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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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無防備【雅恋/和彩】

和泉クリア後に公式サイトの開発ブログ覗いた時に見た、寝惚け?和泉絵が原因(笑)

エピローグの後、少し経った頃ではなかろうか…と推測
多分、妙な矛盾発生は起きてないと思うけれど……
何か妙な所あっても、適当にスルーしてもらえるとありがたいです


無防備




 もぞもぞ……と傍らで動く気配を感じて、わたしは目を覚ました。

 

 外は、そろそろ太陽が顔を出す頃だろうか。

 空気に混じる匂いは、夜のそれではなくなっていた。

 夜明け前に起き出しては家事をこなしていた日々からの変化には、まだ慣れていなくて……

 体の方が先に目を覚ましてしまうのか、今のようなちょっとした切欠で意識が覚醒してしまう。

 

 ――えっと、あれ?

 

 そういえば、今、目を覚ました切欠があった筈だと思い出して、月や星のものではない薄明かりの中でわたしは傍らへと視線を向けた。

 最初に目に入ったのは、柔らかそうな髪。

 そして、次に……

 

 ――あ……

 

 思わず目を見開いて、わたしは苦笑を浮かべる。

 冬も近づいて、明け方の冷え込みも増してきているというのに……

 わたしは慌てて、いつの間にか出てしまっていた彼の肩に衾を掛けた。

 

 ――そろそろ、起きた方がいいかな……

 

 そんな風に思いながら、けれどまだもう少しこのままでいたいような気もして、わたしは口元を綻ばせる。

 多分。

 わたしが目を覚ます切欠になった寝返りで、向こうを向いてしまったのだろう。

 彼の背中がわたしの目の前にある。

 昼間は幾重に纏っている衣も、眠る時は薄い単だけ。

 けれど、その背中はわたしを安心させる。

 わたしの方が彼を守らなければいけない筈だったのに、何度この背中を見ただろう。

 不意に、じんわりと目頭が熱くなってきて、わたしは単の袖で零れそうな涙を先に拭ってしまった。

 そんなに前のことじゃないのに、とても懐かしい。

 一度は、もう二度とまみえることも叶わないと……

 気付いてしまった想い全て心に封じ込めてしまうつもりだったのに。

 

――触れたら起こしてしまうかな……

 

 ぬくもりに触れたくて、けれど…そうすることで忙しいこの人の貴重な休息を邪魔してしまいそうで……わたしは躊躇してしまう。

 結局。

 小さく頭を振って、わたしは伸ばしかけた手をぎゅっと握り自分の元へと引き戻した。

 

 ――起きよう。

 

 そろそろ、部屋に入ってくる外からの空気が朝のものになりつつある。

 本当は、きっと、まだ起きなくてもいい時間なのだろうけれど。

 わたしが「わたし」として目覚めてからの長くはない時間とはいえ、身についてしまった習慣は簡単に抜けそうにもなかった。

 彼を起こしてしまわないように褥から抜け出し、簡単に身支度を整えて足音を忍ばせながら部屋から出る。

 まだ、ここは静かだ。

 夜が明ける頃には、徐々に人々の声が増えてくるのだろうけれど……

 今は、少しだけ早起きの鳥たちが、チチチッと囀っている声ぐらいしか聞こえてこない。

 

「んー!今日はいい天気になりそう。」

 

 誰の目もないことを確認してから、わたしは大きく伸びをした。

 こんなところ誰かに見られでもしたら、何を言われるか……

 ほとんど強引に、わたしがここにいられるようにしてしまったのだから……彼が。

 あの日のことを思い出し、表情が緩む。

 脳裏に甦る、神泉苑での想い出を辿っていると……

 

 カタン……

 

 微かに室内から音がした。

 起きてしまったのかな。

 それとも、また寝返りでも?

 そんな風に思いながら振り返ると、足音が聞こえてきた。

 

 ――ああ、起きたんだ。

 

 そう思って、わたしは御簾の内側を覗きこむ。

 外からの光だけが唯一の光源の室内は、朝日に慣れた目にとっては暗くて、わたしは目を眇めて室内を見回した。

 

「彩雪?」

 

 名を呼ばれた。

 わたしのことを探しているのだろうか……

 ほんのしばらく前まで、「参号」「式神ちゃん」と呼んでいた同じ声が、わたしがわたしである証の名を呼んでくれる。

 それが嬉しくて、実は、まだ少しくすぐったい。

 

「和泉、起きたの?おはよう。」

 

 わたしはそれに応えて室内に戻る。

 そして、思わず目を瞬いてしまった。

 

 ――えーっと……

 

 わたしの声と気配に気付いたのだろう。

 こちらへとやってくる彼――和泉の姿。

 ただし。

 なぜか肩から衾を引っかけ引きずっている……

 

「おはよー、はやいね……」

 

 目をこすり、欠伸混じりで彼が言う。

 ただし、わたしにではなく……わたしから少し離れたところにある柱に向かって。

 わたしは小さく溜息を吐いた。

 

 ――絶対寝惚けてる。

 

 それは確信。

 そういえば、ライコウさんから、朝たまに寝惚けるって聞いたことがあった気がする。

 寝惚けた無防備な姿も、わたしに見せてくれる。

 それは嬉しいことなんだけれど……

 でも、そのままにしておくわけにもいかないから慌てて傍へ寄る。

 

「まだ寝ててよかったのに。」

「急に君のぬくもりがなくなったものだから……」

 

 とりあえず、引きずったままの衾を取り上げて言ったわたしに、和泉が呟いた。

 

「それは、その……ごめん。」

「許さない。」

 

 ――え?

 

 ぱちくり。

 瞬いてから、わたしは和泉の顔を見つめた。

 じっと見つめてくる瞳。

 そこには、つい先ほどまでの寝惚けた様子は微塵もなくて、少し寂しそうな色が見え隠れしていた。

 

「あの……和泉?」

 

 胸が締め付けられるような感じがして、手にしていた衾をぎゅっと抱き締める。

 逸らせないままの視線が捕らわれて……

 次いで、腕を引き寄せられた。

 そのまま、わたしの体はしっかりと和泉に抱き締められる。

 

「もう少し……君のぬくもりを傍で感じさせて?」

 

 耳朶にかかる吐息に、わたしは顔が熱くなるのを感じた。

 わたしが、耳元で囁かれるのが弱いって知ってるのにズルイ。

 絶対に、嫌だなんて言えないじゃない。

 背中と膝裏に回された腕が、いつかと同じように私を抱き上げた。

 

 

 

 

 

 

 再び戻ることになってしまった褥。

 完全に夜が明けきるまでは、まだ少し時間がある。

 

 けれど――

 

 結局、揃って寝坊することになってしまったわたしたちは、後からライコウさんに叱られてしまった。

 

 

 

 

 

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