葦原家・過去捏造
『共にいる幸福で5のお題』より
3人共にいられるならそれが一番
一緒な幸せ
「ねえ。これ、やろうよ!」
三人で揃って出掛けた寺の境内。
千尋が見つけたのは、境内スタンプラリーのチラシだった。
素早く三人分の台紙を確保してきた千尋が、きらきらと好奇心旺盛な瞳で、千尋が那岐と風早の腕を引っ張った。
「やだよ、面倒くさい。」
「面白そうですね。」
真逆の答が返ってきて、千尋は、全力で拒否した那岐に手にした紙を突き出す。
「だって!これ全部集めたら、500円の数珠がタダで貰えるんだよ!」
「どうだっていいし、そんなの。」
背中を向けてしまった那岐の腕を、決して離すまいと掴む千尋。
ゲンナリとした顔で肩越しに振り返る那岐へ、ウルウルと、今度は泣き落としの準備。
「泣き落としとか、卑怯だろ。」
「まあ、せっかくだから千尋につきあいましょう。」
風早のにこにこ顔。
千尋の味方を得て勝ち誇った顔。
「あんたは千尋を甘やかせすぎだろ……」
はあ……
大げさな溜息を吐きながら、那岐は、いつもどおり負けを認めるしかなかった。
「歪んだ・・・」
何回も何回も多くの人に押され続けたスタンプは、すでに周りから丸くなっていて、少し押しづらくなっていた。
「別にいいだろ、それで。」
「よくない!」
何故だか、その少し押しづらいスタンプを、千尋は真っ直ぐにクッキリ押そうと躍起になっていた。
那岐が適当に、風早が丁寧に、それぞれ押した後に気合を入れて押してみれば、どういうわけか千尋のものは歪になってしまう。
「だって、二人は、ちゃんと綺麗に押せてるんだもん。」
だから自分だって綺麗に押したいのだと、千尋は頬を膨らませた。
那岐は、今日、幾つめか分からない溜息を吐いて、手にした紙を、インクを乾かすためにひらひらさせる。
「俺が押しましょうか?」
「ダメ!自分でやるの!」
「たかがスタンプラリーで、何、必死になってるんだか…」
風早の助け船にも、半分意固地になって、千尋は次のポイント目指して歩き始めた。
「縁結・・・だってさ」
「縁結び・・・って言っても別に恋愛だけじゃないんですよ。」
先にスタンプを押した那岐の言葉を受けて、風早が蘊蓄を語りだす。
けれど、気合を入れてスタンプを構える千尋は、ほとんど話を聞いていなかった。
呆れ顔で、話を続ける風早と、なんとなくの結果が予想できる千尋を、那岐は横目で観察する。
「よし、今度こそ!………ああっ!!」
やっぱり…と軽く頭痛を起こした頭を押さえて、那岐は悲壮な声を上げた千尋の手元を覗き込んだ。
「結べてないよ?縁。」
吹き出した那岐が発した言葉に、千尋は愕然とスタンプを見つめた。
横から覗きこんできた風早も、苦笑交じりに、おやおや……と呟く。
『縁結』という文字の『結』の字が欠けている。
完全に落ち込んでしまった千尋が、肩を落として俯いてしまった。
「千尋、大丈夫です。」
穏やかな風早の声に、千尋はおずおずと顔を上げた。
振り返ると、風早が微笑んでいる。
「ほら、俺や那岐との縁はちゃんと結べています。」
「こんなの、ただのスタンプだろ?気にしなくていいんじゃないの?」
風早の穏やかな言葉。
那岐の呆れたような声。
千尋は、二人とスタンプ台紙を見比べた。
「ほら、千尋。まだ半分残ってますよ。」
「千尋。さっさと終わらせて帰ろう。」
千尋が『縁結』のスタンプに重ねていた感情を、きっと二人は気づいていたのだろう。
戸惑う千尋を、二人が肩越しに振り返って見る。
もう一度スタンプ見て、二人を見て……千尋は足を踏み出した。
縁の結ばれた二人と一緒にいるために。
終
大半が実話だったりとかする
実際に「結」べなかった「縁結」の写真は、日記のどこかに埋まってます(笑)
きっちりしてるのがいいと髪形のことを言ってた千尋ですから、スタンプもやはり…
縁結びの件ですが、千尋の抱く無意識の不安は男二人の方がよく分かってそうだ
お題「共にいる幸福で5のお題」【配布元:
原生地 様】
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