いつかのゆめ【よろず】 2009年06月30日 その他版権 0 30000hit御礼作品(遙か1・3・4とスレイヤーズとtactics) ふわり…と舞う蝶がみせたのは? 1 ひらりと舞い上がる(「遙かなる時空の中で」/鷹神子) ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 風に舞うように 空を流れるように 気まぐれに浮かぶ蝶が一羽 「あ、鷹通さん。」 声を掛けられ、少女の示す方を見上げる 「これは、珍しい蝶ですね。」 「きれい…」 二人の視線の先を泳ぐのは、七色に陽を受け輝く蝶 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら ふわりと舞い降り ふらりと舞い上がり 目の前をゆき過ぎて…… 「あ……」 あかねが小さく声を上げた。 きらきらと光を纏いはじめる蝶。 「何が…」 訝しげに見つめる眼鏡の奥の瞳。 光の粒が二人に降り注ぐ。 不意に脳裏を過ぎるのは、白き龍の姿。 ――え? 「鷹通さん!!」 高く、高く、空を昇ってゆく感覚。 あかねは、傍らにいるはずの鷹通の名を懸命に呼んだ。 「神子殿っ!」 声と共に、腕が引かれる。 神に召され天に昇ろうとする、少女を…強く抱き込む。 ……奪われてしまわないように…… 弾けるように光が消えた。 何が起きたのか…と視線を巡らせると、二人の頭上を、輝きを纏い蝶が飛ぶ。 「今の…は……」 幻。 夢。 これから先の…未来? 戸惑う二人の目の前で…… 輝きは不意に揺らめき、その姿は…光に融けて消えた。 2 春うららかに(「スレヤーズ」ガウリナ) 長く、長くのびる街道。 うららかな季節。 栗色の長い髪を躍らせて、少女が、ほんの少し後を歩く彼を振り返った。 「ちょっと、ガウリイ!!早くしなさいよ!」 「待てよ、そんなに急がなくったていいだろ。」 呆れたように、少し疲れを滲ませた声でガウリイが訴える。 そんな自称保護者へとリナは眉を吊り上げた。 「何言ってんの!?もう何日野宿したと思ってんのよ!!」 「仕方ないだろ。」 「仕方なくない!いい加減、ふかふかのベッドで休みたいの!!」 ここ数日、盗賊に邪魔されたり、いきなり魔物が出てきたり…と、町か村に着く前に夜が訪れるという日々が続いていた。 今日こそは宿でゆっくり眠りたいとリナが思うのも当然だろう。 「今日こそは、ちゃんと屋根のあるところで泊まるんだからね!」 くるり、と踵を返して、リナは再び足を踏み出す。 「折角いい天気だってのに……」 はあ…と肩を落とし溜息をついて、ガウリイは少し歩調を速めた。 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら すぃ~っと、どこからともなく現れた蝶が、リナの目の前を通り過ぎた。 「あれ?」 今まで、見たことのない蝶だ。 思わず足を止めると、ふらふらと、蝶はリナの周りを舞うように飛び始めた。 「何してんだ?」 「え?…あ、うん…蝶が…ね。」 追いついてきたガウリイに問われ、答えるリナの口調はどこか夢見心地。 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 「あ……………」 遠くから、声が聞こえてくる。 ゆらり…と視界が揺らめいて……… 「リナ?」 不意に傾いだリナの体を抱きとめて、ガウリイは宙を舞い泳ぐ蝶へと視線を向けた。 睡魔が訪れる。 何だというのだろう。 頭をかいて、ガウリイは街道の傍らの木陰へと移動した。 「ほ~ら~、そんなゆっくりしてたら、いつまで経っても次の町に着けないわよ!」 リナの声が響いた。 長い栗色の髪を、そよそよと吹く春風に靡かせて困ったような顔で後方へと視線を向ける。 「そんなに急がなくても、町は逃げないぞ。」 「時間は逃げるわよ!」 のほほんとしたガウリイの声へと、呆れたように返すリナ。 「だってさ。」 相変わらずだな…と呟いて、傍らの木陰へと声を掛けると、草がゆらゆらと揺れた。 「あんたたちも、いい加減にしなさい!」 「は~い」 幼い声が二つ、重なるように聞こえて……ひょっこりと草むらから現れたのは、金色の頭がふたつ。 勢いよく飛び出した女の子が、リナの方へと走り出す。 「待って!」 少し小さな男の子が、一緒に走り出した途端、小石に躓いて転ぶ。 「危ないだろ。」 泣き出す前に、ひょいっとガウリイが男の子を抱き上げた。 「さ、行くわよ。」 髪を風に靡かせて、リナが踵を返す。 伸ばした手を、女の子と繋いで。 「今日こそ、屋根のある所で寝るんだからね!」 いつか、どこかで聞いたような事を言って、リナが歩く。 うんうん。と女の子が頷いた。 苦笑を浮かべ、ガウリイが抱きかかえた男の子の頭を撫でながら少し歩調を速める。 「あ!」 「ちょうちょ!」 ふらふらと、風に泳ぐ蝶。 どこかで…見た事のあるような…姿。 「あれ?」 「ん?」 リナの、ガウリイの目の前を幾度か往復して…… 次第に揺らめいてゆく景色。 音が、声が、次第に遠ざかっていく…… 「ん……」 目を開くと、少し翳り始めた日の光が見えた。 「あれ?」 目を擦り、リナは記憶を辿る。 確か……急に眠気に襲われて…… こつん… 不意に肩に何かが触れた。 視線を巡らせると、陽に輝く金色の髪。 ――ガウリイ? なにか、とても賑やかで穏やかな場所にいた気がする。 けれど…… 「ちょっと!ガウリイ!」 リナの肩にもたれかかるガウリイの体を押し退けて、リナは声を上げた。 「ほえ?」 「何寝てんのよ!陽が暮れるまでに町に着けないでしょ!!」 「先に寝たのリナだろ。」 「うるさい!」 大きく溜息をついて、歩き出すリナを慌てて追いかける。 「って、待てよ!」 斜めから差し込み始める日の光。 視界の端を、蝶が高く昇っていくのが映って、リナは足を止めた。 「リナ?」 黙ったままそれを見送り、追いついてきたガウリイへと軽く視線を向けると、リナは再び足を踏み出した。 「さ、行きましょ。」 変わらない、けれど、どこか違う旅路の夢を見ていた気がする。 同じなのは、いつも傍に、互いがいること…だった気がする。 今日も、明日も、ただ、二人共に歩いてゆく。 3 木漏れ日の夏(「遙かなる時空の中で3」弁神子) 「涼しい~」 望美は、木の幹に背を預けて、大きく深呼吸をした。 強い日差しに、ここが京よりも南にあるのだという事を、改めて認識する。 風に混じるのは、夏草の匂い。 けれど、木陰に吹き込んでくるのは、京では味わえない爽やかな風。 「あ、弁慶さ~ん!」 思い思いに皆が休息を取る中、暑くないのだろうか……変わらぬ黒い外套姿で、弁慶が歩いているのを見つけて、望美は声を掛けて手を振った。 足を止め、望美の姿を確認したのだろう…弁慶がこちらへと向かってくる。 「ここにいたんですね。」 「え?」 安堵したような表情に、望美は首を傾げる。 どうやら、彼は望美を探していたらしい。 「どうかしたんですか?」 何の用があるのだろう…と、問い掛けると、返ってきたのは有無を言わせぬ微笑み。 「足、途中で痛めたんでしょう?」 ――なんで…… 誰にも気づかれていないと思っていた。 いや……弁慶が気付かない筈はなかった…のだろう。 「大丈夫ですよ。」 「それを判断するのは僕です。」 手にしていた包みから幾つかの物を取り出すと、弁慶は望美へと笑みを向けた。 「さ、診せてくださいね。望美さん。」 「……………はい…………」 逆らうことなど、できるはずもなかった。 「風、気持ちいですね。」 手当てをしてもらって、熱を持っていた足首は少し楽になっていた。 「そうですね。」 望美の隣に腰をかけ、弁慶は頭から被っていた外套を外す。 吹き抜ける風が、望美の…弁慶の…長い髪を靡かせた。 「あ、弁慶さん見てください!」 視界の端を過ぎっていった姿に、望美はそちらを指差した。 ふわり…と風に乗るように、一羽の蝶が舞っている。 「おや、珍しい種類の蝶ですね。」 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 蝶は、二人の方へと向かってきて…… 漂うように周りを跳ぶ。 ざあ…… 不意に吹き抜ける風。 突然、強い睡魔に襲われる。 ――あ…… 意識が………闇に落ちていった。 さわさわと風が葉を鳴らす音で、望美の意識は浮上した。 「あれ?」 なんだか思考がぼーっとしている。 無意識に動かした手に触れるのは、小さな籠。 そうか…と、思い出す。 薬草を採りに里山へ入ってきたのだと。 「ん……」 傍らに視線を向けると、彼も目を覚ましたのだろう。 優しい眼差しが望美を見つめていた。 「ああ、望美さん。」 「寝ちゃいましたね。」 くすくすと笑いながら、寄り添いながら転寝をしてしまったのだと思い当たる。 「そうですね。」 「弁慶さん、もうちょっと寝てていいですよ。」 そっと触れる、淡い色の髪。 促して、頭を座った自分の足へと導く。 「膝枕…ですか?」 「たまには……」 驚き一瞬目を瞠った弁慶が微笑んだ。 「じゃあ、甘えさせていただきますね。」 「存分に甘えてください。」 にっこりと微笑んだ望美の頬へと、伸ばした弁慶の手が触れる。 穏やかに過ぎてゆく時間。 のどかな昼下がりの…ひととき。 さわさわ…と風が夏草を揺らす。 視界の端を横切ったのは、一羽の蝶。 ――あれ? どこかで見たような……既視感。 望美は目を擦った。 不意に、強い風が吹き抜ける。 「あれ?」 開いた目の前には、淡い色の髪。 望美は数度瞬きした。 「おや?」 頬を擽るのは紫苑の髪。 視線を巡らせると、そこには戸惑うような翡翠の瞳があった。 「っ!!」 凄い勢いで飛びのく望美に、弁慶は思わず苦笑を浮かべる。 いつの間にか、互いに寄り添い転寝をしていたらしい。 何やら、記憶が混乱している。 ほんの少し前まで、穏やかな時間を共有していた気がする。 戸惑う視線を交わしていた二人の間を、一羽の蝶がゆき過ぎる。 「あ……」 小さく声を洩らしたのは同時。 ひらひらと羽をはためかせた蝶は、二人が視線を追う間にも、高く空へと昇っていった。 風に乗って聞こえてくるのは、仲間たちの呼ぶ声。 いつの間にか、捻った足首の熱は完全に引いていた。 先に立ち上がった弁慶に手を取られ、望美は立ち上がる。 そして歩き出す。 仲間たちの呼ぶ声に向かって。 ……いつか辿り着く、穏やかな世界にむかって…… 4 秋物悲し(「tactics」一ノ宮家) 散り行く庭の落ち葉。 穏やかな日差し。 それは、のんびりとした秋の午後。 珍しく味のついた茶をすすりつつ、それぞれ過ごす……静かな時間。 ぱら…ぱら…… どちらかというと不規則に紙が繰られる音がする。 時折、何かを書き付ける音も混じっていて… 勘太郎は、手にしたペンを無意識に揺らしながら、本の中の一節を、何やら考え込みながら何度も読み返していた。 室内の明りと、外から差し込む秋の日差し。 ガラスの球体は、それらを反射しながら部屋の風景も映り込ませる。 畳の上に転がる、幾つかのビー玉。 春華は、ひとつひとつ、覗き込んでは磨き、その中に映り込んだ世界を堪能していた。 コトリ…と湯飲みを置く小さな音。 ほぅ…と深く息をついて、ヨーコは卓に頬杖をついた。 目の前には数冊の本と紙に没頭する勘太郎。 すぐ傍らには宝物のビー玉を眺めて自分の世界に突入している春華。 二人の同居人を見ながら、ヨーコは、なんだか幸せな気がして…微笑みを浮かべた。 「あれ?」 「ん?」 「どこから来たんだろ?」 庭から舞い込んできたのは、一羽の蝶。 羽が七色に輝いて見えるのは……錯覚だろうか? ふわり…と三人の頭上を舞う蝶。 ――あ…… 不意に、意識が……どこかへと沈んでゆく気がした。 山。 長い時を、たった一人で過ごしていた…… 無。 何も覚えていない……誰かを待ち続ける、長い長い時間。 闇。 一人きり……他人と違う自分。心が……凍える…… ――誰か…… 光が、見えた気がした。 誰かが、自分を呼ぶ声がする。 少しずつ……狭かった視界が広がる。 舞い上がる落ち葉。 庭先から遠慮なく上がりこんできたのは、スギノ。 「……って、なんだよ、せっかく来てやったのに、寝てるのかよ!」 居間の卓に突っ伏すように、家人の三人…もとい、一人と二匹は眠りこけていた。 腰に手をあて上から眺めるように視線を巡らせると、スギノは大きくため息をついた。 「起きろ~!」 「…ん……」 「あ、スギノ様。」 「何だ?」 目を覚ましたら、皆がいる。 孤独は、もう過去の話。 今、ここにいることが……現実。 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 飛び去っていったのは、不思議な蝶。 戻ってきたのは、いつもの賑やかな雰囲気。 5 冬景色(「遙かなる時空の中で4」葦原家) ちらちらと、細かな白い結晶が空から舞い落ち始めたのは夕方。 しん…と静まりかえる中、深々と降りしきった雪は、朝目覚めると、珍しく一面の銀世界を作り出していた。 「那岐!起きて!!」 返事も待たず、ノックと共に扉を開いて飛び込んでくる賑やかな声。 那岐は、むすっ…とした顔で、乱入者…もとい千尋へと非難の眼差しを向けた。 「ほら、凄いんだから!」 けれど千尋は、そんな那岐の様子はお構いなしに、締め切られていたカーテンを勢いよく開ける。 部屋に差し込む眩しい光。 「眩しいよ。カーテン、閉めてくれない?」 「だめ!冬休みだからって、今日は寝坊してたら勿体無いよ!」 不機嫌に声を出しても、窓をバックに立つ千尋は怯むことなく主張する。 「千尋、ちょっと手伝ってください。」 階下から聞こえてきた風早の声に、千尋が慌てたように踵を返す。 「今行く~!」 那岐の部屋の扉から身を乗り出して答えると、千尋は肩越しに那岐を振り返った。 「早く降りて来てね!」 バタバタと、騒がしい足音が階段を駆け下りていって…… 叩き起こされた挙句に放置された那岐は、大きくため息をついたのだった。 起き上がって窓から外を見ると、一面の白い世界。 ああ…と漸く納得する。 「雪くらいで叩き起こさなくても……」 愚痴ってみるものの、玄関先に積もった雪を除ける風早の傍へと駆け寄った千尋の楽しげな姿に、無意識の内に口元に笑みが浮かぶ。 大きく伸びをして、那岐は着替えて階下へと降りてゆく。 今日は、千尋に付き合ってやるしかないだろう…… そう思いながら。 「で、何で寒いのに揃って買い物に行かなきゃならないわけ?」 「寒いからお鍋するんだもの!」 「だからって、揃って買い物にいく必要ないだろ?」 「いいじゃない。たまには一緒に買い物行くのも楽しいでしょ?」 「別に。楽しいとか、どうでもいい。」 「二人とも、それくらいにしたらどうですか。」 言い合う千尋と那岐に、笑いをこらえながら風早が言う。 夕飯は鍋がいいと言い出した千尋。 買い物に出ようとした風早に、皆で行こうと主張して…面倒だと拒否する那岐を強制的に引っ張り出した。 無理矢理引っぱってこられた那岐は不機嫌だけれど、雪の積もった道を3人で歩くのが、千尋は楽しいらしい。 まだ誰も踏んでいない新雪を、ざくざくと足跡をつけながら千尋は走り回る。 「あれ?」 視線の先を、ひらひらと通り過ぎたもの。 千尋は目を瞬いて、それを見る。 「蝶?」 こんな季節に珍しい…と、千尋は、蝶を追いかけ始める。 「千尋、コケるよ?」 「けれど珍しいですね、蝶なんて。」 那岐の、風早の声を背中に聞きながら、千尋は蝶の姿を目で追い、不規則に飛ぶ姿を追いかける。 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 舞う蝶が、空高く昇ってゆく 光を纏っているかのような姿に、千尋は目を擦った。 不意に脳裏を過ぎる、豊かな自然をたたえた景色。 ――え? 見た事のあるような、見たことなどないようなそれに、首を傾げて立ち止まる千尋。 「足、滑らせるよ?」 いきなり立ち止まった千尋に、那岐が声を掛ける。 「千尋?どうかしましたか?」 風早の心配そうな声。 「なんでもない……」 呟いて、千尋は蝶を見上げた。 ひら、ひら、ひらり ひらり、ひら、ひら 光を纏う七色の羽の蝶は、 ゆっくりと舞うように空を上っていって…… 輝きの中に融けて消えた PR