春の兆し【スレイヤーズ/ガウリナ】 2007年09月06日 スレイヤーズ/その他 0 現代パラレル設定 春のお話 少々シリアスっぽい感じ シリアス→ほのぼの? 春の兆し どこからともなく、甘い花の香りが混じった風が吹いてきた。 「そっか…もう、春なんだ……」 呟いて、リナは、少し霞がかかった空を見上げた。 ――あれから、もう…… ふと脳裏を過ぎった過去の出来事に、リナは慌てて頭を振り全てを払拭する。 「全部、もう終わったんだ。」 自分に言い聞かせるように言って…… 「何が終わったんだ?」 突然背後から聞こえた声に、リナは飛び上がった。 「お、おどかさないでよっ!」 振り向きざまに、声の主の鳩尾へ肘鉄をお見舞いして、リナは怒鳴る。 ……すでに地面に撃沈している相手に怒鳴ったところで、あまり意味はないが…… 「お前な……」 よろよろと、それでも何とか立ち上がって、ガウリイは自分より背の低い少女を心配げな瞳で見た。 「――まだ、気にしてるのか?」 「そういうわけじゃないけど…」 全てを語らずとも、何もかも分かっている。 そこに居合わせたのは、ガウリイだって同じだから…… 「なあ、リナ。」 歩調をあわせて、二人は並んで歩き出した。 人も車もあまり通らない、路地の先へと。 「何?」 振り返らず、前を向いたままでリナは答える。 ――やっぱ、気になるんだな…… まだ中学生だった彼女には、あの出来事は…あまりにも重かったはずだ。 忘れようにも忘れられないだろう…… あれから、そろそろ三年が経つ。 ……同じアパートの住人の悲劇から…… カサ…… 微かな音がして、リナの目の前に包みが一つ差し出された。 「ガウリイ?」 足を止め、リナはガウリイを振り返った。 不思議そうに見つめてくる瞳に、ガウリイは、小さく咳払いしてから言った。 「ホワイトデーには10倍返し…って言ってたろ?」 「言ったわね。」 「10倍かは分からんが……これ、お返しだ。」 両掌に載せて、少し余るくらいの大き目の袋。 それとガウリイを交互に見て、リナは口の部分のリボンを解いた。 「………………」 大きな溜息。 「ガウリイ…あんたね……」 「なんだ?」 袋に入っていたのは、リナが贈ったチョコレートの…10倍ほどの量の菓子。 ――間違ってはいないんだけどね…… 「なんでもない。」 呆れてしまって、言葉も出ない。 「ホワイトデーを覚えてただけでも、よしとしましょう。」 過ぎてゆくのは、ゆったりとした時間。 すこし、哀しみに傾いていた心は、ガウリイのおかげで癒されて…… ――コイツのボケのおかげかもね…… あれほど重い出来事に遭ったというのに、自分が自分らしく…これまでいられたのは、ガウリイがいてくれたからかもしれない…そんな風に思い始める春の日。 新しい時間が刻み始める、ほんの少し前の…のどかな午後。 PR