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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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ちかいきょり 6【雅恋/和彩】

【ちかいきょり 和彩】6




 白い光に満ち溢れた世界。

 それは、あの夢の中と似ているけれど……何か違うような気もした。

 わたしを包みこみ甘やかすのは、優しいぬくもり。

 聞こえてくるのは、規則正しく刻まれる……命の音。

 とても、とても幸せな気持ちだった。

 

 半分は眠りの中。

 残り半分は現-うつつ-。

 そんな心地よいまどろみの中で、わたしの名前を囁く声がした。

 手を伸ばせば、くいと引き寄せられて……

 わずかな甘さを含むさわやかな香りに包まれる。

 

 ああ、これは……

 

 知ってる。

 わたし、この香りを知っている。

 これは――

 

「…………だよ。彩雪。」

 

 ふわり、と髪を撫でられたと思った。

 軽く、額に柔らかな何かが触れたと思った。

 離れていってしまう、そのぬくもりが少し寂しいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんや和泉、こんなところでなにしとんねん。」

 

 意識が夢と現を彷徨う中、不意に聞こえてきた声。

 え?弐号くん?

 そっか、ライコウさんの用事、済んだんだ。

 ふと、そんな風に納得する。

 

「やあ、弐号。おかえり。」

 

 今度は和泉の声。

 ああ……近くで和泉の声が聞けるなんて……

 なんて、心が温かくなるんだろう。

 

「ライコウが血相変えとったで。」

「ははっ、仕方ないね。でも、怒られるのは後回しだ。」

「笑い事と、違うやろ!」

 

 そんなやりとりが、明るい楽しげな声で行われている。

 会話の内容は、あんまり楽しげには聞こえないけど……

 それにしても――

 ライコウさん、どうしたんだろう。

 怒られるって、どういうことかな。

 

「ああ、弐号。

 すまないけど、少し静かにしてあげてくれるかな。あんまり騒いだら起こしてしまうからね。」

 

 誰を……とは言わない。

 でも、和泉が、わたしのこと気遣ってくれてるんだと分かった。

 なんだか、ちょっと嬉しいなぁ。

 

「ん?んん?どういうことや?」

「うん?どうしたんだい?」

 

 多分、弐号くんは、トサカを傾けて考え込む素振りでもしているんだろう。

 でも、そんな弐号くんへと、くすくす、と楽しそうに笑いながら和泉が問い返した。

 

「どうしたって……そもそも、なんで和泉がここにおんねん。」

「それは、色々……ね。」

 

 言い募るような、更なる問いへの含むような和泉の答えに、弐号くんが手羽をばたつかせている音が聞こえてきた。

 

「色々……って。」

「色々は色々だよ。そのうち、ちゃんと説明するからね。」

「そのうち……って!今、答えたってええやろ!」

 

 あ、なんか暴れてる?

 わたし、起きていった方がいいのかなぁ。

 

「うーん、今……か。そうだなぁ、何から聞きたい?」

「何からって……」

 

 和泉が少し考え込むように唸ってから、弐号くんへと問いかける。

 それに返ってきたのは……溜息?

 そして、ちょっと怒ったような弐号くんの声がした。

 

「それや、それ!」

「どれ?」

「なんで、そんな格好で参号の部屋におんねん!」

 

 わたしの部屋?

 それはそうだよ、だって……

 

 ――あ。

 

 わたしは、ぱっちりと目を開いた。

 体を起こそうとして、微かな痛みに顔を顰めてしまう。

 和泉が着せてくれたのだろうか、わたしは知らないうちに単を身に着けていた。

 膝で這うように褥を抜けて、几帳の陰から覗いて見れば……

 和泉の背中が最初に見えた。

 その向こう側に、羽をばたつかせている弐号くんの姿。

 和泉は……わたしと同じで単姿だ。

 

 

「それは、ね。うん、そういうことだよ。」

「な………」

 

 唖然とした弐号くんの顔。

 今の和泉の言葉で、事情を察したのだろうか……

 数歩、弐号くんは、よろよろと後ずさった。

 

「な、な、な……何考えとんねん!」

 びしっ!と手羽が和泉へと突きつけられる。

 あはは、と笑って、和泉が答えた。

「そうだなぁ。二人の幸せな将来について……かな?」

 え!?

 その言葉に、思わず目を見開いてしまうわたし。

 頬が、かぁっと熱くなった。

 そして。

 

「アホか!」

「和泉っ!?」

 弐号くんのツッコミと、わたしの裏返った声が重なった。

 

「やあ、目が覚めたんだね。……大丈夫かい?」

 振り返った和泉が優しい微笑みを向けてくる。

 その向こうで、うろたえている弐号くん。

 でも、そんな弐号くんの様子なんて気にも留めず、和泉はわたしを見つめていた。

「ちょっと無理させちゃったみたいだから、もう少し休ませてあげたかったんだけど……」

「あ……うん……大丈夫だよ。」

 とは言っても、本当は少しだけ辛い。

 床に座ったまま、歩み寄ってくる和泉を見上げていると、さっきまでのことを思い出して、かぁっと頬が熱くなる。

「本当に?」

「うん、心配してくれてありがとう。」

「ふふ、俺のせいで彩雪が辛い思いをしたりして欲しくないからね。」

 わたしの前まで来て膝をつき、髪を撫でてくれる和泉。

 それがとても心地よくて、わたしは目を閉じた。

 

 そして――

 

「なに二人して、ばかっぷるやっとんねん!」

 良く分からない言葉を叫んだ弐号くんが、呆れたような表情でわたしたちの方へと向かってきた。

 それを、手で制する和泉。

 

「弐号、それ以上寄らないでくれるかな?俺の后に……さ。」

「っ!?」

 

 肩越しに振り返りながら告げた和泉の言葉に、愕然とした表情で弐号くんが硬直する。

 真っ赤になったわたしを見て、にこにこと笑う和泉を見て、そして弐号くんはもう一度わたしを見た。

 

「…………」

 

 大きなため息。

 そして――

 

「和泉がおらん!いう連絡入って、血相変えてライコウ飛び出して行きよったけど……」

 まるで肩を落とすような感じで、弐号くんは手羽を下におろした。

「こない勝手なことして、えらい怒られるん違うか?」

「だろうね。」

「本気なんやな?」

「ライコウにも言ったけどね。俺は本気だよ?」

 

 あはは、と笑って、和泉はわたしの肩を抱き寄せる。

 それとほぼ同時に、慌ただしい足音と声が門のあたりに響いた。

 それは間違いなく……

 

「やっと来たみたいだね。」

 

 くすくすと、悪戯の見つかった子供のような表情で和泉が笑う。

 わたしは、これから起こるであろうひと騒ぎについて、少し頭を悩ませるのだった。

 


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