騎士と神官・第1話 邂逅<1>【スレイヤーズ/ルナゼロ】 2006年12月10日 スレイヤーズ/騎士と神官 0 騎士と神官シリーズ第1話 邂逅<1> 「ここが、ゼフィーリアですか……」 黒髪に黒服の神官風の男が呟く。 ゼフィーリアの王都ゼフィール・シティへと続く、街道沿いの森。 そこの高い木のてっぺんで、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながら、その神官は器用に佇んでいた。 「……何だってこの僕が、「『赤の竜神の騎士』の素行調査」なんて事をしなきゃなんないんでしょうねぇ……」 困ったような口調でそう呟き頭を掻く。 けれど、その顔には笑みが浮かんだままであった。 「まぁ、取り敢えず行ってみましょうか。」 いまいちやる気のなさそーにそう呟くと、黒い神官はさっ、と身を翻して虚空へと姿を消した。 1 昼を少し回った頃。ようやく、リアランサーに平穏が訪れた。 今店にいる客は、少し遅い昼食をとる人か、暇な時間をつぶしに来た近所の若者くらいなものである。 ルナは、他のウェイトレスたちと一緒に遅い昼食をとっていた。 「どーしたのよ?ルナ。 今朝からえらくぼーっとしてるみたいだけど。」 隣に座るショートカットの女性の問いかけに、ルナは、 「え? ……ああ、別になんでもないわよ。」 小さく微笑みながら答えた。 「まあ、ルナのことだから、男のこと考えてるとか、リナちゃんのこと心配してる。 ――なんて事ないでしょーけど」 誰かが言ったそのセリフに、全員が同時に頷いた。 「こらっ!そこっ!しみじみ頷かないっ!」 思わず立ち上がって、ルナは、今頷いた全員につっこみを入れた。 「だって……」 「ねえ……」 顔を見合わせ、皆が言う。 ――まったく…… 心の中でルナはぼやいた。 ――こんなじゃ、考え事もできないじゃないのよ…… 立ち上がり、食べ終えた食器を片付ける。 他のウェイトレス達も食べ終えたのか、めいめい、片付けを始めている。 もうしばらくすれば、昼下がりを過ごす人達がやってくるだろう。 ゆっくりとはしていられないのだ。 ――それにしても…… ルナは思う。 昨夜から感じている気配。 ……それが、ルナが考え事をしている理由である。 ――あれは……恐らく瘴気。 それも、かなり強い瘴気。 ということは…… ――魔族が近くに来てる? ……だったら…… ぐっ、と拳を握る。 ――返り討ちにしてあげようじゃないの ルナは不敵な微笑みを浮かべた。 * * * 「うーん。 一体何処にいるんでしょうねぇ。お目当ての方は。」 黒髪黒服の神官が、通りを行く。 「一体どんな方なんでしょうねぇ。」 開いてるんだか閉じてるんだか分からないような目で、彼は辺りを見回す。 彼の名はゼロス。 自他共に認める『謎の神官』である。 「そもそも……話にしか聞いたことがないって言うのに……どうやって捜し出せと言うんでしょうかねぇ。」 ――おや? 「意外と早く見つかりましたかね。」 閉じていた目が開く。 ……凍てつくような冷たく鋭い瞳が……一軒の建物を映していた。 自らとは決して相容れぬ気配が、その中から微かに感じられた。 「……軽食でもとりつつ、調査を始めましょうか」 呟きながら、ゼロスはその建物のドアを開け、中へ入って行った。 この町一番と噂される食堂・リアランサーに…… 〈第0話ゼロスサイド・ルナサイド|目次|第1話②〉 PR