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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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騎士と神官・第1話 邂逅<2>【スレイヤーズ/ルナゼロ】

騎士と神官シリーズ第1話
邂逅<2>




 カランカラン

 

 軽やかなドアベルの音が、ルナの思考を中断させた。

「いらっしゃいませー!」

 

 笑顔であいさつしたルナは微かに違和感を感じて、入ってきた黒ずくめの男を見た。

 

 ――こいつ……

 

 そして確信する。

「……ちょっと」

 いきなり襟首を引っつかむと、ルナは、その男をずりずりと引きずりながら店の外へと出ていく。

 

「ちょっと!あのっ!

 な、何なんですか!一体~っ 」

 抗議する男の声だけが、唖然とした空気に支配されたリアランサーの店内に残った。

 

 

                      *     *     *

 

 

「ちょっとっ!はなしてくださいよ!」

 

 男……いや、ゼロスの抗議もどこふく風。

 ゼロスをひきずったそのままで、ルナは、リアランサーの裏の路地へと入り込む。

 人気がないのを確認してから、ルナはようやくゼロスを解放した。

 

「いきなりなんなんですか!あなたはっ!」

「……魔族が一体何の用?」

ゼロスが上げた幾度目かの抗議の言葉を遮る――というよりは完全に無視して、ルナは

低い声色でそう問いかけた。

 

 ぎくぅっ!

 

 ――何でバレてるんですか……

 

 思わず後ずさって、ゼロスは身構えた。

 

「見たところ、かなり高位の魔族みたいだけど」

 あっさりと言われて、ゼロスは絶句する。

 

「あなどりがたし……っていうところですかね。

 ――赤の竜神の騎士さん」

 それでも、なんとかいつもの飄々とした調子を取り戻してゼロスは言った。

 

「ほう……」

 すうっ……と、瞳を細めて、ルナは自分の前に佇む黒い神官を見た。

「……って、ことは、標的はあたしってこと?」

「それは秘密です」

 人差し指を口の前に立てて、ゼロスは微笑んだ。

 

「あ……そう。

 ――で?」

 お得意の台詞をあっさり受け流されて、ゼロスは一瞬たじろぐ。

 

「――で?……って?」

「あんたが何者なのかを聞いてるのよ」

 静かに、ルナは言葉を紡ぎ出す。

 

「謎の神官です」

「自分で『謎』って言うあたり、確かに謎よね……」

 ルナは、たった一言で自己紹介をしたゼロスを、珍獣を見るかのような目で面白そうに眺めた。

 

「名前ぐらい、きちんと言えないの?」

 小さく鼻で笑いながら問う。

 挑発以外の何ものでもない、そのルナの態度に、

「他人に名前を尋く時は、先に自分から名乗るっていうのが礼儀でしょう?」

 にこやかな表情と声で、ゼロスも挑発するようにルナに向かって言った。

 

「それもそうね。」

 そのゼロスの言葉に、ルナはあっさりと頷いた。

 思わず拍子抜けするゼロス。

 

「あたしはルナ。

 ルナ=インバースよ。

 まぁ、世間じゃ、赤の竜神の騎士とか言われてはいるけどね。」

 まるで他人事ような自己紹介。

 

「僕は獣神官ゼロスです」

「獣神官ってことは……獣王ゼラス=メタリオムんとこの部下ね。

 何だかえらく安直なネーミングだこと」

 くすりっ、と笑ってルナが言った。

 

「放っておいてください!」

 思わず声を荒げるゼロス。

「――それはさておき、あたしに何の用かしら?

 獣神官さん。」

 

 口調は軽いものだが、その表情は『食堂の美人ウェイトレスさん』のものではなく、赤の竜神の騎士のそれ。

 一瞬、ゼロスはルナの放つ気に圧されるが、彼もルナに向かって自らの瘴気を放つ。

 

 ――ふーん……、さすがは高位魔族ね……

 

 ――なるほど……噂されるだけのことはありますね。

 

 どちらからともなく、水面下の争いは終了した。

 

 

「ゼロスだったわね。」

「ええ、ルナ=インバースさ……ってインバース?」

 名前を呼び返した途端、ゼロスはある人物のことを思い出した。

 

 たかが人間くせに、すべての王である『金色の魔王』の呪文を扱う女魔道士――リナ=インバース!

 

「あの……少々おたずねしますが……リナさんのお身内の方で?」

 ぴくんっ、とルナの眉がはねる。

 

「あの子を……知ってるの?」

 驚愕、ともとれる表情で、ルナが問う。

 

「ええ、まあ。以前少々……。

 それでどういった……」

「妹よ……」

 簡潔な答。

 けれどその答は、ゼロスを納得させるには十分だった。

 

「それはそれは………。

 ……そっくりなご姉妹で……」

 多少頬を引きつらせつつゼロスは言う。

 

――この姉にしてあの妹あり……って事ですか。

 

 

                      *     *     *

 

 

 その頃、話題の人・リナは、自称保護者ガウリイと共に街道を歩いていた。

 

「はっくしゅんっ!」

「うわあっ!

 なんでオレの方に向かってクシャミするんだっ!」

 ガウリイがあわてて言う。

 

「ああっ、ごめん」

 頭をかきつつリナが苦笑する。

 

「まったく……カゼか?

 夜中に盗賊いじめになんて行くからだぞ」

 呆れ顔のガウリイ。

 

「あはは……って!何で知ってるのよ!」

 

 ――こっそり行ったのに……

 

 胸のうちで呟くリナ。

 

「夜にお前さんの部屋訪ねたらいなかったから」

 こともなさげに、ガウリイはそう答えた。

 

 思わず納得しかけるリナだったが、

「って!何で夜中に乙女の部屋訪ねてくるのよっ!」

 慌ててツッコミを入れた。

 

「えっ……あ……その……なんとなく」

 ぽりぽりと頭をかきながら、ガウリイ。

 

「とか何とか言って、『夜這い』でもかけよーとしてたんじゃないの?」

 からかうようにリナは言った。

 

「なっ……」

 一瞬、ガウリイが絶句する。

 

 ――まさか図星 

 

 などと内心焦るリナを尻目に、ガウリイはまるで心外といったふうに、

「何で……子供なんかにそん………」

 言いかけたその瞬間。

 

 どげしっ!

 

 リナが放った飛び蹴りが、まともにガウリイの顔面を直撃した。

 

 ――何かむかつく……

 

 地面に倒れたガウリイを無視して、リナはムカムカしながら歩みを進める。

 

 ――なんだかなー

 

 地面とお友達になりつつ、ガウリイは思う。

 

 ――いつまでたっても子供なんだから……

 

「おいてくわよっ!」

 前方でリナが怒鳴っている。

 ガウリイは起き上がって砂ぼこりを払うと、足早にリナの方へ向かった。

 

 

               *     *     *     *     *

 

 

「妹の話は、まあ……後で追求させてもらうとして……

 あたしに何のようなのかしら?

 ――あ、言っとくけど、さっきみたいに『秘密です』なんて言ったら、ただじゃおかないからね。」

 笑みを浮かべて言うルナに、

「ほぅ…、それじゃあ、どうされるんで?」

 ニコ目のままでゼロスが問う。

 

「そうね、この場で戦闘開始になるのかしら?」

 言って、ルナは地面を指さした。

「……あなた、スィーフィードの騎士なんでしょう……

 いいんですか?こんな町中で戦ったりして。」

「そうね……それはちょっと困るわね。」

 くすっ、と笑いルナが言った。

 

「気に入りました。」

 ゼロスが、突然、明るい口調で言う。

「あら。奇遇ねぇ。」

 同じくルナ。

 

「まぁ、魔族なんかと気が合ってもしょうがないけど」

 一言多いあたり、やはり……リナの姉だけはある。

「それは同感ですがね。」

 

 ふわり…

 

 ゼロスの体が空中に浮かぶ。

「今日のところは、帰ります。

 ……どうやら、あなたと事を構えるのは得策じゃあないみたいですしね。」

 言うと、ゼロスは虚空に消えた。

 

「とか言いつつ、まだそこらにいるんでしょーがっ」

 ゼロスが消えた虚空に向かってとりあえずツッコミを入れてから、ルナは肩をすくめて路地から出て行った。

 

 

 

 

「これじゃあ、調査にも何にもなりませんねぇ」

 あいも変わらずニコ目のまんま、やはり、ゼロスは近くにいた。

「最初っからバレてんですから。」

 リアランサーの屋根の上に佇み、頭を掻く。

 

「まあ、赤の竜神の騎士がリナさんと姉妹だったっていうことが分かっただけでも収穫あり……ということになるでしょうけどね。」

 そして、ゼロスは再び虚空に消えた。



第1話①目次第2話①

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