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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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対の輝き【遙か3/弁望】

迷宮ED後 現代(弁慶サイド)
弁部投稿作品。「For You」の続きのホワイトデーSS。
お返しに何を贈ればいいか悩む弁慶さん。何故か将臣くん乱入…

対の輝き



あの日、君から贈られた銀色の輝きを放つ対の片割れ
ぬくもりを交わすときは、ひとつの型を形作る
僕たちの心を表すように……

 

「啓蟄…か」

 暦に小さく記されている文字を見て、弁慶は小さく呟いた。

「あと一週間ほどしかないですね…どうしたものか……」

 

 

*     *     *

 

 

「ほわいと…でー、ですか?」

 

 有川家の蔵にある書物を読み漁りに訪れた弁慶は、ふらりと現れた将臣の言葉に首をかしげた。

 

「――それよりも、将臣くん。君も試験勉強…をしないといけないんじゃないのですか?」

 望美も譲も、血相を変えて「学年末試験」とやらの勉強に励んでいる。

 その邪魔をしない為にも、弁慶は、ここで一人、時間を潰しているのだ。

 

「俺は要領がいいから、前の日にやりゃ十分なの。」

 望美や譲の抗議の声が聞こえてきそうな台詞に、弁慶は苦笑を浮かべる。

「そういうものなんですか?」

 

「…じゃなくてだな!」

 弁慶のペースに流されそうになり、将臣は慌てて話の軌道を修正する。

「今は、ホワイトデーの話をしてるんだ。」

 どっかりと弁慶の傍に胡座をかいて、将臣は本題に戻った。

 

 仕方なく、読みかけていた本を脇に置くと、弁慶も将臣の方へと向き直る。

「あんたのことだから、全く知らない…ってことはないだろうけどな。」

「まあ…『ホワイトデー』という日が――3月の14日でしたか?…その日が、先日の『バレンタインデー』の、お返しをする日だという事くらいは知ってますが…」

 それ以外に何かあるのだろうか…と弁慶は思考をめぐらせる。

 

「あいつが苦手な手作りチョコを作ってたのは知ってる。」

「ええ、手作りと聞いて…食べる時には少しばかり勇気が要りましたが…とても美味しかったですよ?」

 相手が将臣だからこそ言える、正直な感想だった。

 

「そりゃそうだろ。」

 げんなりとした顔で、将臣が言う。

「そこへ至るまで、どれだけ大変だったか……」

 あの戦場を超えるかのような、有川家のキッチンでの壮絶な日々を思い出し、忘れかけていた胸焼けがぶり返してきた。

「……」

 何となく事情を察知して、弁慶は苦笑を浮かべた。

「あえて、何があったかは聞かないでおきましょう。」

「そうしてくれるとありがたい。」

 

 毎日のように譲から教わっているというのに、毎回キッチンをチョコレートまみれにし、どうやればこうなるのか?というほどの傑作を創出し……生まれた山は、兄弟で片付けるしかなかった。

 

「まあ、俺の苦労の思い出…ってのは、どうでもいいんだ。」

 気を取り直し、将臣は話を続ける。

「ホワイトデーは、お返しをする日…ってのは間違ってないが……世の中には『倍返し』だの…って怖ろしい慣わしがあってな……」

「はあ…」

「例え、貰ったのが10円のチ○ルチョコであったとしても、返すものはそれ以上のものを返さなきゃならんわけだ。」

 何か嫌な思い出でもあるのだろうか…眉根を寄せ将臣が言う。

 

 ――なるほど…

 

 わざわざ将臣は、忠告に来てくれたわけだ。

 この世界に不慣れな弁慶が、自分の大切な幼馴染を哀しませたりしないように…困らせたりしないように。

 望美のことだ、「倍返し」などは考えもしていないだろう。

 そもそも、ホワイトデーにお返しを貰うことなど、頭の片隅にもないのではないだろうか…

 けれど――

 

「……そうですね。」

 頷き、弁慶は考え込むように額に手を当てた。

「誕生日プレゼントまで戴いていますから……簡単なもので済ますわけにはいきませんね。」

 

 

 

 

 

 そんなことがあってから日は経って…

 月は変わり、虫も地中から這い出してくるという「啓蟄」も過ぎてしまった。

 3月14日までは、あと一週間ほどだ。

 

 ホワイトデーのことは知っていたが、そんなに深くは考えていなかった。

 当日は共に出かけ、食事をして……という位しか考えていなかったのだ。

 望美のことだから、それでも恐縮してしまうだろうが…

 

「あんな風に言われてしまうと……ね」

 将臣に釘を刺されてしまったからには、もう一捻り、策を練る必要が出てきてしまった。

 

 ――君も、こんな風に色々と考えながら…僕への贈り物を探したのかな…?

 

 ふと過ぎる、そんな考え。

「いつも、僕の予想を軽く超えてしまう君だから……」

 逆に、何を贈ればいいのか分からなくなってしまう。

 

 微かに金属の音を響かせて揺れる、小さな銀色の飾り。

 ふと、思い出すあの日の笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

「これはね、二つをあわせると…ほら!一つのハートになるんですよ。」

 嬉しそうに微笑みながら、自分の携帯電話についている片割れを見せて言った望美。

「まるで比翼の鳥…ですね。」

「ひよくの…とり?」

 不思議そうに首を傾げる表情が可愛らしくて、自然と浮かぶ微笑。

「片目片翼の雌雄一対の鳥が…支えあいながら飛ぶ……大陸の想像上の鳥です。

 男女の深い愛情をいうこともありますが……」

「ふ~ん…って……えっ!?」

 頬を赤く染め、指先で銀色の飾りをいじりながら、望美は戸惑うように俯いてしまった。

 

「二つで一つ…離れていても…心は一つ…ということですね。」

 自分の携帯電話を持ち上げて、ストラップごしに俯く望美を見る。

「――共にいるときは……」

「え?」

 囁くような言葉に顔を上げた望美を抱き寄せ、弁慶はその耳元に唇を寄せた。

「二人きりの時間を過ごしている間は…この飾りも一つの形を成すわけでしょう?」

 言葉の裏に秘められた意味に気付いて、望美は、更に顔を赤く染めたのだった。

 

 

 

 あれから、それほどの時は経っていないが、数度訪れた二人きりの時間――誕生日当日とバレンタインデーも含んでいるが――には、一つのハートを形作ったストラップが、重なり合う二人の吐息を見守るように傍らで輝いていた。

 

 ふと傍らに視線をやると、少し温み始めた日の光に輝く、愛しい少女からの贈り物。

 

「これに勝るものを探し出すのは…かなり骨が折れそうだ……」

 呟く言葉は困ったような響きを持っているものの、その表情には幸せな微笑みが浮かんでいる。

 

 ――きっと君は、どんなものでも喜んでくれるんでしょうね…

 

 同じ様なことを考えていたのだとは気付かないまま、弁慶は、くるくると変わる望美の表情を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

   *     *     *

 

 

 

 

 

 

 昨日まで冬が帰ってきたか…と思わせる冷たさを持っていた風が、今日は春のぬくもりを連れて、柔らかに吹きすぎてゆく。

 

 

「目を…閉じていていただけますか?」

「はい。」

 素直に目を閉じた望美に歩み寄ると、弁慶は取り出したそれを、そっと首へとかけた。

「さあ、いいですよ。目を開けて……」

 

「弁慶さん…これ……」

 紫水晶――アメジストの埋め込まれた指輪。

 それが、華奢な鎖に通されて…望美の胸元で輝いていた。

「こちらの世界では、婚約のしるしに指輪を贈るのだと聞きました。」

「えっ…あ、はい。」

 頬を染め、望美は小さく頷く。

「けれど君はまだ…『学生』だから、僕は…もう暫く待たなくてはいけません。」

「……え?」

「だから、その間に君が奪われたりしないように…」

 少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、弁慶は自分の首から下がっている鎖を引き出した。

 その先には、望美の胸元のそれと同じ指輪。

 唯一つ違うのは……

「あっ……」

 埋め込まれている石は、望美の誕生石。

 

「君には僕の…そして僕には君の指輪を……」

 

 そう。

 望美の胸元で輝くのは、彼女の指には大きい…男物の指輪。

 そして、弁慶がつけていたのは、女性ものの細いそれだった。

 

「それは君が僕のものだというしるしです。

 そして、これは…僕が君のものだというしるし。」

「弁慶さん……?」

「――離れていても、一緒にいられる……という証でもあります。」

 戸惑う望美へと向ける優しい微笑み。

 胸の奥に熱いものがこみ上げてきて……望美は何も言えないまま弁慶の胸へ顔を埋め抱きついた。

 そっと、愛しい少女を抱きとめて…弁慶は優しくその髪を梳く。

 

 

 京であれば、すぐにでも夫婦となることができた。

 けれど、この世界ではそうはいかない。

 それに気付いた途端、不意に焦りに襲われ……まるで呪(まじな)いのような、この贈り物を思いついたのだった。

 

 

 ――少し先の未来のために……

 

 

「愛していますよ……望美さん。これからも、ずっと……」

 

 

 

 

 

 

END

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