ちかいきょり 2【雅恋/和彩】 2010年12月19日 雅恋~MIYAKO~ 0 【ちかいきょり 和彩】2 晴明様の邸までは、そんなに遠い距離ではない。 真っ直ぐ、わたしたちは歩いてゆく。 片方の手を繋いだまま、ゆっくりとした歩みで。 もしも誰かに見咎められたらどうしよう。 もしも知り合いに見られたらどうしよう。 歩きながら、そんな「もしも」が頭の中をぐるぐる廻る。 さっきは、想いのまま言葉を伝えたけれど。 やっぱり和泉は天照皇なわけだし。 それなのに、抜け出してきてこんな所にいる。 わたしは晴明様の式神でしかないし。 それなのに、天照皇様と手なんか繋いで…… 知らず知らずのうちに俯いてしまっていた視線の先に、繋いだ手が見えた。 伝わってくるぬくもりは、浮かんでくる不安を訳もなく溶かしてくれる。 そのまま視線を辿らせれば、わたしの手を引きながら少し前を歩く背中。 とくん。とわたしの鼓動が高鳴った。 ああ、この背中は…… 最初に、この背中を見たのは初めて仕事寮に行った日。 和泉のことを呼び捨てたわたしを叱りつけたライコウさんから、庇ってくれた時。 ふと、その時のことを思い出して、頬が緩んだ。 あれから、まだ、そんなに経ってないんだなぁ…… 「どうかした?彩雪。」 それほど前でもない記憶に思いを馳せていた私は、不意に名を呼ばれて我に返った。 肩越しに振り返る和泉。 不思議そうな顔で、わたしのことを見つめている。 「ううん。何でもないよ。」 微笑んで、わたしはそう返す。 「そう?でも、考え事しながら歩いていると危ないよ?」 「あ。うん、気をつけるよ。」 答えたわたしに、和泉は、くすりと笑った。 「やっぱり、何か考え事してたんだ。」 あ…… 気付かれてた。 「さっきから百面相してるよ?」 「え!?」 思わず、開いた方の手で頬に触れた。 くすくすと、楽しげに和泉が笑う。 わたしは、頬を赤らめて小さく溜息を吐いた。 長い、お邸の壁。 それが終われば門が見えてくる。 その門を開いて、和泉は中へとわたしを導き入れた。 「え?」 てっきり、門のところで「またね」と笑って手を振ってくれてお別れ……だと思っていたわたしは、ほんの少し戸惑ってしまう。 視線を巡らせると、庭には立てかけたまんまの箒。 ライコウさんの所へ行くと言っていた弐号くんは、まだ帰ってきていないみたいで……邸の中は静かだった。 「あ、あの、和泉?」 わたしの手をひいたまま、何の躊躇もなく邸の中へと入ってゆく和泉に、わたしはとうとう声を掛けた。 ぴたり。と、そこでようやく和泉が足を止める。 くるりと振り返り、どこか寂しげな表情でわたしをみつめる瞳に、胸が騒ぐ。 ど、どうしたんだろう…… さっきもこんな瞳をしてたよね。確か。 「言ったよね?もう少し君といたいって。」 「それはそうだけど。」 そのあと「送る」と言ったのは和泉だ。 だから、本当に送ってくれるだけなんだと思っていた。 なのに…… 「誰の邪魔も入らない所で、一緒にいたいなぁって思ったんだ。」 嬉しそうな笑顔。 とくん。と、またわたしの鼓動が高鳴った。 「それとも……俺と一緒にいるのは嫌?」 即座に首を横に振る。 嫌なわけがない。 「じゃあ、決まり。だね。」 それじゃあ君の部屋で話でもしようか。 そう言って、また、和泉はわたしの手を引いて歩き出した。 【ちかいきょり 3】へ PR