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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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その手を取って【アカセカ/乱巫女】

アカセカの巫女ちゃんと乱歩さんのお話3本目
イベント「文壇ロマネスク」の共通六話の続きを乱巫女で捏造いたしました。
ネタバレはしてないはず……
その手を取って



 差し出された乱歩さんの手を取った私は、そのまま強い力で引き寄せられた。
 抱き寄せるように腰に回された手。
 遠巻きに見ている女性たちからの視線が怖い。

「だめだよ、今は僕だけを見て」

 囁かれ、どきりとする。
 ダンスなんて慣れていないから、戸惑いながら私は顔をあげた。

「あ、あの。私、ダンス慣れてなくて……」
「大丈夫。任せて」

 言われるまま、促されるまま、私はくるりくるりとドレスの裾を翻す。
 いつもより近い距離。
 間近で微笑む顔は目元が仮面に隠れていて……その向こうで瞳が私を見つめていた。

「ねえ」

 耳元で囁く声。

「この曲が終わったら……少し外に出ようか」

 その誘いに私は頷く。
 嬉しそうに笑う乱歩さんの様子に、心臓が大きく跳ねた。







 私がそれに気づいたのは、曲がそろそろ終わろうとしたころだった。
 いつのまにか、私を刺すような視線を感じなくなっていて……あれ?と顔を見上げる。
 仮面の奥の瞳が悪戯っぽく笑った。
 くるりくるりと、私たちは人の輪を抜けて最初の場所から離れていた。

「おいで」

 曲が終わった瞬間、私は手を引かれた。

「えっ?」

 近くの扉からするりと抜け出す。
 そのまま私たちは庭に出た。

「うまく抜け出せたね」

 仮面を外すと、乱歩さんはとても楽しそうに笑った。
 しばらくは誰も気付かないよ。
 そう言って、まだ音楽の聞こえる室内に視線を向ける。

「怪盗らしく会場から君を盗み出した僕を追いかけてくる探偵はいないようだね」

 乱歩さんが私へ視線を向けた。
 どきりとする。
 今の今まで浮かんでいた悪戯っぽい笑みが消え、真剣な目が私を見つめていた。

「え?乱歩さん……」

 繋いだままだった手を引かれ、私はそのまま抱き寄せられた。

「やっと独り占めできるよ」
「……っ!」

 囁かれた甘い声。
 いつもより少し低いそれに、私の背中をぞくりとした感覚が走った。
 背中に回された両腕が私の体をしっかりと抱き締め、耳元に寄せられた唇から零れる息が耳朶に当たった。

「……乱歩、さん」

 ドキドキが止まらない。
 耳も頬も熱くて、私はそのまま乱歩さんの胸に顔を埋めた。

「怪盗の僕は嫌?」
「え?」

 問われて顔を見上げれば、悪戯っぽく笑う乱歩さんの顔。
 見下ろしてくる瞳には、ゆらゆらと妖しい熱が浮かんでいて……私はもうとっくに心を盗まれていたのだと悟る。

「会場から君を盗み出して……」

 近づいた顔。
 唇に当たる吐息。

「次は何を盗もうか?」

 くすくすと笑いながらも、その目は次に盗むものを予告している。

「らんぽ……さん……」

 目を閉じれば、手のひらが私の後頭部に触れる。
 ふわりと唇に柔らかな熱が触れた。

「パーティーが終わったら……」

 僅かに離れた唇が囁く。

「その後の君の時間を、僕にくれるかい?」
「はい」

 頷いた私の唇を、答えと共に乱歩さんが再び奪っていった。

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