stillness【遙か3/弁望】 2007年03月10日 遙かなる時空の中で3 0 十六夜記 望まれて帰ってきた元の世界。けれど心は京に取り残されたままで…… 弁慶と別れ元の世界に帰ってきた神子のモノローグっぽい話です。 stillness 思わず振り返る雑踏。 あるはずのない面影を追う……視線。 不意に溢れてくる涙。 誰にも見られないように……長い髪で顔を隠しながら足を速める。 望まれて――私はここへ帰ってきた。 私の中に募っていた想いは…あの人へ届かないまま。 今、私は…たった一人でここにいる。 ずっと…… 全てが終わったら、あの人は私と一緒に来てくれるのだと思い込んでいた。 この世界の話を、楽しげな瞳で聞いていたあの人。 この道を、二人…並んで歩くことを夢見ていた私。 でも…… あの日、あの人は優しく微笑んで……帰りなさいと告げた。 戻ってきたのは平和な日常。 剣を採って戦う必要も、いくつもの策謀をめぐらせる必要もない…世界。 あの人は…今頃どうしているのだろう…… もう、私のことなんて忘れて……穏やかに暮らしているのだろうか? 忘れられないのは…私だけなんだろうか…… きっと、忘れてしまえば楽になるんだろう。 だけど、忘れてしまうことなんてできない。 私の心は、あの場所に置き去りのまま…… 何度も繰り返した運命の中、育ち続けた想いはカタチを変えることさえできずに彷徨っているのに…… 見上げた冬の空。 伝えられなかった言葉。 ぽっかりと…胸にあいてしまった…穴。 約束したわけじゃなかった。 でも、一緒に来てくれるのだと……思い込んでいた。 だけど―― 私を「幸せ」に還そうとした……その優しさは嘘じゃないと……思っていいんだよね? ふわり… 雪の欠片が舞う。 ふと……声が聞こえた気がした。 優しく耳に響く……哀しいほどに愛しい声が…… 「元気ですか?」 そっと呟く。 届きはしないのに…… 「今でも…あなたが好きです。」 告げる想いは、風に乗って消えてゆく。 どんな言葉を口に出しても…無駄なことだって分かってる…… 面影を消せない。 想いを忘れられない。 私は……どこへも行くことができないままで…… 居場所なんて……ないままで…… 二度と…会うこともできないのなら……いっそ…… 「全部、忘れさせて……」 祈る相手は、ここではない世界の……白き龍の神。 「――お願い……」 出会った記憶も、共に過ごした思い出も、信じ合い戦った日々も… すべてを…無に還して…… 微かに、鈴の音が響いた気がした。 遠くで、懐かしい声が…私の名を呼んだ気がした。 PR