For You【遙か3/弁望】 2007年02月11日 遙かなる時空の中で3 0 迷宮ED後 現代 弁神子推進委員会の弁慶さん誕生日企画への投稿作品。 糖度高めのお誕生日話(神子サイド)。 For You ――出会えたことが嬉しい…だから…… いろいろ悩んで決めたのは、偶然、学校帰りに立ち寄った店で見つけたストラップ。 二つで一つの、指輪やペンダントトップなんかではありがちなデザインだけど。 店の人に「バレンタイン用ですか?」と問われ、「違います。」なんて答えている自分が、ちょっと誇らしくて…… チョコレートを買い求める女の子たちを横目に、望美は、一足早く訪れる大切な日を心待ちにしていた。 わざとピンクや赤じゃない包装紙でラッピングしてもらったプレゼント。 小さなその包みを大切に抱え、待ち合わせ場所へと向かう望美の足取りは軽い。 「喜んでくれるかな?」 既に、自分の携帯電話には、片割れとなるストラップをつけてきた。 プレゼントを渡したら、すぐに開けてもらって…つけてもらおうと思っていた。 「えらくご機嫌ですね?」 「っ!?」 一足早く着いた待ち合わせ場所で、ストラップを嬉しそうに見ているのを目撃されてしまって… 「弁慶さんっ!」 慌てて携帯電話をポケットにしまい、望美は弁慶へと向き直った。 「お待たせしてしまいました。」 「い、いえ。私が早く着いただけです。」 恥ずかしいところを見られてしまった…と頬を赤く染めてしまった望美に、弁慶は苦笑を浮かべた。 あの戦ばかりだった世界では、ありえなかった日常。 勇敢で美しい姫将軍の少女らしい一面を、この平穏な日常の中で…次々と発見してゆく。 「君は、本当に不思議な人ですね。」 「もう、簡単に弁慶さんのペースに流されたりなんてしませんからねっ」 小さく笑ったのが気に障ったのか…望美が頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。 「困ったな…機嫌を直していただけませんか?望美さん…」 ちらりと見上げた弁慶の顔に、困ったような微笑みが浮かんでいるのを見て、望美はくすくすと笑い出す。 もとより、誕生日のこの日に本気で困らせるつもりはなかった。 「そういえば、先程は何だかとても嬉しそうでしたが…どうかしたんですか?」 「今日は弁慶さんのお誕生日でしょ?だからこれを……」 弁慶からの問いかけをきっかけにして…微笑みながら、望美はあの小さな包みを差し出した。 「……ありがとう。弁慶さん。」 そう告げた望美を、弁慶は驚いた顔で見つめた。 本来ならば、「おめでとう」と告げられるべき場面だ。 ――何故…? 首をかしげた弁慶に、望美は微笑んだ。 「だって、弁慶さんと出会えたことが…一緒にいられることが嬉しいんです。」 ――それは全て、あなたがこの世に生を受けたから…… だから、生まれてきてくれたことに「ありがとう」と伝えたかったのだと… 告げられた「ありがとう」の理由に、 「望美…さん……」 優しい微笑みを浮かべ、弁慶はそっと望美を抱き寄せた。 全身を包む、伝わってくるぬくもりが…幸せだった。 胸の奥には、今も消えない哀しい記憶が残っているけれど… 幾度も失い、幾度も追い求めた愛しい人は…今、ここにいる。 いつだって隣で微笑み、優しく抱きしめてくれる。 「お誕生日おめでとう…」 耳元で囁いた言葉は…すぐに唇に奪われて…… 甘く、重なり溶けてゆく吐息の傍らで、銀色の輝きを放つ二つのストラップが一つのハートを形作っていた。 END PR