

「は……ッ」

 わたしは真っ赤になっている自覚はあったけれど……思わず言葉を吐き出した。

「恥ずかしい……からッ……だから……」

 じっ…と和泉がわたしを見つめてくるのが分かった。

 わたしは、恥ずかしくて顔も見れない。

「……恥ずかしいから、声、我慢してたの?」

 問われて、わたしは頷いた。

「じゃあ……俺に触れられて、気持ちいい?」

 わたしは、もう一度頷く。

 

「――ふふふっ」

 聞こえてきたのは、小さく笑う声。

「あはは……本当に可愛いなぁ、彩雪は。」

 そして、続いて聞こえたのは弾むような声。

 

 え?

 ええ?

 まさか……

 もしかして……!

 

「和泉っ!」

 

 騙された。

 全部分かってて、和泉は……っ!

 

「ごめん、ごめん。だけど寂しかったのは本当だよ。」

 そう言って、和泉はわたしに口付けた。

 

 でも応えてあげない。

 いじわるされたんだから、当然だよね?

 

「許して?彩雪。」

 それには答えず、ぷいとそっぽを向く。

 小さく、和泉が溜息を吐くのが聞こえた。

 

 そして――

 

「そうやって拗ねても可愛いんだから……さ。だから、我慢できなくなるんだよ?」

 低く抑えられた声が、凄く間近で……わたしの耳を擽った。

「えっ?……あッ!?」

 無防備になっていたのは事実。

 完全に意識の逸れていたわたしは、突然のことに堪えることも忘れて声をあげてしまう。

 すごく恥ずかしいのに、止められ……ない。

 

「俺しか聞いてないんだから、我慢なんてしなくていいんだからね?」

 そんなこと言われても、恥ずかしいのは恥ずかしい。

「和泉の……馬鹿…ッ……」

 けれど、そんな抗議の言葉も恥ずかしいっていう思いも。

 与えられる熱に、全て……溶かされていった。

 

 

 

 

 触れ合う肌と肌は、互いの熱を交わらせ……

 近くにいるんだと、

 すぐそばにいるんだと、

 狂おしい程に、愛しさが溢れてゆく。

 

 ぬくもりも

 吐息も

 熱も

 声も

 何もかもが溶け合って……

 高まってゆく感覚すらも、共有し合って……

 

 何度も、何度も、「彩雪」と名前を呼ばれながら。

 わたしの意識は、いつしか――

 あたたかな白い光の中へと落ちていった。



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