騎士と神官・第0話 決戦前夜<ルナサイド>【スレイヤーズ/ルナゼロ】 2006年12月07日 スレイヤーズ/騎士と神官 0 騎士と神官シリーズ第0話 決戦前夜<ルナサイド> カタン… 窓を開くと、少し湿った夜風がカーテンを揺らしながら吹き込んできた。 「今夜は少し冷えるわね。」 部屋の明かりを点けることすらせずに、ルナは、パジャマの上に羽織ったカーディガンの前をかきあわせて、遠い街道の森に目をやる。 今夜は、なぜか寝付かれなかった。 ――虫の知らせ―― とでもいうのだろうか? ルナは、小さくため息をついた。 「なんっか、昼間からおかしな気配がするけど……」 何かが起こる兆しを、そして……何か、決して良くはない存在の気配を感じる。 ……方向は分かる。 おそらくは街の外れにあるあの森。 ただ…… 『何』なのかが、見当すらつかない。 けれど、ルナの中にある赤の竜神の能力が、何かを感じ取っている。 「………」 目を閉じ、夜風に身を委ねる。 こうすることで、何か分かるかもしれないと思ったのだ。 けれど、感じられたのは夜の空気だけ。 ……と、全身の感覚を研ぎ澄ましていたルナの耳に、カタン…というかすかな音が聞こえてきた。 「?」 不審に思って視線を移すと、家を出て行く見慣れた姿。 「――……まったく……」 ため息をついて、ルナは踵を返した。 「どこ行くの?」 揺れる黒い長髪に向かって声をかける。 その声に振り返ったのは、年齢不詳の男。 火の付いていないタバコをくわえ、一本の釣竿を手にしている。 「夜釣りだ。」 にっ、と笑って簡潔に一言で答えてくる。 「お前こそ、こんな時間まで起きてたのか? 明日もバイトだろ?」 肩を釣竿でとんとんと叩きながら言う男。 「ちょっと寝付けなくてね。」 肩をすくめて、ルナは応えた。 「どうした?」 さりげなさを装った、心配気な問いかけ。 「ちょっとね…… しばらくは森の方へ行かない方がいいかもよ。」 男の問いには言葉を濁し、ルナは忠告を口にした。 「なんでだ?」 問い返す男。 それに、ルナは少し考えてから答えた。 「何かおかしな気配がこの辺りを――森の辺りを――包んでるの。 だから……」 「眠れない理由ってのは『それ』か?」 男に言われて、ルナは言葉に詰まった。 そして思う。 ――さすがだと…… 観念してルナはため息をついた。 一人で考え込んでいるよりは、言ってしまうほうが少しは気が楽だろうから。 「まあ、ね。 確実ではないけど、なんとなく分かるのよ…… あたしがその『何か』に関わるだろうってことが……。」 「そんなに気負ってても、疲れるだけじゃないか? 何かが起こるときは起こるし、起こらないことだってある。 起こったとしても、実際はお前自身に関係ないかもしれない。 ――無駄な時間過ごしてる暇があったら、とっとと寝ちまえ。」 言って、男はルナの頭をぽんぽんっ、と軽く叩いた。 「………そうよね。」 ルナは苦笑を浮かべた。 「ありがと。ちょっとすっきりした。」 「そうか。」 小さく笑みを浮かべ、男はくるりと踵を返す。 「行くの?」 ルナの問いに、男は答えず手を振った。 「一応、気をつけてね。 おやすみなさい。父さん。」 その背中に、ルナは声をかけた。 〈第0話ゼロスサイド|目次|第1話①〉 PR