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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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いまだけは【夜桜/秋ヒメ】

秋名→←ヒメ
話の展開の割に、ある意味なんにも進展してないお話です。
全年齢にしてますが若干艶っぽい展開あるので苦手な方はご注意を……

いまだけは




「おーなーかーすーいーたー!」

 ソファの上で、ヒメが駄々っ子のように空腹を訴える。
 それはいつもの光景で……
 いつもと少し違うのは、ことはもアオも恭助もいなくて、事務所には秋名とヒメの二人だけだということ。
 ことはは補習で、まだ学校から帰ってきていない。
 アオは買い物、恭助は桃華の頼みを断れずヤボ用に付き合って出掛けた。

「さっき、なんか色々と食ってなかったか?」

 学校帰りの町内パトロール中に町の人たちから貰ったのだろう。
 食べ物をたくさん抱えたヒメが、事務所に現れてから1時間も経っていない。
 当然ながら、それらはすでにヒメの胃袋の中だ。

「足りないのー!麺!麺が食べたーい!」

 ――まったく、人格変わりすぎだろ

 ため息をつき、秋名は向かい側のソファでぐずるヒメを見た。
 普段との差が激しすぎる。
 しかし、こうなってしまうと手がつけられない。

「ねーねー、秋名ぁー、なんか作ってー」

 自分の作る料理を、美味しいと食べてくれることは嬉しいが……

「食べ過ぎだ。恭助に怒られるぞ」
「だって、おなかすいたんだもん」

 いつのまにか。
 ソファに座る秋名に、抱っこを強請る子供のようにヒメがしがみついていた。

「はなれろー」
「やーだー!」

 首に腕を巻き付け、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。

 ――あのなぁ……

 小さな子供の頃ならまだしも、女子高生がやることではない。

 ――こいつの中じゃ、子供の頃のままなんだろうな

 遠慮なく抱きつかれて、柔らかな膨らみが押し付けられる。
 普段はあまり気にならないけれど、今日は二人きりのせいか気になって仕方がない。
 石鹸かシャンプーの匂いだろうか……甘い匂いが鼻を擽った。

 ――何の修行だよ、これ……

「……っ!て、おい!」

 不意に膝に重みを感じた。

「ヒメ、おーりーろー!」

 さすがにまずいと思った。
 膝の上へと、ヒメが乗ってきたのだ。
 いや、乗るというよりは跨っている。
 女の子特有の下半身の柔らかな感触が伝わってきた。

 ――待て待て待て……

 無意識のうちに腰を抱き寄せようとしていた自分の手を、慌てて離す。

「麺ー」

 引き剥がそうと肩を掴めば、半泣きの顔が目の前に現れた。
 それは、普段とはかけ離れた幼い表情。

 ――ッ!?

 ……のはずなのに、鼓動が跳ねる。
 むくむくと沸き上がる、よからぬ衝動。
 だめだと自分に言い聞かせるけれど……

「あきなぁ」

 鼻にかかった甘えるような声に名前を呼ばれて……秋名の中で何かがショートした。






   *   *   *





「ヒメ……」
「え?」

 突然ソファに仰向けに倒されて、ヒメがきょとんとする。
 何が起きたのか、分かっていない。

「いい加減にしろよ」
「あ、秋名?」

 するり、とスカートの中――太腿へと触れる秋名の掌。
 びくっ、とヒメは体を震わせた。

「ッ!?」

 膝に乗っていたそのままで倒されたせいで、ヒメの足の間に秋名の膝がある。
 そのせいで、下半身はひどく無防備な状態だ。

「ちょっ、えっ?――あッ!」

 太腿に触れた手が、ゆっくりと動き出す。
 内腿を撫でられ、背筋がぞくりとした。
 足を閉じてしまいたいのに、秋名の膝が邪魔をする。

 ――えっ?なに?

 さすがに正気に戻りはしたものの、なにが起きているか分からない。

「このへん、ちょっと肉が付き過ぎてるんじゃないのか?」
「なっ!」

 至近距離の顔に意地悪な笑みで告げられて、思わず手が出る。
 けれど……

「おっ、と」

 腕はソファに押さえ付けられた。

 ――え……?
 
「あんだけ食ってるのに、こっちには付かないのな」
「やッ!」

 胸を掴む掌。
 膨らみを確かめるように揉まれ、ヒメは、びくりと体を震わせた。

「な、なにすんの!」
「なにって……」

 するり…と、秋名の手がマフラーを緩める。
 その下の制服のリボンが解かれて開かれる襟。

「え?あ、の……ま、って……」
「待てない」

 ヒメが上げた制止の声に、返されたのは見たことのない秋名の顔。

 ――な、に……?

 首に吐息がかかって ぴくんっと跳ねるヒメの体。
 ちろ…と、首に触れる舌。
 普段はマフラーに隠された傷の痕を、舌先がなぞった。

「んっ……ァ」

 思わず声が漏れた。
 背筋を這い上がるぞくりとした感覚に、首を仰け反らせる。

「や、め……ンッ」

 何度も舌が這う。
 傷痕だけでなく、首筋にも鎖骨にも……
 ぴちゃっ、ちゅっ、といやらしい音が響く。
 また、掌が太腿を撫でて……体の奥が熱くなった。

「やッ……ア……っん」

 ぎゅっ、とヒメの手が秋名のシャツを掴んだ。

「あきなぁ」

 駄々っ子状態の時のような幼さを含む甘えた声とは違う、艶の混じった甘い声が名前を呼ぶ。





   *   *   *





 ――……!!

 途端に、秋名は我に返った。
 見下ろせば、頬を紅潮させ、とろんとした瞳で秋名を見上げるヒメの姿。
 捲れたスカートの裾から見える白い太腿。
 普段はマフラーに隠れている白い首筋。
 その奥の傷痕……のそばに残る赤い花弁。

 ――あ……っ

 押さえつけていた腕を離して、体を起こす秋名。

「ごめん……」

 ついと視線を逸らし、もごもごと秋名が謝る。

「…………」

 黙ったまま体を起こしたヒメが、乱れてしまった服を直し膝を揃えて座った。
 ちらりと秋名の視界に、耳まで赤く染めたヒメの顔が入ったけれど、それはすぐに、ぐるぐると巻かれたマフラーに隠されてしまった。

「は、腹減ったんだったよな。何か作ってくるわ」

 逃げるように秋名はキッチンへ行こうとした。

「あっ!」

 ――待って

 ヒメにシャツの端を掴まれ、秋名が足を止める。
 振り返れば、顔にマフラーを巻きつけたヒメの姿。
 隙間から、戸惑ったような目が秋名を見上げていた。

「ヒメ?」

 秋名の視線がヒメをとらえる。
 びくっ、とヒメは肩を跳ねさせた。 

 ――まったく……

 はぁ……と秋名は大きくため息をついた。
 そして、少しだけ…いつもより距離を開けてヒメと向き合う。

「ヒメが悪いんだからな」
「え?」

 マフラーの隙間から、少し怯えたように秋名を見上げるヒメ。
 がしがしと頭をかき、秋名は手を伸ばした。
 びくりと体を強張らせたヒメが、目をきつく閉じる。
 秋名は、顔に巻き付くマフラーを解いた。
 中から現れた顔は、耳まで赤く染まり……少し泣いたのか目尻に滴が残っていた。

「なあ、ヒメ」
「な、なに?」

 おずおずと目を開けば、秋名はいつも通りに笑っていた。

 ――あ……

 とくんと跳ねる鼓動。

「ヒメはさ、女の子だろ」

 秋名の指が、ヒメの目元に触れた。
 涙のあとを指が拭う。

「ずーっと、小さいときから一緒にいるから、あんまり気にしてなかったといえば、そうなんだけど……」

 ――秋名?

「あんな風に抱きつかれるとさ……その……もう、子供の頃とは違うんだなって」
「えっと……?」

 まだ、よく分かっていないヒメに、秋名はため息をついた。

「だーかーらー」

 両手で頬を挟む。

「俺は男で、ヒメは女で……もう子供じゃないんだ」

 顔を上げさせれば、きょとんとした表情が浮かんでいた。

「今日みたいに、他に誰もいないようなところで抱きついて胸とか押し付けられたりしたら……理性とかヤバイんだよ」
「え………っ!?」

 かあぁっと、ヒメの顔が赤く染まる。

「あ、え、そ……」
 
 またマフラーで隠れてしまおうとするのを阻止する。

「逃げんな」
「で、で、でも」
「男ってのは、そーゆーもんだ」

 ――でも……

「あ、あたしは妖怪だよ」
「あのなぁ……」

 するり……と、首元を隠すマフラーを秋名が解いた。

「あっ!」
「人間とか妖怪とかは関係ない。ヒメはヒメだろ」
「で、でも……」

 ヒメは強い。
 けれど、これは、そういう問題でもない。

「気を付けてくれ」
「…………」

 秋名の指が首――傷痕のそばの花弁に触れた。

「ごめんな、あんなことして」

 ふるふるとヒメは頭を横に振った。

「これも……ごめんな」

 ――これ?

 秋名の指が先ほどから触れてる場所。
 そこにあるのは、幼い頃に強すぎる力を抑えるため打たれた楔の……傷痕だ。

「え……?」

 視線を落としても、そこは見えない場所。
 何があるのだろう。

 ――なんのこと?

「さっきの……ヒメの声が可愛すぎて、つい……やりすぎた」

 ――声!?か、可愛いって!?

 そこに触れた湿った柔らかな感触と、聞こえたいやらしい音を思い出して体が熱くなった。

「あ、あの、秋名」
「そんな顔すんな」

 ――顔?

 ぎしっとソファが軋む。

「あ、秋名…?」

 ヒメをとらえるように、秋名の両手がソファの背についていた。
 秋名の片方の膝がソファに乗っていて、さっきの軋みはこれのせいか……とヒメは思った。

 ――な、なに!?

 近付いてくる秋名の顔。
 ヒメはぎゅっ、と目を閉じた。
 くすり、と笑う声。
 耳元に吐息を感じた。

「誘ってると思われるぞ?」
「ッ!?」

 ――さ、誘っ……!?

 どくんどくんと鼓動がうるさい。

「あ、あたし……」




   *   *   *




 ぐうぅぅぅ…………

 突然響いた、緊張感も色気も破壊する腹の虫の声。
 一瞬時が止まる。
 さすがに恥ずかしくて、ヒメは俯いてしまった。

「ちょっと待ってろ、すぐ何か作ってやるから」

 聞こえた声に顔を上げれば、キッチンに向かう秋名の背中が見えた。

「…………なら……」

 ――秋名ならいい

「え?」
「な、なんでもない!」

 立ち止まり振り返ろうとした秋名。
 ヒメは慌てて首を横に振った。

 ――び、びっくりした……

 どきどきと心臓が暴れている。

 ――あたし……

 何を口走ろうとした?
 秋名に触れられた首元の痕に指で触れる。

 ――……あっ、そうだ

 ふと思い出したヒメは鞄から鏡を取り出した。

 ――なに、を…………ッ!?

 鏡の中。
 首には、もうずっと変わらず傷痕がある。
 けれど、その周囲に……

「これ、って……」

 赤い小さな花弁を散らしたような痕。
 それは、強く吸い付かれたことによってできる痕――所謂キスマーク。

「ッ!!」

 体の熱が急上昇した。
 好きだとか。
 手を繋ぎたいとか。
 ずっと一緒にいたいとか。
 そういうことの、もうひとつ先。
 それは考えたことがなかった。

 ――秋名は、そういうことしたいのかな?

 キッチンに視線を向ければ、料理をする秋名の背中が見えた。
 触れてきた掌や舌の感触を思い出して、顔も体も熱くなる。
 巻き直したマフラーに顔を埋めた。

 ――秋名……

 いつからか、と聞かれると答えに困るけれど。
 想いはずっと抱き続けている。

「お待たせ」

 思考を遮って、秋名の声がした。
 振り返れば、丼を持った秋名の姿。

「うどんでいいか?」
「うん!」

 ヒメの前に丼を置いて、秋名は向かい側のソファに腰かけた。

「いただきまーす!」

 幸せそうに、美味しそうに食べるヒメ。
 それは、見ているだけで嬉しくなる。

 ――わかってんのかな……

 いつも通りに隠された首元。

 ――わかって……ないんだろうな

 ずっと一緒にいた。
 だから、これからもずっと一緒だと思っていた。
 正直、ずっと一緒にいたいと思っている。
 守りたいし、傍にいたい。
 その感情の理由――想いの存在も自覚している。

 ――でも……

 ヒメはヒメで、妖怪だろうが関係ない。
 けれど、自分は比泉の人間なのだ。

 ――ヒメは、あれを見てないもんな……

 祖父がヒメの祖母を送った時のことを思い出すと、抱いている想いに躊躇してしまう。

「秋名?」

 どうしたの?と、ヒメが首をかしげる。

「なんでもないから、さっさと食え」

 美味しそうに、幸せそうに食べるヒメを見ているのが好きだ。

 ――どうしたもんかな……

 思うところは色々あるけれど、想いは1つだけ。
 なんのしがらみもなく、告げてしまえればいいのに……

「秋名……」

 ごちそうさまでした。と空になった丼を前に両手を合わせたヒメが、顔を上げた。





   *   *   *





「ん?どうした」
「秋名のムッツリスケベ」

 真っ正面から見つめたヒメが、突然、真顔で言い放った。

「おい……じゃなくて!」

 思わず、いつもどおりに冷静にツッコミかけて、秋名は我に返った。

「なによぅ」
「おまえなぁ」

 ふんっ、とヒメがそっぽを向く。
 耳が赤い。

「そんなこと言ってると……」

 立ち上がった秋名にテーブルごしに迫られて、ヒメはびくりと体を強張らせた。

「ほんとに襲っちまうぞ」
「きゃー!いやー!」

 バタバタと、広くもない事務所の中を、じゃれあうように追いかけあう。

「おまわりさーん、このひとちかんでーす!」
「おい!」

 ひらひらと舞うマフラーの端を、秋名の手が掴んだ。

「つかまえた」
「わっ!?」

 ぐいっと引っ張れば、ヒメの体は勢いのまま倒れ込んで……

「あっ」

 抱き止められて、ヒメは体を強張らせた。

「何もしないから」

 ――え?

 ぎゅうっと抱き締められて鼓動が速くなる。
 ヒメは恐る恐る身を預けた。

 ――秋名?

 言った通り、秋名は何もせず、ただヒメを抱き締めているだけだった。

 ――秋名、分かってる?あたしは……

 秋名の考えていることは分からない。
 でも、ずっとずっと前から……抱き続けている想いはある。

「秋名、どうしたの?」
「ん?なんでもない」

 ――ウソ

 なんでもないなんて嘘だ。
 こうやって、秋名はいつも一人で何もかも抱え込んでしまう。
 そんな秋名が昔から好きだけれど、何も言ってくれないことには腹が立つ。

「秋名」
「え?」

 両腕を伸ばして、ヒメは秋名に抱きついた。

「ヒメ?」
「今だけ」

 ――ヒメ……

 ぽんぽん、と背中を叩くヒメの手。
 お返しに……と、秋名の指がヒメの髪を梳いた。
 なんだかくすぐったくて、くすくすと笑いが零れる。


 ――今だけは……

 言葉になんてしていないから、互いの気持ちなんて分からない。
 だからといって、それを伝えることもできなくて……また胸の奥にしまいこむ。
 いつか、それを告げることのできる日が来るのだろうか……

 分からないから、今、この時だけは――





   *   *   *





「毎度ー!」
「ただいまー!」

 声と共に開いたドア。
 途中で一緒になったのだろうか。
 ことはとアオが、いつもどおりに事務所に足を踏み入れ……

「あ、これはこれは……」
「お取り込み中、失礼しました」

 そのまま踵を返した。
 事務所の中で抱き合う二人を残して……

「おぉい!ちょっと待て」
「ち、違うってば!」

 慌てて離れて声を上げるけれど、にやにやと笑う二人は、ごゆっくりーと出て行ってしまった。



 おしまい

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