うえでぃんぐ・べる【スレイヤーズ/ガウリナ】 2007年03月10日 スレイヤーズ/ガウリナ 0 ガウリナ結婚式話。 二人を祝う仲間達。妹を思うルナ。 彼らを眺めているゼロス。 幸せだけどちょっと切ない…そんなお話。 ※過去にオフラインで発行した本に載せていたものです。当サークル唯一の再版本。あの時は皆様本当にありがとうございました。 うえでぃんぐ・べる 「ご結婚おめでとー!」 たくさんの祝福の声が飛ぶ。 照れからか、落ち着かない素振りでわたわたしている少女。 そんな少女を優しい瞳で見つめる男。 少し、複雑ではあった。 何だかんだと厳しくしてきたが、ルナにとってはかわいい妹に変わりないのだから。 妹と自分と歳のそう変わらないであろう義弟を取り囲む、彼女らの仲間たちの輪に入る気にもなれず、ルナは傍の木にもたれるようにして、照れくさそうに……しかし幸福いっぱいの微笑みを浮かべる、リナを見つめていた。 「まったく……妹に先を越されるとわね。」 寂しさを誤魔化すように愚痴ってみたものの、胸にポッカリ穴が開いたような気分になるのも、ほんの少し嫉妬がこみあげてくるのも、無視することはできなかった。 リナが生まれてからいままでの、たくさんの記憶が思い出されて、がらにもなく感傷的になっている自分がなんだかおかしくなって、ルナは苦笑を浮かべた。 ……と、その時。 どすんっ! もたれていた木の反対側に、何かかが墜落する音が聞こえた。 ふとのぞき込んでみると、 「あら?」 そこには見知った顔がひとつ。 「あんた来てたの?――物好きね。」 腕組みをしながら、地面でひくついている落ちてきたモノに、ルナは呆れた様子で呼びかけた。 「あ…、ルナさん。 どーも、ご無沙汰してます。」 地面にうつ伏せたまま顔だけ上げて、親しげな挨拶を返してきたのは、黒ずくめの神官――いや魔族だった。 「――で。なにしてるの?ゼロス。」 そんな彼を、ルナは冷ややかに見下ろした。 彼がここにいる理由も、木の上から落ちてきた理由も、何となく見当はついたが…… 「見てのとーり、食あたりです。」 答えて、ゼロスは頭かいた。 心なしか、顔が青ざめて見えた。 やはり、今この辺りを包んでいる空気は、負の感情を糧としている彼ら魔族には毒にしかならないらしい……と、ルナは妙な確信を得てしてしまう。 「まあ、ルナさんの、ガウリイさんに対する嫉妬ってやつは、結構おいし…ぶっ! …………すびばせん。」 言いかけて、途中でルナに頭を踏み付けられたゼロスは、不本意ながら地面とキスをしてしまう。 思わず謝ってしまうのは、いつの間にか学習した、ルナには逆らわないでおこう…という教訓の結果であった。 「人の感情、勝手に食ったわね。」 そして、自分に向けられた絶対零度の微笑みに、ゼロスは一瞬、恐怖を覚えてしまう。 「い…や……あのお……」 「なんなら、今、幸せ絶頂のあの輪の中に放り込んであげましょうか?」 「……結構です。」 「遠慮なんてしなくていいのよ?」 しどろもどろのゼロスへと、笑顔のまんまで語りかけるルナ。 どうやってもルナに勝てないゼロスであった。 「……まあ、冗談はこの位にしておいて……」 決して冗談には聞こえなかったのだが……いい加減ゼロスをいじるのに飽きたのか、ルナは肩をすぼめて踏みつけていたゼロスを解放する。 「あんたね、あの『らぶらぶオーラ』でダメージ受けて、打ち落とされたハエかなんかみたいに落ちてくるんなら、最初っからここに来なきゃよかったんじゃないの?」 「あの……『ハエ』……って……。 まあ、確かにおっしゃる通りなんですけどねぇ。」 ルナの指摘に苦笑を浮かべため息をついて、ゼロスは頭をかきながら立ち上がった。 「何というか……。やはり、知り合いのめでたい席ですし、出席しないわけにはいかないというか……。」 「魔族が『めでたい』とか言ってどうする。」 すかさずつっこむルナ。 そのつっこみは無視して、ゼロスが続ける。 「ですけど、――人間って面白いですね。 同じ人が、一度にいろいろな感情を味あわせてくださる。」 言って、正面からルナを見つめると、ゼロスはほんの少し目を開いて口元に笑みを浮かべた。 「……ルナさん。今日のあなたは、『お姉さん』の顔をしてらっしゃいますよ。」 「余計なこと、言うんじゃないわよ。」 軽く、ルナはゼロスを睨みつけた。 しかしその表情には、彼女が滅多に見せない優しい色が混じっていた。 「おや?ルナさん。 その『大切な妹さん』がこちらへいらっしゃいますよ。」 視線を、前方に向けてゼロスが言った。 「……というわけですので。」 言いながら、隣でゼロスが宙に浮かんだのを見て、 「……帰るの?」 ルナが問う。 「ええ。 リナさんにも、ガウリイさんにも何やかやと言われるのはごめんですし。 アメリアさんに正義の何たるかを演説されるのも嫌ですし…… なにより……これ以上、正の感情を摂取し過ぎて、食中毒になるのは遠慮したいですからね。」 「なるほどね。」 「それじゃ、ルナさん。ごきげんよう。」 にこやかに手を振り、ゼロスの姿が虚空に解け消える。 「まったく……何しに来たんだか。」 苦笑を浮かべながら、ルナはポツリと呟いた。 「姉ちゃんっ!」 声とともに、首にしがみついてくる小柄な少女。 「こら!いきなり飛びつくんじゃない。」 「えへへ」 笑いながら、リナは地面に降りた。 「で?どうしたの。」 問うルナに、 「だって、姉ちゃんってば、式の始まる前もいつの間にかいなくなってるんだもの……いろいろ話とかしたかったのに……」 俯いて、頬をふくらませて言う妹の姿にルナは苦笑を浮かべた。 「話って?」 「え……っとね。 なんていうか……その……今まで、ありがとね。 旅に出てからは、あんまり会えなかったけどさ。 やっぱし…あたしにとっては、あの……たった一人の姉ちゃんだし。」 照れ臭そうに話す妹に、ルナは改めて実感する。 今までは、旅に出ていたとはいえ帰ってくるのは両親と自分のいる家だった。 しかし、これからは……彼女が帰る場所は愛する人のもとなのだと。 「あれ?あたし、何が言いたいんだろ?」 伝えたいことが言葉にならなくて混乱するリナ。 「リナ。」 そんなリナに小さく微笑んで、ルナは妹の頬に触れた。 「幸せにね。 ……たまには、実家にも戻ってらっしゃいよ。」 「――っ……」 姉が向けた優しい微笑みに、リナは言葉を詰まらせた。 瞳に、涙が膨れ上がる。 「姉ちゃんっ!」 しがみついて、嗚咽を漏らす妹の背中を、ルナは黙って優しく叩いた。 そうか…… ルナは気付く。 寂しいと感じているのは自分だけじゃない。 この妹も……離れていく妹も、そうなのだ……と。 ふと感じた人の気配に、ルナは顔を上げた。 妹のすぐ斜め後ろに佇む男……義弟の……姿。 「……妹を……リナをよろしくお願いします。」 いまだ泣きじゃくる妹の肩を押しやり、ルナは義弟と向き合った。 「任せてください。」 微笑んで、ガウリイはリナの肩を抱いた。 「リナー!ガウリイさーん!ルナさーん!」 「お。アメリアが呼んでるぞ。」 ぐいっ、と涙を拭って、リナは振り返りそちらに向かって手を振った。 「今行くー!」 そして、姉の手を取る。 「姉ちゃん。行こう!」 微笑んで、リナは駆け出した。 ルナもつられて微笑み、共に走り出す。 「あ、こら、待て!」 おいてけぼりをくったガウリイがその後を追った。 教会の鐘の音が、澄んだ空に響き渡っていた。 END PR