甘く…蕩けそうな…【遙か3/弁望】 2007年05月01日 遙かなる時空の中で3 0 京ED後 薬師夫婦 薬師夫婦でバレンタイン話 甘く…蕩けそうな… 「あ~っ!」 ある夜、突然、望美は声を上げた。 「ど、どうしたんですか!?」 驚いて部屋に飛び込んできた弁慶が見てみると… 泣きそうな顔で、望美がこちらを見つめてきた。 「弁慶さんの誕生日のことでバタバタしてたから…バレンタインのこと、すっかり忘れてたぁ…」 「ばれ…?」 弁慶には一体何を言っているのか分からない。 そんな弁慶の様子には気付かず、 「あ~ん、ばかばか~私のばかぁ~」 自分の頭をぽかぽか叩きながら、望美は部屋の真ん中で大騒ぎだ。 「望美さん!」 慌てて両手首を掴み止めさせると、弁慶は望美の正面に座り込んだ。 「落ち着いてください。」 「弁慶さぁ~ん…」 涙が溜まった瞳。 弁慶は、指でその雫を拭うと、落ち着かせるようにゆっくりと話しかけた。 「まず、そのバレ…なんとかというのは?」 「バレンタインです・・・」 「一体何のことなんですか?」 問われて、望美は説明を始める。 元いた世界の別の国で始まった行事で、自分の国では女性が男性へチョコレートという菓子を渡したり贈り物をして愛を告白する日なのだと。 だから、どうしても大好きな人へチョコレートを贈りたかったのに、忘れていたことが悔しいのだと… 「ちょこれーと…というものをいただかなくても、僕は君が好きですよ?」 「そ、それは…それは私もそうですけどっ!」 「なら、それでいいじゃないですか」 「だ、だけど…」 微笑む弁慶に、望美は少し不満そうに頬を膨らませた。 好きな人に本命チョコを手作りで渡したい…そんな願望があったからだ。 とはいえ、この世界で上手くチョコレートを作れるかどうか自信なんてなかったし…そもそも、材料すら手に入らないだろう。 ……譲なら作ってしまえそうだが…… 溜息をつき、弁慶はそっと望美を抱き寄せた。 「弁慶…さん?」 「『贈り物をする日』だと言っていましたよね?」 「はい」 「……じゃあ、君が今できる『贈り物』でいいんですよ…」 耳元で囁く声。 「え?」 「その…『ちょこれーと』という菓子は、君の世界のものでしょう?どうやって手に入れるつもりなんですか?」 くすくすと可笑しそうに笑うのが聞こえて、望美は真っ赤になった。 「意地悪言わないでください…」 「意地悪なんて言ってませんよ?僕は…違うものを贈ってくれればいいと…言っているんです」 「違う…もの?」 ふ…と顔を上げる。 少しだけ身体を離して顔を覗き込んでくる弁慶に、望美の胸は鼓動を早めてゆく。 「でも…何を……」 「――言ったでしょう?『今できる』ものでいい…と。」 「あの…」 「――……君でいいですよ……」 「っ!」 甘い囁き。 触れた唇。 きっと…チョコレートよりも甘い……くちづけ。 上手く誤魔化されただけのような気もするが…… 何よりも甘く、全てが蕩けてしまいそうな夜が…更けていった。 PR