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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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うえでぃんぐ・べる【スレイヤーズ/ガウリナ】

ガウリナ結婚式話。
 二人を祝う仲間達。妹を思うルナ。 彼らを眺めているゼロス。
 幸せだけどちょっと切ない…そんなお話。

※過去にオフラインで発行した本に載せていたものです。当サークル唯一の再版本。あの時は皆様本当にありがとうございました。

うえでぃんぐ・べる



「ご結婚おめでとー!」

 

 たくさんの祝福の声が飛ぶ。                        

 照れからか、落ち着かない素振りでわたわたしている少女。

 そんな少女を優しい瞳で見つめる男。

 

 

 

 少し、複雑ではあった。

 

 何だかんだと厳しくしてきたが、ルナにとってはかわいい妹に変わりないのだから。

 

 妹と自分と歳のそう変わらないであろう義弟を取り囲む、彼女らの仲間たちの輪に入る気にもなれず、ルナは傍の木にもたれるようにして、照れくさそうに……しかし幸福いっぱいの微笑みを浮かべる、リナを見つめていた。

 

「まったく……妹に先を越されるとわね。」

 

 寂しさを誤魔化すように愚痴ってみたものの、胸にポッカリ穴が開いたような気分になるのも、ほんの少し嫉妬がこみあげてくるのも、無視することはできなかった。

 

 リナが生まれてからいままでの、たくさんの記憶が思い出されて、がらにもなく感傷的になっている自分がなんだかおかしくなって、ルナは苦笑を浮かべた。

 

 ……と、その時。

 

 どすんっ!

 

 もたれていた木の反対側に、何かかが墜落する音が聞こえた。

 

 ふとのぞき込んでみると、

 

「あら?」

 

 そこには見知った顔がひとつ。

 

「あんた来てたの?――物好きね。」

 腕組みをしながら、地面でひくついている落ちてきたモノに、ルナは呆れた様子で呼びかけた。

 

「あ…、ルナさん。

 どーも、ご無沙汰してます。」

 地面にうつ伏せたまま顔だけ上げて、親しげな挨拶を返してきたのは、黒ずくめの神官――いや魔族だった。

 

「――で。なにしてるの?ゼロス。」

 そんな彼を、ルナは冷ややかに見下ろした。

 

 彼がここにいる理由も、木の上から落ちてきた理由も、何となく見当はついたが……

 

「見てのとーり、食あたりです。」

 答えて、ゼロスは頭かいた。

 心なしか、顔が青ざめて見えた。

 

 やはり、今この辺りを包んでいる空気は、負の感情を糧としている彼ら魔族には毒にしかならないらしい……と、ルナは妙な確信を得てしてしまう。

 

「まあ、ルナさんの、ガウリイさんに対する嫉妬ってやつは、結構おいし…ぶっ!

 …………すびばせん。」                          

 

 言いかけて、途中でルナに頭を踏み付けられたゼロスは、不本意ながら地面とキスをしてしまう。

 

 思わず謝ってしまうのは、いつの間にか学習した、ルナには逆らわないでおこう…という教訓の結果であった。

 

「人の感情、勝手に食ったわね。」

 そして、自分に向けられた絶対零度の微笑みに、ゼロスは一瞬、恐怖を覚えてしまう。

 

「い…や……あのお……」

「なんなら、今、幸せ絶頂のあの輪の中に放り込んであげましょうか?」

「……結構です。」

「遠慮なんてしなくていいのよ?」

 しどろもどろのゼロスへと、笑顔のまんまで語りかけるルナ。

 

 どうやってもルナに勝てないゼロスであった。

 

「……まあ、冗談はこの位にしておいて……」

 決して冗談には聞こえなかったのだが……いい加減ゼロスをいじるのに飽きたのか、ルナは肩をすぼめて踏みつけていたゼロスを解放する。

 

「あんたね、あの『らぶらぶオーラ』でダメージ受けて、打ち落とされたハエかなんかみたいに落ちてくるんなら、最初っからここに来なきゃよかったんじゃないの?」

 

「あの……『ハエ』……って……。

 まあ、確かにおっしゃる通りなんですけどねぇ。」

 ルナの指摘に苦笑を浮かべため息をついて、ゼロスは頭をかきながら立ち上がった。

 

「何というか……。やはり、知り合いのめでたい席ですし、出席しないわけにはいかないというか……。」

「魔族が『めでたい』とか言ってどうする。」

 すかさずつっこむルナ。

 

 そのつっこみは無視して、ゼロスが続ける。

「ですけど、――人間って面白いですね。

 同じ人が、一度にいろいろな感情を味あわせてくださる。」

 

 言って、正面からルナを見つめると、ゼロスはほんの少し目を開いて口元に笑みを浮かべた。

 

「……ルナさん。今日のあなたは、『お姉さん』の顔をしてらっしゃいますよ。」

「余計なこと、言うんじゃないわよ。」

 軽く、ルナはゼロスを睨みつけた。

 

 しかしその表情には、彼女が滅多に見せない優しい色が混じっていた。

 

「おや?ルナさん。

 その『大切な妹さん』がこちらへいらっしゃいますよ。」

 視線を、前方に向けてゼロスが言った。

 

「……というわけですので。」

 言いながら、隣でゼロスが宙に浮かんだのを見て、

「……帰るの?」

 ルナが問う。

「ええ。

 リナさんにも、ガウリイさんにも何やかやと言われるのはごめんですし。

 アメリアさんに正義の何たるかを演説されるのも嫌ですし……

 なにより……これ以上、正の感情を摂取し過ぎて、食中毒になるのは遠慮したいですからね。」

「なるほどね。」

「それじゃ、ルナさん。ごきげんよう。」

 にこやかに手を振り、ゼロスの姿が虚空に解け消える。

 

「まったく……何しに来たんだか。」

 苦笑を浮かべながら、ルナはポツリと呟いた。

 

 

 

「姉ちゃんっ!」

 声とともに、首にしがみついてくる小柄な少女。

 

「こら!いきなり飛びつくんじゃない。」

「えへへ」

 笑いながら、リナは地面に降りた。

 

「で?どうしたの。」

 問うルナに、

「だって、姉ちゃんってば、式の始まる前もいつの間にかいなくなってるんだもの……いろいろ話とかしたかったのに……」

 俯いて、頬をふくらませて言う妹の姿にルナは苦笑を浮かべた。                                         

 

「話って?」

「え……っとね。

 なんていうか……その……今まで、ありがとね。

 旅に出てからは、あんまり会えなかったけどさ。

 やっぱし…あたしにとっては、あの……たった一人の姉ちゃんだし。」                                   

 照れ臭そうに話す妹に、ルナは改めて実感する。

 

 今までは、旅に出ていたとはいえ帰ってくるのは両親と自分のいる家だった。

 しかし、これからは……彼女が帰る場所は愛する人のもとなのだと。

 

「あれ?あたし、何が言いたいんだろ?」

 伝えたいことが言葉にならなくて混乱するリナ。

 

「リナ。」

 そんなリナに小さく微笑んで、ルナは妹の頬に触れた。

 

「幸せにね。

 ……たまには、実家にも戻ってらっしゃいよ。」

 

「――っ……」

 姉が向けた優しい微笑みに、リナは言葉を詰まらせた。

 瞳に、涙が膨れ上がる。

 

「姉ちゃんっ!」

 しがみついて、嗚咽を漏らす妹の背中を、ルナは黙って優しく叩いた。

 

 そうか……

 ルナは気付く。

 寂しいと感じているのは自分だけじゃない。

 この妹も……離れていく妹も、そうなのだ……と。

 

 

 ふと感じた人の気配に、ルナは顔を上げた。

 

 妹のすぐ斜め後ろに佇む男……義弟の……姿。  

 

「……妹を……リナをよろしくお願いします。」  

 いまだ泣きじゃくる妹の肩を押しやり、ルナは義弟と向き合った。

 

「任せてください。」

 微笑んで、ガウリイはリナの肩を抱いた。

 

 

「リナー!ガウリイさーん!ルナさーん!」

 

「お。アメリアが呼んでるぞ。」

 ぐいっ、と涙を拭って、リナは振り返りそちらに向かって手を振った。

「今行くー!」

 

 そして、姉の手を取る。

「姉ちゃん。行こう!」

 微笑んで、リナは駆け出した。

 ルナもつられて微笑み、共に走り出す。

 

「あ、こら、待て!」

 おいてけぼりをくったガウリイがその後を追った。

 

 

 

 教会の鐘の音が、澄んだ空に響き渡っていた。  

 

 

 

 

END

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