ちかいきょり 1【雅恋/和彩】 2010年12月20日 雅恋~MIYAKO~ 0 エピローグ後捏造 参号一人称 【ちかいきょり 和彩】1 「もう少し君といたいんだけど、ダメ…かな?」 不意にそう言った和泉に、わたしは首を横に振った。 だって。 わたしも、まだ一緒にいたかったから。 「じゃあ、送るよ。」 「うんっ!」 微笑んで頷いたわたしへと、先に立ち上がった和泉は、手を差し延べて少年のように笑った。 その手に自分の手を重ねれば、ぐいと強く引かれ……わたしの体は勢い余って和泉の胸に倒れ込んでしまう。 「あっ、ごめんなさい!」 思わず口をついて出た謝罪の言葉とともに、慌てて身を離す…… 「和泉?」 離そうとしたけれど、ぎゅっと抱きしめられてしまって動けなかった。 「あの……」 様子を窺おうと顔を上げてみれば、緩やかに笑みの形に弧を描いた唇。 ついさっき、自分からそこへ触れたことを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。 「彩雪。」 ほとんど吐息だけの囁きが、わたしの耳を柔らかにくすぐる。 あ……れ? わたしを見つめる瞳に浮かぶ表情が、口元に浮かぶ笑みとは正反対のものの気がした。 けれど、それは一瞬のことで…… 目は口ほどにものを言う…っていうけれど、和泉の目は、その両腕と同じように……わたしが離れることを許してくれない。 「お、送ってくれるんじゃなかったの?」 じっと見つめられているのに耐えられなくて、上げた声は上擦っていた。 ああ、もう……わたしってば…… ほら。小さく、くすくすと笑っているのが聞こえてきた。 ぐいっと両腕を伸ばせば、今度はすんなりと体が離れてゆく。 「うーん。もう少しこうしていたいなーって、思ったんだけどな。」 「もう!」 赤くなった顔のままで、わたしは和泉を睨んだ。 絶対、わたしの反応を見て面白がってる…… そんな確信があった。 「…………」 微笑み。 そして、伸びてきた和泉の手が、わたしの前髪をそっとかき上げる。 「え?」 触れたのは柔らかなぬくもり。 「行こうか。」 するりと繋がれた手と手。 くい…と引かれて、わたしは促されるまま歩き出すのだった。 【ちかいきょり 2】へ PR