騎士と神官・第2話 外世界<2>【スレイヤーズ/ルナゼロ】 2006年12月11日 スレイヤーズ/騎士と神官 0 騎士と神官シリーズ第2話 外世界<2> 空は青空。 川は静かにせせらぎ、鳥たちが楽しげに囀っていた。 「いーい、天気ねぇ~。」 リナが大きく伸びをして言った。 「だからって、こんなところで寝るなよ。」 横合いから入ったツッコミに、 「その言葉、そっくりそのまま、あんたに返すわよ。」 隣に座るガウリイを横目で睨みつけた。 「この間、あんたが爆睡したおかげで、町に着く前に夜になっちゃったの忘れたの?」 「……あのとき、先に寝ちまったのはお前さんだったろうが。」 「う……そんなこと忘れたわ!」 「お前な。」 ぷいっ、とそっぽを向いてとぼけるリナに、ガウリイは苦笑を浮かべた。 「しっかし……本当にいい天気だな。」 見上げた空を、のんびりと小さな雲が流れて行った。 ◇ ◆ ◇ 川のせせらぎの音に、ぽちゃん…という魚の跳ねた音が混じる。 「……ま、まあ……、知ってはいますけど。」 唐突なルナの問いに、戸惑いつつもゼロスは答える。 「ですけど、それが何か? ……というか、ルナさんって、フィリアさんの事ご存じだったんですね。」 「だって、友達だもの。あたしたち。」 ルナの答に、ゼロスは思わず目を見張る。 「……友達……ですか?」 「あら?意外? まあ……あの神託の一件がなければ会うこともなかったんだけどね。」 「異界の魔王(ダークスター)の一件、ご存じだったんですか?」 ゼロスが問う。 神託の一件……と言われて思い当たるのは、その事件だけだった。 「勿論知ってるわよ。 フィリアが最初に協力を求めてきたのはこのあたしだったもの。 面倒臭かったからリナに回したけどね。 だから、その後のことは、あたしは結果しか知らない。」 不敵な笑みを浮かべて答えるルナ。 「はあ……」 何と言ってよいか分からず、ゼロスは頷いただけだった。 「そして、その後も、あたしとあの子は、こうやってたまに手紙何かのやり取りをしてる…ってわけよ。」 言って、ルナは手紙をコートのポケットにしまった。 「――それで……フィリアさんの住所を聞いてどうするつもりなんですか?」 「行くに決まってるでしょう。」 返ってきたのは簡単な返答。 「えーと……」 分かってはいたが、まだ、ルナのこのペースについてゆけず、ゼロスは頭を掻きつつ言葉を探す。 「案内しなさい。ゼロス。」 返答に困っていると、ルナが有無を言わせぬような口調で、そう告げた。 「は?」 いきなりな発言に、ゼロスの目が点になる。 「案内……って……」 「あたしはフィリアの所に行きたい。 でも、あたしはフィリアの家の場所を知らない。 自力で行けないことはないけれど、あたしはまだ外の世界を見たことがない。」 指折り数えながら、淡々とルナが言う。 「はあ。」 「さて。 ここに、フィリアの家までの行き方、そして外の世界を知ってる魔族がいる。 ……ということは?」 と、にっこりと微笑みかけられて、 ――に、逃げられない。 ゼロスの脳裏をよぎったのはそんな言葉。 なぜだか、ルナのこの微笑みを『恐ろしいもの』と感じてしまう。 まだ出会ってそれほど時間は経っていないのに… 他の言動はいまだに判断しかねる部分ばかりなのに… これだけは、本能のどこかが『危険』を告げている気がして仕方なかった。 ――あとをつけて来るんじゃなかった…… 思っても、それは後の祭りだった。 「…………………………………………はい……………………………」 涙を飲んで、ゼロスは一言、深~く頷いたのだった。 ルナの『有無を言わせぬ極上の微笑み』は人間だけではなく、魔族にまで通用するものなのだと、思わざるを得ない瞬間であった。 ◇ ◆ ◇ さて、場所は離れて、ここは『滅びの砂漠』を越えた地にあるとある国。 静かな町の外れに佇むのは、こじんまりとした店。 窓から中を覗くと、店内に並ぶのは高価そうなアンティークものの壷。 いわゆる骨董品屋のようだ。 突然響いた赤ん坊の泣き声に、一気に騒がしくなる店の中。 女店主が慌てて揺り籠へと駆け寄って、赤ん坊を抱き上げた。 「姐さんー」 片目にアイパッチをした背の低いキツネのような者が、バタバタと店内に駆け込んで行った。 あやし、ミルクを飲ませて泣き止んだ赤ん坊を、再び揺り籠に寝かしつけた女店主は、慌てて振り返り、 「姐さんはやめて、って言ってるでしょう! それに、静かにして下さい!折角眠ったのに。」 トーンを押さえた声で言う。 「あ、すいません。」 「それで、どうかしたんですか?」 「いえ、これが来ていたもので……」 と、手渡したのは一通の封書であった。 「あら、ありがとう。」 受け取って、女主人は、傍の椅子に腰掛け封を切った。 中の手紙を読み、そして、優しい微笑みを浮かべる。 「どなたなんです?」 「友達……です。 ……遠い所に住んでいる。」 答える声は、懐かしそうで、どこか楽しげに聞こえた。 「さあ、少し忙しくなるわ。」 彼女は立ち上がるとポケットに手紙をしまった。 「お客さんが……とても懐かしい人が来るの。」 晴れた空を見上げる横顔は、その空が続く遥か遠くにいる『友達』の面影を思い描きながら、優しい笑みを浮かべていた。 ◇ ◆ ◇ 『滅びの砂漠』と呼ばれる地にあった結界が消えたという噂は、一部の人々の間でまことしやかに囁かれ続けていた。 調査団を派遣しようとしている国もあれば、砂漠に挑もうという勇猛果敢な冒険者もいた。 そんな人々を横目に、ルナは、ゼロスの案内で『滅びの砂漠』の向こうへ広がる地へと足を踏み入れた。 そこは、自分たちのいる地と、大きな違いは感じなかった。 ただ違うのは、魔法が発達していないらしいことと、信仰の中心が火竜王だということ位だろうか…… どちらにしろ、あんまり関係ない。 そう割り切って、ルナは初めて見る「外」の世界を満喫することにした。 「……適応能力が高いですねえ……人間の癖に」 呆れ半分、感心半分でゼロスが呟くのを、ルナは、 「あんたたちと違って、あたしたち人間は寿命が短いの。 楽しめるうちにきっちり楽しんでおかないと、死んでから後悔しても仕方ないもの。」 悪戯っぽく笑った。 「はあ……」 そのルナの様子を見ながらに思い出すのは、例の4人組。 「そういえば、誰かさんたちもそんな感じでしたねー」 その呟きを聞いて、ルナが振り返った。 「そうそう、ゼロス。 あんたに聞いておきたいこと、まだまだたくさんあるのよ。」 「……まだあるんですか?」 うんざりした表情で、ゼロスが頭をかく。 ここに着くまでの間、例の「異界の魔王」の一件について、話をさせられたのだ。 「当然でしょう? まあ、それはおいおい聞いていくことにするわ。」 不敵に微笑んで、ルナはくるり…と踵を返した。 思わずため息をつくゼロス。 「こっちにある伝説や遺跡や……聞きたいこと見たいもの色々あるけど…… まずは……ゼロス!フィリアの家はどこなの?とっとと案内してちょうだい。」 振り向きもせず言い捨てて、ルナが歩きだす。 知らない地でも、堂々としている姿には感服してしまうが…… 「あーもう! はいはい、わかりましたよっ!」 半ばやけくそ気味に、ゼロスは叫ぶように言って、先を行くルナを追いかけた。 〈第2話①|目次|〉 PR