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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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ふゆのおもいで~遠い日の記憶~【tactics】

ふゆのおもいで」の昔話みたいな話
ヨーコちゃんがまだ普通の狐
ふゆのおもいで~遠い日の記憶~




 ふと…今日は、いつもは静かな周囲が、やけに騒がしいような気がした。

 寒いこの時期、人里へ行っても畑にも田にも何も残ってはいない。

 当然、木々に実なんて成ってはいない。

 

 ――おなかすいたな…

 

 狐は、時折、その身を包む毛皮すら意味なく思えるほどの冷たい風を受け…小さく身を震わせた。

 

「ノセンギョウヤ、ノセンギョウヤ…」

 

 遠くの方から聞こえてくる、人間の声。

 こんな季節に、こんなところまで来るなんて…なんて物好きなんだろう…

 思いながら、声の聞こえてきた方へ興味深げに近づいた。

 

「この辺なら、いそうだろ?」

「んじゃ、あの岩の辺にでも置いといてやろうや」

 

 何の話をしているのだろう…

 気付かれてしまえば、以前に捕らわれた仲間たちみたいに、酷い目に遭わされるかもしれない。

 でも、遠目に見える人間たちは、武器を持っているようには見えない。

 

「おい、ちょっとこっち照らせ」

 

 男の声で、傍らの人間が手にしていた高張り提灯を男の手元に向ける。

 岩の上に何か置いて、人間たちは何故かその場へと整列して拍手を打っていた。

 

「さ、行くべ」

「ちゃんと冬越してくれっといいな」

 

 口々に言いながら、人間たちはまた、

 

「ノセンギョウヤ、ノセンギョウヤ…」

 

 と、どこかへ歩いていった。

 

 

「これ…」

 

 狐は、人間たちの声が聞こえなくなった頃、何かを置いていった岩の上を見に行った。

 ちょこん…と乗せられていたのは、竹の皮に包まれた何か。

 鼻先を掠めたのは、食べ物の匂い。

 そして、ふと思い出したのは母から聞かされた言葉。

 

  ――冬の食べ物のない頃に、人間たちが置いて行ってくれるのよ

 

 そう言って、まだ幼かった自分へ、これとよく似たものを持って帰ってきたことがあった。

 これがきっと、それなのだろう。

 人間は、自分たちに対して悪いことばかりしてくるわけじゃない…初めて、そう気付いた。

 

 おそるおそる包みをくわえ、狐は、胸の奥に生まれた、あたたかい思いを抱きながら寝床へと帰っていった。

 
*   *   *

 

  ――野や山に、油揚とかをお供えする行事があるんだよ

    キツネがひもじい思いをしないように…って

 

 この食べ物を包んだ包が一体何だったのか…

 それを知るのは…何百年か後の話である。

 

 遠い遠い…昔々の、おはなし。

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