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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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騎士と神官・第2話 外世界<1>【スレイヤーズ/ルナゼロ】

騎士と神官シリーズ第2話
外世界<1>



「おーい、ルナ。」

 

  休日の朝、少しゆっくりと起き出してきたルナがダイニングへ入ると、テーブルについていた長い黒髪の男が、手にした封筒をヒラヒラ振りながら呼びかけてきた。

 

「あら、父さん、おはよう。

  なに?」

「お前に手紙だ。」

「手紙?」

 

  首を傾げつつ、ルナは父からその封筒を受け取った。

 

『ルナ・インバース様』

 

  丁寧な文字で書かれた封筒を、ルナはひっくり返して差出人を確認する。

  朱い封蝋で閉じられたその下に書かれていた名前に、ルナは小さく目を瞠り、そして微笑んだ。

 

「誰からだ?」

  好奇心に満ちた瞳で問う父に、

「友達よ。遠い所に住んでる……ね。」

  ウインクして、ルナは答えた。

 

 

 

 

 

 

 ◇         ◆         ◇

 

 

 

 

 

 

「それにしても……」

 

  街の中心に近いところにある、小さなカフェ。

  なんとなく場違いな感じの黒ずくめの神官が、水だけでかれこれ1時間近く居座っていた。

  遠目にウェイトレスがうさん臭げに眺めているのを気にもかけず、彼は店の外を行く人達に目を向けた。

 

「……この辺りは、えらく平和なんですねぇ……」

  皆さん楽しげですしね……と、どこか不満げに、水の入ったコップに口をつける。

 

  ――その時

 

  小さく、彼の肩が跳ねた。

  顔を上げて、開いているのか閉じているのか判別しがたい目をすがめるように、彼は辺りを見回す。

 

「おやおや……」

 

  意識せず、口の端が笑みの形にひき上がる。

  少し離れたところで、喧嘩が始まっていた。

  原因は些細な事。

  ちょっとした言い合いが、小競り合いを経て喧嘩まで発展したようだ。

  何かと賑やかなこの街のこと。

  喧嘩が始まれば大事となっていく。

 

「これはこれは……」

 

  目を開き、凍えるような視線をそちらに向けて……黒い神官は口元に満足げな笑みを浮かべた。

 

「――ごちそうさまです。」

 

 

 

  久しぶりの『食事』は、彼を満足させたようであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇         ◆         ◇

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行ってきます。」

 

  店に顔を出し、ルナは声を掛けた。

「あら、行くの?気をつけてね。」

  返ってきたのはのんびりとした返事。

「旅先で風船娘に会ったら、顔ぐらい見せに帰ってこいとでも言ってくれ。」

「分かったわよ。」

  両親からの餞別の言葉に、軽く肩を竦めて、ルナは荷物を持ち直した。

 

 

 

  魔族の動向が気になる昨今、赤の竜神の騎士であるルナにとって、それは決して人事ではない。

  女王陛下からの急な呼び出しは、久しぶりに取れた休暇を、跡形もなく消し去ってしまった。

 

 

 

「まったく……連休だから少しゆっくりできると思ったのに……」

  小さくため息をついて歩きだす。

 

  早急の魔族討伐の仕事ではなかったのだが、思うところがあって、ルナは、すぐに旅に出たのだ。

 

  カサ…

 

  街を出て街道に差しかかった頃、ルナはコートのポケットから、先日届いたばかりの『友人』からの手紙を引っ張り出した。

「……まあ、あの子のところで少しゆっくりすればいいか……」

  随分会っていない遠くの友人の顔を思い浮かべて、ルナは呟いた。

 

 

 

 

 

 

                             ◇      ◆      ◇

 

  空は青空。

 

  川は静かにせせらぎ……

 

  鳥は……一言も囀ってはいなかった。

 

 

 

 

 

「……で?あたしに何の用なの?」

 

  街道を行くルナは、突然、歩みは止めぬまま声をかけた。

  片側に森を望む街道の途中。

  風に微かに混じるのは、『人間』とは相入れぬ気配。

 

「ばれてましたか。」

 

  ルナのすぐ傍……虚空から声が聞こえた。

  そして、ほとんど間をおかずして姿を現す黒い神官。

 

「気づかないわけないでしょ。」

  相変わらず、ルナは歩みを止めず言い捨てる。

「高位魔族がこんな近くにいて、このあたしが気づかないとでも……?

  ――で、アンタ、一体何やってるの?」

  振り向きすらせず、後ろからついてくる神官に向かって問う。

 

  街の中心部で、王城から帰るルナを見つけ、そのまま後をつけてきていたのだ。

 

「それは秘密です♪」

「あっそ。まあ、いいけどね。」

 

  ゼロスのお得意の返答を適当にあしらって、小さく肩をすくめるルナ。

  折角の『秘密です♪』ポーズすら無視されて、早速ペースを乱されるゼロス。

 

「ところでルナさん、どちらへいらっしゃるのですか?」

「答えなくてもついて来るんでしょう?」

 

  さらりと返された、ある意味自身と同じ返答。

  黒い神官は一瞬たじろいだ。

  その隙に、ルナは更に告げる。

 

「まあ、そのほうが都合いいしね。

  ……聞きたいことが山のようにあるから。」

  小さく肩を竦める。

「聞きたいこと……ですか?」

「そ。」

 

  ルナの返事は、簡単なものだ。

  彼女が必要以上のことをしゃべらないのは、気を許していない証拠である。

  何といっても相手は、高位の魔族なのだから……

 

「あんたが始終あたしの……そうね、半径約五百メートル以内にいたのはよく知ってるのよ?

  まあ、あんたが……あんたたちが『何やってるか』なんて…そんな見当のつきそうこと、あえて、わざわざ本人から聞く気もないけどね。」

 

  けれど――いや、だから…か――言葉による牽制だけは欠かさない。

  魔族相手に『負』の感情――弱気な応えは禁物なのだ。

  どうやら、それは今のところ功を奏しているらしい。

  元々そういう性格――必要以上しゃべらない強気な性格だという説もあるのだが。

 

 しかし、やはり……

 

 

  ――なんで僕が、こんな人間の相手しなきゃいけないんです……本当に……

 

 

 ゼロスは大きくため息をついた。

 

  彼にとってルナはやりにくい相手であることは確かだった。

  普段なら『秘密です』で逃げられる筈の事も、逃げさせてくれない。

  これが、『赤の竜神の騎士』というものなのだろうか……

 

  なにやらストレスがたまりつつあるのを自覚しながら、ゼロスはまた、幾度目かの質問をした。

  返答に期待せずに。

 

「ルナさんが出掛ける……ということは、魔族がらみなんでしょう?」

「答が分かってる質問には、あたしは答えない。」

  答えもせず言うだけ言って、

 

  ぴたり。

 

  ルナが歩みを止める。

  軽く髪を掻き上げて、肩越しにゼロスを振り返った。

 

「そうだゼロス。

  あんた、確か知ってるはずよね。」

「はあ?」

  いきなりな問いかけに、ゼロスは思わず問い返してしまう。

「知って……って何を……ですか?」

 

  ルナはコートのポケットから封筒を引っ張り出し、それの差出人の名をゼロスに示しながら微笑んだ。

 

「元火竜王の巫女……フィリアの住んでる所までの行き方。」




第2話①目次第2話②

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