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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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甘く…蕩けそうな…【遙か3/弁望】

京ED後 薬師夫婦
薬師夫婦でバレンタイン話

甘く…蕩けそうな…


 

「あ~っ!」

 

 ある夜、突然、望美は声を上げた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 驚いて部屋に飛び込んできた弁慶が見てみると…

 泣きそうな顔で、望美がこちらを見つめてきた。

 

「弁慶さんの誕生日のことでバタバタしてたから…バレンタインのこと、すっかり忘れてたぁ…」

「ばれ…?」

 

 弁慶には一体何を言っているのか分からない。

 そんな弁慶の様子には気付かず、

「あ~ん、ばかばか~私のばかぁ~」

 自分の頭をぽかぽか叩きながら、望美は部屋の真ん中で大騒ぎだ。

 

「望美さん!」

 慌てて両手首を掴み止めさせると、弁慶は望美の正面に座り込んだ。

「落ち着いてください。」

 

「弁慶さぁ~ん…」

 涙が溜まった瞳。

 弁慶は、指でその雫を拭うと、落ち着かせるようにゆっくりと話しかけた。

 

「まず、そのバレ…なんとかというのは?」

「バレンタインです・・・」

「一体何のことなんですか?」

 

 問われて、望美は説明を始める。

 

 元いた世界の別の国で始まった行事で、自分の国では女性が男性へチョコレートという菓子を渡したり贈り物をして愛を告白する日なのだと。

 だから、どうしても大好きな人へチョコレートを贈りたかったのに、忘れていたことが悔しいのだと…

 

 

「ちょこれーと…というものをいただかなくても、僕は君が好きですよ?」

「そ、それは…それは私もそうですけどっ!」

「なら、それでいいじゃないですか」

「だ、だけど…」

 

 微笑む弁慶に、望美は少し不満そうに頬を膨らませた。

 好きな人に本命チョコを手作りで渡したい…そんな願望があったからだ。

 とはいえ、この世界で上手くチョコレートを作れるかどうか自信なんてなかったし…そもそも、材料すら手に入らないだろう。

 ……譲なら作ってしまえそうだが……

 

 溜息をつき、弁慶はそっと望美を抱き寄せた。

「弁慶…さん?」

「『贈り物をする日』だと言っていましたよね?」

「はい」

「……じゃあ、君が今できる『贈り物』でいいんですよ…」

 耳元で囁く声。

 

「え?」

「その…『ちょこれーと』という菓子は、君の世界のものでしょう?どうやって手に入れるつもりなんですか?」

 くすくすと可笑しそうに笑うのが聞こえて、望美は真っ赤になった。

 

「意地悪言わないでください…」

「意地悪なんて言ってませんよ?僕は…違うものを贈ってくれればいいと…言っているんです」

「違う…もの?」

 

 ふ…と顔を上げる。

 少しだけ身体を離して顔を覗き込んでくる弁慶に、望美の胸は鼓動を早めてゆく。

「でも…何を……」

「――言ったでしょう?『今できる』ものでいい…と。」

「あの…」

「――……君でいいですよ……」

 

「っ!」

 甘い囁き。

 触れた唇。

 きっと…チョコレートよりも甘い……くちづけ。

 上手く誤魔化されただけのような気もするが……

 

 何よりも甘く、全てが蕩けてしまいそうな夜が…更けていった。

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