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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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二人だけの聖夜【遙か1/鷹あか】

現代ED後
2010年BD小説
クリスマスより一足早く訪れる、大切な日。

二人だけの聖夜




 弾む足取り。
 うきうきとする気持ち。
 
 クリスマスを前にしたこの時期、クリスマスと同じくらい心を浮き立たせるものが、あかねにはあった。
 
「どうしたの?なんだか嬉しそうね。」
 
 長い黒い髪をさらりと揺らして、親友――蘭が、首を傾げて見つめてきた。
 とても可愛らしい親友。
 きっと、世に言う「親友」というものよりも……ずっと、ずっと、強い絆に結ばれた大切な親友。
 
「え?」
 
 目を瞬かせて、あかねは蘭を見つめ返した。
 
「……って、ああ!」
「蘭?」
 
 そんなあかねを見つめていた蘭が、不意に微笑んで手を叩いた。
 そうよね。と、得心したように頷いて、一人で完結してしまった蘭に、あかねは首を傾げる。
 
「もうすぐクリスマスだものね。そういう時期よね。」
 
 赤と緑で彩られた商店街の飾り付け。
 街路樹は、たくさんの発光ダイオードでキラキラと彩られていた。
 クリスマスが近いことを教えてくれる風景は、蘭に、もうひとつ別のことも教えてくれる。
 
「ッ!?」
 
 真っ赤になったあかねに、くすくすと楽しげな笑みを向けながら蘭は歩く。
 ふわりと制服の裾が広がった。
 この制服も着慣れたな……と頭の片隅で思いながら、赤い頬を膨らませながら追いかけてくる親友を振り返る。
 
「今年は大丈夫なの?」
 
 問われて、一瞬足を止めたあかねが、にっこりと微笑んだ。
 
「今年はバッチリ!だよ。」
 
 以前の騒動を思い出して、お互い顔を見合わせて苦笑する。
 
「高校最後だもんね。」
「そうだね。」

 出会ったこと。
 今があること。
 祈りと感謝を捧げる神は、二人にとっては、こことは違う遠い世界の龍の神だけれど……
 どれだけ感謝してもし足りないと思う。
 
 

「あれ?」
 
 蘭が小さく声を上げた。
 そして前方を指差す。
 
「ねえ、あれって……」
 
 言いかけた途端、あかねが駆け出した。
 一瞬呆けてしまって、すぐに我に返った蘭は苦笑を零した。
 とりあえず追いかける。
 もともと、あかねの時間つぶしに付き合っていたのだから、先に帰ることだけ告げよう。
 ついでに少しからかっていってもいいかもしれない。
 
 ――いつもいつも見せつけられてるんだもの、少しくらいいいよね?
 
 そう思いながら、前方からやってきた「彼」へと駆け寄って行ったあかねを追いかけた。
 

 

 

「鷹通さん!!」
 
 弾んだ声に呼びとめられて、鷹通は足を止めた。
 少し息を弾ませ、出会った頃より伸びた髪を揺らした少女がにっこりと微笑んだ。
 
「え?待ち合わせは……」
 
 この先の公園で、四半刻――30分後ごろに待ち合わせていた筈の相手が突然現れて、鷹通は目を瞬かせる。
 
「姿が見えたから、思わず……」
 
 苦笑を浮かべて答えれば、鷹通の表情は直ぐに微笑みに変わった。
 走って少し乱れたあかねの髪を、そっと指先で直し、鷹通は問いかける。
 
「お二人で時間まで買い物でもしていたんですか?」
 
 そうだと頷こうとしたあかねは、「二人」という言葉に、蘭を置いて走ってきてしまったことを思い出して慌てて振り返った。
 
「邪魔者は、さっさと帰るけど?」
 
 少し意地悪な笑みを浮かべて歩み寄ってきた蘭に、あかねは眉を下げた。
 
「ご、ごめん!」
「今度、ケーキセット……ね?」
「え!?」

 目を見開いてしまったあかねに、蘭はくすくすと笑った。
 そんな二人のやりとりを、眼鏡の向こうから優しく見守る鷹通。
 とんっ、と蘭はあかねの肩を叩いた。
 
「じゃあ、また明日。」
 
 手を振り、踵を返す蘭。
 
「ええ、蘭殿また。天真殿にもよろしくお伝えください。」
「ご、ごめんね、ありがとう!また明日!蘭。」
 
 手を振り、蘭の後ろ姿が人混みに見えなくなるまで見送る。
 そして――
 二人同時に互いを振り返った。
 視線が合って、思わず、ふと逸らす。
 なんとなく、今さらだとも思うけれど、少し照れくさい。
 
「え…えっと……」
「ど、どうしましょうか。」
 
 友人であり、かつては共に戦った仲間でもある蘭の兄・天真辺りからは、中学生カップルか!?とでも、からかわれそうな雰囲気を纏いつつ、二人はどちらからともなく歩き出した。
 あかねから言い出した今日のデート。
 どこか、行く店の当てがあったわけでもなくて……
 ただ、いつもの場所でいつもの時間に待ち合わせ。としか決めていなかった。
 
 結局。
 商店街を少し歩いた先にあった喫茶店へと入る。
 以前に数度立ち寄ったことのある静かな店。
 取り揃えられた紅茶と自家製クッキーが楽しみな店だ。
 
 カラン…とドアベルが軽やかに響く。
 クリスマス前だからか、それほど混んでいなくて、少しホッとした。
 一番奥の席に二人向かい合って座る。
 なんとなく……通りから離れた席に座るのが癖になっていた。


「それで……」
 
 テーブルに並んだ紅茶のカップと数種類のクッキーが載った皿。
 それを前に、鷹通が切りだした。
 
「あ。」
 
 思わず居住まいを正して、あかねは、つい…と視線を落とした。
 
「あかね殿?」
 
 呼ばれて、意を決したようにあかねはカバンの中から包みを引っ張り出す。
 そして、一瞬躊躇しながら……鷹通と視線を合わせた。
 
「鷹通さん。」
 
 自分でも、顔が熱いのが分かった。
 きっと、真っ赤になっているんだろう。
 でも、目的は果たさなくては。
 
「今日、鷹通さんの誕生日だから……これ。」
 
 上手く笑えてるだろうか。
 そんな不安も過るけれど、あかねは、その小さな包みを手渡した。
 
「鷹通さん。お誕生日、おめでとうございます。」
 
 ふわり……と、心が舞いあがった。
 返ってきた微笑みが、あかねを幸せな思いでいっぱいにする。
 
「ありがとう、ございます。」

 
 少しずつ。
 毎年。
 積み重ねてゆく、二人の想い出。
 幸せを贈りあい、届けあう。
 
 出会えたことも
 好きになったことも
 互いの想いが叶えられたことも
 今ここで共にあることも
 
 軌跡なのかもしれないけれど……
 夢ではない現実。
 
 他の人たちより先に訪れるこの日こそ、二人にとっての聖夜。



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