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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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くすぐったいね【tactics】

『共にいる幸福で5のお題』より やっこ→勘太郎 風味

くすぐったいね




 思わず、口元に笑みが浮かんだ。

 泣いてばかりだった彼が、今は、あんなにも楽しそうに笑っている。
 いつも、後ろに隠れていただけだったのに…誰かを守れる男になった。
 それが、嬉しくて……少し、さびしい。

「ちょっと、見直したよ。」

 まだまだ…だけどね。
 小さく呟いて、傾ける杯。

「なあに?」

 何か言いたげな目を向けた幼馴染が、不機嫌そうに言った。

「何でもないよ。」
「また、何かボクの悪口言ったでしょ?」

 幼いころから共に育って。
 いつの間にか大人になって。
 それぞれの道を進んで。
 けれど切れない縁がある。

「あんたの悪口言ったって、何の得にもなりゃしないよ。」

 笑ってやれば、少し拗ねた顔をする。
 そんなところは変わらない。
 自分の意地悪な性格と同じだ。

「何、面白い顔してんだい。」
「いひゃいよ!」

 頬を引っ張れば抗議の声。
 そんな二人の様子に、笑い声が上がる。
 二人の力関係が面白いのだろう。
 珍しいものを見たという顔をしているのが、最近、よく姿を見せるようになった青年。
 おなかを抱えて笑っているのは、何年か前から一緒に住んでいるらしい少女。
 彼の恩師は、いつも変わらず柔和な顔で楽しげに二人を見て笑う。
 彼の後輩である男は、呆れたような笑いを浮かべていた。

「みんなひどいよ!」

 赤くなってしまった頬をさするのを横目に見ながら、やはりゆるんでしまう頬。
 人から避けられ、いじめられていた小さな男の子の元に、今は人が集まる。
 たとえ、今、公に見せている顔が…自身を守るための盾であろうとも。
 
 ――ほんとは、素のままの自分が出せればいいんだけどね。

 そう思うけれど、そればかりはどうにもできない。
 傷は深すぎる。
 それは、ずっと見ていた自分がよく知っている。

「ちょっとは、本当の自分ってのも…見せてやらなきゃ、絆は深まらないよ。」

 ぽつりとつぶやいた声が耳に届いたのか、ちらりと向けられた赤い瞳がわずかに揺れた。
 何かを告げようとした唇が、開いてすぐに閉ざされる。
 紅を引いた唇を笑みの形に歪め、軽く目を伏せた。

 ――それを決めるのはあんた自身だってのはわかってるけど。

 けれど、少しぐらい心配させてくれたっていいだろうと思う。
 短い付き合いでもないのだから。

「泣いてないなら…それでいいんだけどね。」

 彼にだけ聞こえる声で告げて、銚子を手にする。
 くすくすと小さく笑うのを見ながら、注ぐ酒。

「子供扱いしないでよね。」
「何言ってんだい、子供の頃から何にも変わってないくせに。」



 幼馴染というのは厄介なものだ。
 この不思議な距離は、いつまでも変わらないのだろうけれど…
 いつだって傍についていてやらなければ、一人では何もできなかった幼馴染が、ほんの少しだけかっこよく見えたなんて…絶対本人には言えない。

 ――言ってやるもんですか。悔しいから。

 あの時感じた、くすぐったい感情は、きっと…ずっと彼女の胸の内に秘められ続ける。


お題「共にいる幸福で5のお題」【配布元:原生地 様

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