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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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春の兆し【遙か3/弁望】

春の京
暖かな春の昼下がり、午睡をしていた神子を見つけて…
春の兆し


 

「こんなところで眠っていては風邪をひいてしまいますよ?」

 あたたかな日差しが降り注ぐ春の昼下がり。

 まどろみの中、遠くに聞こえてくる声に、意識は深く沈んだままで…

「仕方ないな……」

 

 ――なに?

 どこか、現と繋がってる部分だけが、不意に浮き上がる体へ疑問を浮かべる。

 

 

 ゆら、ゆら、ゆらり…

 心地よい揺れが、更なる眠りへと誘ってゆく。

 夢うつつを彷徨う意識。

 

 

「君は、無防備すぎますよ。」

 足音と一緒に聞こえてきたのは、囁くような声。

 

 ――この声…

 

「べんけい…さん?」

「起こしてしまいましたか?」

 

 ――やっぱり弁慶さんだ。

 

「……寝言…みたいですね……」

 深い溜息。

 伝わってくる揺れが止まった。

 背中に感じるのは、柔らかな布の感触。

「午睡なら、ちゃんと部屋でしてください。」

 衣擦れの音。

 呆れたような声。

 胸いっぱいに溢れてくる、幸福な感情。

 

 

「ん……弁慶さん……」

「えっ!?」

 立ち上がろうとした衣の端を掴まれて、転びそうになる体を慌てて立て直す。

 起きたのかと顔を覗き込んでも、目を閉じた寝顔は安らかで…

「いけない人ですね…」

 

 ――そんな風にされてしまったら……

 

 

 

 さらさらと長い髪が、花の香の混じった風に揺れる。

 ふわり…と薄紅の花びらを、吹き過ぎた春風が攫って行った。


 

 

 

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