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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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騎士と神官・第2話 外世界<2>【スレイヤーズ/ルナゼロ】

騎士と神官シリーズ第2話
外世界<2>



  空は青空。

 

  川は静かにせせらぎ、鳥たちが楽しげに囀っていた。

 

 

 

「いーい、天気ねぇ~。」

  リナが大きく伸びをして言った。

 

「だからって、こんなところで寝るなよ。」

  横合いから入ったツッコミに、

「その言葉、そっくりそのまま、あんたに返すわよ。」

  隣に座るガウリイを横目で睨みつけた。

 

「この間、あんたが爆睡したおかげで、町に着く前に夜になっちゃったの忘れたの?」

「……あのとき、先に寝ちまったのはお前さんだったろうが。」

「う……そんなこと忘れたわ!」

「お前な。」

 

  ぷいっ、とそっぽを向いてとぼけるリナに、ガウリイは苦笑を浮かべた。

 

「しっかし……本当にいい天気だな。」

 

  見上げた空を、のんびりと小さな雲が流れて行った。

 

 

 

 

 

 

◇         ◆         ◇

 

 

 

 

 

 

  川のせせらぎの音に、ぽちゃん…という魚の跳ねた音が混じる。

 

 

 

「……ま、まあ……、知ってはいますけど。」

  唐突なルナの問いに、戸惑いつつもゼロスは答える。

 

「ですけど、それが何か?

  ……というか、ルナさんって、フィリアさんの事ご存じだったんですね。」

「だって、友達だもの。あたしたち。」

  ルナの答に、ゼロスは思わず目を見張る。

「……友達……ですか?」

 

「あら?意外?

  まあ……あの神託の一件がなければ会うこともなかったんだけどね。」

 

「異界の魔王(ダークスター)の一件、ご存じだったんですか?」

  ゼロスが問う。

 

  神託の一件……と言われて思い当たるのは、その事件だけだった。

 

「勿論知ってるわよ。

  フィリアが最初に協力を求めてきたのはこのあたしだったもの。

  面倒臭かったからリナに回したけどね。

  だから、その後のことは、あたしは結果しか知らない。」

  不敵な笑みを浮かべて答えるルナ。

 

「はあ……」

  何と言ってよいか分からず、ゼロスは頷いただけだった。

 

「そして、その後も、あたしとあの子は、こうやってたまに手紙何かのやり取りをしてる…ってわけよ。」

  言って、ルナは手紙をコートのポケットにしまった。

 

「――それで……フィリアさんの住所を聞いてどうするつもりなんですか?」

「行くに決まってるでしょう。」

  返ってきたのは簡単な返答。

 

「えーと……」

  分かってはいたが、まだ、ルナのこのペースについてゆけず、ゼロスは頭を掻きつつ言葉を探す。

 

「案内しなさい。ゼロス。」

  返答に困っていると、ルナが有無を言わせぬような口調で、そう告げた。

 

「は?」

  いきなりな発言に、ゼロスの目が点になる。

「案内……って……」

 

「あたしはフィリアの所に行きたい。

  でも、あたしはフィリアの家の場所を知らない。

  自力で行けないことはないけれど、あたしはまだ外の世界を見たことがない。」

  指折り数えながら、淡々とルナが言う。

「はあ。」

 

「さて。

  ここに、フィリアの家までの行き方、そして外の世界を知ってる魔族がいる。

  ……ということは?」

  と、にっこりと微笑みかけられて、

 

  ――に、逃げられない。

 

  ゼロスの脳裏をよぎったのはそんな言葉。

  なぜだか、ルナのこの微笑みを『恐ろしいもの』と感じてしまう。

 

 まだ出会ってそれほど時間は経っていないのに…

 他の言動はいまだに判断しかねる部分ばかりなのに…

 これだけは、本能のどこかが『危険』を告げている気がして仕方なかった。

 

  ――あとをつけて来るんじゃなかった……

 

  思っても、それは後の祭りだった。

 

「…………………………………………はい……………………………」

 

  涙を飲んで、ゼロスは一言、深~く頷いたのだった。

 

 

 

  ルナの『有無を言わせぬ極上の微笑み』は人間だけではなく、魔族にまで通用するものなのだと、思わざるを得ない瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

◇         ◆         ◇

 

 

 

 

 

 

 

  さて、場所は離れて、ここは『滅びの砂漠』を越えた地にあるとある国。

 

  静かな町の外れに佇むのは、こじんまりとした店。

  窓から中を覗くと、店内に並ぶのは高価そうなアンティークものの壷。

  いわゆる骨董品屋のようだ。

 

 

 

  突然響いた赤ん坊の泣き声に、一気に騒がしくなる店の中。

  女店主が慌てて揺り籠へと駆け寄って、赤ん坊を抱き上げた。

 

「姐さんー」

 

  片目にアイパッチをした背の低いキツネのような者が、バタバタと店内に駆け込んで行った。

  あやし、ミルクを飲ませて泣き止んだ赤ん坊を、再び揺り籠に寝かしつけた女店主は、慌てて振り返り、

「姐さんはやめて、って言ってるでしょう!

  それに、静かにして下さい!折角眠ったのに。」

  トーンを押さえた声で言う。

 

「あ、すいません。」

「それで、どうかしたんですか?」

「いえ、これが来ていたもので……」

  と、手渡したのは一通の封書であった。

 

「あら、ありがとう。」

  受け取って、女主人は、傍の椅子に腰掛け封を切った。

  中の手紙を読み、そして、優しい微笑みを浮かべる。

 

「どなたなんです?」

「友達……です。

  ……遠い所に住んでいる。」

  答える声は、懐かしそうで、どこか楽しげに聞こえた。

 

「さあ、少し忙しくなるわ。」

  彼女は立ち上がるとポケットに手紙をしまった。

「お客さんが……とても懐かしい人が来るの。」

 

 

 

 

  晴れた空を見上げる横顔は、その空が続く遥か遠くにいる『友達』の面影を思い描きながら、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇         ◆         ◇

 

 

 

 

 

 

  『滅びの砂漠』と呼ばれる地にあった結界が消えたという噂は、一部の人々の間でまことしやかに囁かれ続けていた。

  調査団を派遣しようとしている国もあれば、砂漠に挑もうという勇猛果敢な冒険者もいた。

 

  そんな人々を横目に、ルナは、ゼロスの案内で『滅びの砂漠』の向こうへ広がる地へと足を踏み入れた。

  そこは、自分たちのいる地と、大きな違いは感じなかった。

  ただ違うのは、魔法が発達していないらしいことと、信仰の中心が火竜王だということ位だろうか……

 

  どちらにしろ、あんまり関係ない。

  そう割り切って、ルナは初めて見る「外」の世界を満喫することにした。

 

 

 

「……適応能力が高いですねえ……人間の癖に」

 

  呆れ半分、感心半分でゼロスが呟くのを、ルナは、

「あんたたちと違って、あたしたち人間は寿命が短いの。

  楽しめるうちにきっちり楽しんでおかないと、死んでから後悔しても仕方ないもの。」

  悪戯っぽく笑った。

 

「はあ……」

  そのルナの様子を見ながらに思い出すのは、例の4人組。

 

「そういえば、誰かさんたちもそんな感じでしたねー」

  その呟きを聞いて、ルナが振り返った。

「そうそう、ゼロス。

  あんたに聞いておきたいこと、まだまだたくさんあるのよ。」

「……まだあるんですか?」

 

 うんざりした表情で、ゼロスが頭をかく。

  ここに着くまでの間、例の「異界の魔王」の一件について、話をさせられたのだ。

 

 

「当然でしょう?

  まあ、それはおいおい聞いていくことにするわ。」

  不敵に微笑んで、ルナはくるり…と踵を返した。

  思わずため息をつくゼロス。

 

「こっちにある伝説や遺跡や……聞きたいこと見たいもの色々あるけど……

 まずは……ゼロス!フィリアの家はどこなの?とっとと案内してちょうだい。」

 

  振り向きもせず言い捨てて、ルナが歩きだす。

  知らない地でも、堂々としている姿には感服してしまうが……

 

「あーもう!

  はいはい、わかりましたよっ!」

 

 

  半ばやけくそ気味に、ゼロスは叫ぶように言って、先を行くルナを追いかけた。







第2話①目次|〉


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