幼い、少年と少女の出会い…
時を越えた、記憶の奥に眠る思い出。
ほのぼの♪
※オフラインでサークル活動を始めてから、初のオフ本に載せた小説です。
recollection～埋もれた記憶のなかで～
刻に埋もれて、忘れかけた記憶がある。
記憶の底に眠る、大切な思い出がある。
「ったくもう！姉ちゃんってば。
なぁにが、『町でも回ってなさい。どうせ、一 緒に来たって邪魔なだけだから』よぉっ！」
灰色のローブに身を包んだ少女が、ぶちぶちと愚痴りながら、町の通りを歩いていた。
「そりゃあ。勝手にくっついて来たのは、あたしの方だけどさっ」
歳は十歳くらいだろうか。
癖のある栗色の髪が、肩の辺りで揺れている。
「あーっ！もうっ！暇っ！」
灰色のローブは、魔道士協会に所属している魔道士見習いの証である。
「あーあ。まだあんなに太陽が高いや。
どうやって時間つぶそうかなぁ……」
昼間の青空に向かって伸びをしながら、少女はぼやいた。
――と、その時……
どすんっ！
「うきゃっ！」
「うわっ」
広場のすぐそばの細い路地から出てきた人影とぶつかって、少女は思いっきりこけてしまった。
「あやまんなさいよっ。こらぁっ！」
地面に尻餅ついたままで、少女は怒鳴り散らす。
「大丈夫だったか？ケガはないか？」
少女の手を引いて起き上がらせると、相手は心配そうに少女の顔をのぞき込んだ。
金色の髪が、日の光を受けて輝いていた。
十五・六歳くらいだろうか、少女より頭ひとつ分は背が高い。
背中に、変わった形の剣を背負っていた。
思わず、少女は少年の蒼い瞳に見とれてしまう。
青空に似た……綺麗な……蒼。
「すまん。ちょっと考えごとしててな。」
ぽんっぽん
軽く、少女の頭を叩きながら、少年は微笑んだ。
「なによっ！」
そっぽを向いた少女の頬は、微かにピンク色に染まっていた。
少年の笑顔が眩しかったのだ。
「お前、魔道士か？」
少女のローブ姿を見て、少年は問いかけた。
「まだ、見習い…。」
「へー。って…あれ？でも、たしか、この町ってないだろ？魔道士協会…。」
「姉ちゃんについて来たの。」
「はぐれたのか？」
心配そうに問いかける少年。
「用事があるからって、置いてかれた。夕方には宿に帰って来いって。」
言って、少女が苦笑した。
「そうだっ。ねっ、あんた、暇？」
「は？」
少女の唐突な言葉に、少年は思わず問い返した。
「それとも…何か用事ある？」
上目使いに少年を見ながら問いかける少女。
「い、いや、そうじゃないけど……」
慌てて首を振る少年。
「だったらさ。町の中、案内してよ。」
少女が悪戯っぽく微笑みながら言った。
何故か、少年のことが気に入ってしまったのだ。
「……ま、いいか。」
前髪をくしゃりとかき上げて、少年は苦笑した。
「じゃ、決まり！おごってね！」
微笑んで、少女は少年の手を引いて駆け出した。
広場近くのカフェに入って、軽くお茶をする。
少年の案内で、一日中、町のあちこちの観光と食べ歩きをして……
空が赤く染まる頃、二人は、町外れの丘にいた。
「今日は一日ありがとね。」
微笑みながら少女は言った。
「いいって。
オレも、こんなに楽しかったのは久しぶりだったしな。」
少女の頭を撫でながら、少年は微笑む。
その心地よさに、少女は瞳を閉じた。
――もうしばらく……このままでいたい……だけど……
「……あたし……そろそろ宿に戻らなきゃ」
俯いた呟いて少女の表情が、寂しそうにかげる。
「なあ。見ろよ」
声を掛けられて、少女は顔を上げた。
藍色に染まり始めた辺りの景色の中で、沈む直前の太陽の光が、美しく輝いていた。
「ここからだと、一番きれいに見えるんだ。
一番の……特等席なんだぜ。」
自慢げに少年が言う。
「……きれい……」
じっと、空を見つめながら、少女はポツリ、と呟いた。
「……内緒だぞ。誰にも教えてないんだからな。」
同じ方向を見つめて、少年は言う。
「――……何で、あたしに教えてくれるの？」
「さあな」
振り返って問いかけた少女に、少年は微笑んだ。
「ここでいいわ、ありがとう。」
手を振って、少女は微笑んだ。
にっこりと微笑みながら少年は少女の髪をかき回した。
「ちょっと！人の髪、勝手にいじんないでよ！」
「じゃあな。おやすみ。」
ぷうっ、と頬を膨らませた少女に少年はもう一度笑いかけると、手を振って背を向けた。
「あ！あの兄ちゃんの名前聞くの忘れてた！」
「……あんた、ばかでしょ……」
少女が、突然声を上げて、姉に突っ込みを入れられたのは、夕食の時であった。
＊ ＊ ＊
「ここからだと、一番きれいに見えるんだ。」
藍色に染まり始めた辺りの景色の中で、沈む直前の太陽の光が、美しく輝いていた。
「……きれい……だね。」
リナはポツリ、と呟いた。
過ぎて行く風に、長い栗色の髪がなびく。
今日の終わりを告げる光の中で、隣に佇むガウリイの長い髪が金色に輝いていた。
「何で、こんな場所、知ってるの？」
旅の途中で訪れた、とある町の外れにある丘。
草の上に腰掛けたまま、リナは視線を上げた。
「随分前に、オレ、この町にいたことがあるんだ。」
ここは、その頃、一番好きな秘密の場所だったんだ。」
リナに視線を向けて、微笑みながらガウリイは言った。
「何で、あたしを連れてきてくれたの？」
「さあな」
不思議そうに問いかけるリナに、ガウリイは微笑みながら空を見上げた。
――え……
慌てて振り返った、二人の視線がぶつかる。
互いの瞳が、互いの驚いた表情を映し出した。
『まさか……』
同時に声を上げて、二人は食い入るように見つめ合う。
知っている……。同じ会話をした覚えがある。
すっかり忘れていた……昔の記憶。
あの、森の中の街道で出会うより、ずっと前の……共通の思い出……。
今まで……何故、思い出さなかったんだろう。
何故、気付かなかったんだろう……。
「リナ」
くしゃり、とガウリイの大きな手がリナの頭を撫でる。
「ガウリイ」
くすぐったそうにリナは微笑んだ。
ひとつふたつと星が瞬き始める。
「……そろそろ宿屋に戻るか？腹も減ったし。」
「うん」
「あ…ここ。姉ちゃんと泊まった宿だったんだ。」
「……ンなこと忘れるか？フツー」
リナが、突然声を上げて、ガウリイを呆れさせたのは、夕食の時であった。
