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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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ちかいきょり 1【雅恋/和彩】

エピローグ後捏造
参号一人称

【ちかいきょり 和彩】1




「もう少し君といたいんだけど、ダメ…かな?」

 不意にそう言った和泉に、わたしは首を横に振った。

 だって。

 わたしも、まだ一緒にいたかったから。

 

「じゃあ、送るよ。」

「うんっ!」

 微笑んで頷いたわたしへと、先に立ち上がった和泉は、手を差し延べて少年のように笑った。

 その手に自分の手を重ねれば、ぐいと強く引かれ……わたしの体は勢い余って和泉の胸に倒れ込んでしまう。

 

「あっ、ごめんなさい!」

 思わず口をついて出た謝罪の言葉とともに、慌てて身を離す……

「和泉?」

 離そうとしたけれど、ぎゅっと抱きしめられてしまって動けなかった。

 

「あの……」

 様子を窺おうと顔を上げてみれば、緩やかに笑みの形に弧を描いた唇。

 ついさっき、自分からそこへ触れたことを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

「彩雪。」

 ほとんど吐息だけの囁きが、わたしの耳を柔らかにくすぐる。

 

 あ……れ?

 わたしを見つめる瞳に浮かぶ表情が、口元に浮かぶ笑みとは正反対のものの気がした。

 けれど、それは一瞬のことで……

 目は口ほどにものを言う…っていうけれど、和泉の目は、その両腕と同じように……わたしが離れることを許してくれない。

 

「お、送ってくれるんじゃなかったの?」

 じっと見つめられているのに耐えられなくて、上げた声は上擦っていた。

 ああ、もう……わたしってば……

 ほら。小さく、くすくすと笑っているのが聞こえてきた。

 ぐいっと両腕を伸ばせば、今度はすんなりと体が離れてゆく。

「うーん。もう少しこうしていたいなーって、思ったんだけどな。」

「もう!」

 赤くなった顔のままで、わたしは和泉を睨んだ。

 絶対、わたしの反応を見て面白がってる……

 そんな確信があった。

 

「…………」

 微笑み。

 そして、伸びてきた和泉の手が、わたしの前髪をそっとかき上げる。

「え?」

 触れたのは柔らかなぬくもり。

「行こうか。」

 するりと繋がれた手と手。

 くい…と引かれて、わたしは促されるまま歩き出すのだった。



【ちかいきょり 2】へ

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