聖なる夜~サンクチュアリ~【遙か1/鷹あか】 2006年12月16日 遙かなる時空の中でシリーズ 0 夢小説(名前変更あり)で公開していた作品です もったいないんで、名前固定(あかね)でこちらにも… 「聖なる夜~あなたと刻む永遠~」のあかねサイド 聖なる夜~サンクチュアリ~ 赤や緑で彩られた、クリスマスソングの流れる街。 去年までは、クリスマスなんて特別な日だとは思ってなかったけれど…… 家族で過ごした、小学生の時のクリスマス。 友達と騒いだ、中学生の時のクリスマス。 そして―― あの、桜が舞い散っていた…運命の日。 こことは違う、別の世界で…あかねは出会ってしまった。 離れたくないと…心から惹かれあう人に―― 願いを叶えてくれた白い龍。 聖なる、冬の夜に祈りを捧げるべき神は…白龍なのかもしれない。 あの人と出会わせ…一緒にいる幸せを与えてくれた――あかねを神子に選んだ龍神。 「どうしたの?」 長い黒髪を、肩口からサラリ…と零し、不思議そうに顔を覗き込んできたのは蘭。 あかねにとって、かけがえのない大切な親友。 あの世界で対の神子であった…少女。 「――もうすぐクリスマスなんだなぁ~って…」 「一緒に過ごす相手がいる人は大変ね。」 ちらり…と向ける視線には、からかいの色。 「そういう意味じゃなくて!」 思わず、顔を真っ赤にして抗議の声をあげる、あかね。 くすくす、と蘭は笑う。 「じゃあ、何を、そんなに真剣に考え込んでるの?」 「――出会えたことには、ちゃんと感謝しなきゃいけないな…って思って。」 「え?」 不思議そうに、蘭は親友を振り返る。 「あの人に…だけじゃなくって、向こうにいる皆にも、蘭にも…出会えたのは龍神様のおかげでしょ?だから……」 「だから、祈りを捧げる神様は、龍神様?」 「うん。もう役目も終わったし、こっちの世界じゃ関係ないけど……神子として、それくらいはしなきゃなぁ……って。」 真剣な表情で語るあかねに、蘭は小さく頷いた。 「クリスマスって、神様に感謝する日だものね……本当は。」 学校帰りの商店街。 ふと見上げた街路樹に輝くイルミネーション。 蘭は、再びこの光景を見ることができたことに…胸の奥が締め付けられるような思いがした。 ――龍神にではなく、あかねに感謝の祈りを捧げたい…… そんな風に思ってしまう。 もう…一人ではない。 この幸せをくれたのは、隣でいつも笑っている親友。 「でも、そんなことばかり考えてちゃダメよ?」 「え?」 蘭の言葉に、ふと、あかねは振り返った。 「初めてのクリスマスでしょ?ちゃんと計画は立ててるの?」 おせっかいかもしれない。 でも、じれったいと思ってしまう。 「……」 黙りこんでしまった親友に、意地悪だと思いながらも言葉を重ねる。 「どうしたの?いつもはもっと積極的なのに。」 普段は、自分をぐいぐい引っ張ってゆく親友は、あの年上の恋人のこととなると大人しくなってしまう。 「あのね……」 少し躊躇しながら、あかねは蘭へと告げた。 しばらく前からの悩み事を…… 「お兄ちゃん、男の人ってプレゼントに何貰ったら嬉しいの?」 帰宅した途端の、その問いかけは…天真を驚かせるには十分すぎる言葉だった。 まさか、この大切な妹にまで恋人ができてしまったのか… 自分が守るしかない……と思っていた少女が別の男を選んだことに、ようやく心の整理がついたばかりだというのに…次は妹まで!? そんな兄の動揺などつゆ知らず。 蘭は、期待に満ちた瞳で答えを待っている。 「知るか。」 思わず視線を逸らし、天真は不機嫌そうに答えた。 「意地悪言わないでよ。」 「知らんもんは知らん!」 「お兄ちゃんッ!」 しつこく追いかけてくる妹を振り向きもせず、天真は部屋へと向かった。 「何怒ってるの!?」 「怒ってない。」 「うそ!絶対怒ってる!!」 「……蘭。」 足を止めると、追いかけてきていた蘭も立ち止まった。 「なに?」 「お前、誰か好きなやつでもできたのか?」 呟くように問うと… 「違うよ。」 言って、蘭は笑い出した。 兄が何故怒っていたのかに気付いたのだ。 「別に、私がプレゼントするわけじゃないよ。相談されたから、聞いてみたかったの。」 帰るなり、あんな聞き方をしたのが悪かったとは思う。 「…そっか。」 苦笑を浮かべ、天真は振り返った。 さすがに少し恥ずかしい。 「悪かったな。」 「お兄ちゃんってば、早とちり。」 ひとしきり笑いあって。 天真は、先ほどの妹の問いへの答えを考えてみた。 「……まあ、あげる相手にもよるだろうな。」 「お兄ちゃんなら、何が欲しい?」 「なんだ?言ったらくれるのか?」 「候補に上げるだけ。」 言って、蘭は小さく舌を出す。 「なんだよ、それ。」 「値段と、クリスマスまでの、お兄ちゃんの心がけ次第ってこと。」 「……あのな……」 頭をかいて、天真は溜息をついた。 「――オレだったら、まあ…バイク用の手袋とかだな。そろそろヤバくなってるし。」 「そっか……誰でも欲しがるものってある?」 「また難題をふっかけてきたな…」 と、もう一度考え込み……そして、ふと気付く。 「ところで、誰に相談されたんだ?」 「それは内緒。」 曖昧に微笑み、蘭は答えた。 「……というわけで、人によるみたい。」 「そっか……」 翌日。 学校で、蘭は親友へリサーチの報告をした。 「詩紋くんも、相手によるって言ってたし……」 溜息混じりに、蘭は言った。 「そうなると、やっぱり難しいなぁ……」 「直接聞いたら?」 「それで解決すると思う?」 「やっぱり無理?」 「うん。」 頷いて、あかねは、自分の誕生日の時それとなく問いかけた時の答えを、蘭へ話す。 ……一緒にいられればそれでいい……と言われたのだと。 「ごちそうさま。」 真っ赤になるあかねを見て、苦笑を浮かべ、蘭は言った。 「何か、一緒にいたときに気づいたこととかないの? 例えば…興味を持ってた物とか……」 問われて、あかねは考え込む。 ……そういえば…… ふと、秋に出かけたときのことを思い出した。 「時計……」 「え?」 「どこの商店街の、どの店だったかとかは覚えてないけど……通りすがりの古い時計屋さんにあった懐中時計を『いい雰囲気のものですね』…って」 「それよ!」 蘭は、ぱんっ!と手を叩いた。 「……でも」 「商店街って、駅前の?」 「ううん。」 躊躇するあかねに、蘭は店の場所を思い出させようと躍起になる。 「どんな店?」 「覚えてない…」 諦め顔で、あかねは首を横に振った。 「いいよ。どうせもう残ってないだろうし……もしかしたら、買ってしまった後かも……」 「………私を……」 「え?」 ふいに両方の肩を掴まれて、あかねが戸惑いながら顔を上げると…… 真剣な顔の蘭が目に飛び込んできた。 「私のことを、闇の中から引っ張りあげてくれたのは誰!?」 「……蘭?」 「一人ぼっちだった私を、光の中に呼び戻してくれたのは、あなたでしょっ!」 「……」 「いつもは前向きなのに、どうして…」 「蘭……」 自分の肩を掴む蘭の手に触れ、あかねは、その肩に顔を埋めた。 「ゴメン……ありがと。」 どうして、こんなに臆病になってしまっていたのだろう。 いつもの自分なら、『時計』に思い当たった時点で、すぐにでも探しに飛び出していたはずだ。 胸の奥に、小さな不安の芽が生まれていた。 それが何なのかも分からない……正体の分からない不安が…… 「帰りに、探すの手伝ってもらっていい?」 顔を上げ微笑み、蘭に問う。 「うん。喜んで。」 大切な親友に、こんなに心配を掛けてしまった。 自分の問題なのに……迷惑を掛けてしまった。 申し訳ないという思いでいっぱいになりながら、その反面、蘭が親友でよかったと思う。 普通に暮らしていたら、こんな心の絆を作り上げられなかっただろう。 あの世界で、敵同士として出会って……幾度かの心の交流を重ねて……そして生まれた二人の絆。 対の神子だから…お互いがかけがえのない存在なのだろうか? その答えは、永遠に分からないだろう。 でも、お互いの心が呼び合ったのは事実だ。 だから、今…こうして親友でいられる。 毎日、思い当たる商店街を探し回る日が続いた。 放課後、日が落ちるまでの短い時間だけだから、行ける範囲も限られる。 でも、二人は、あちらこちらの商店街を渡り歩いていた。 「もういいよ、あとは私一人で探すから。」 クリスマスを目前にした12月22日。 今日も二人は、あかねの記憶だけを手掛かりに店を探していた。 待ち合わせ時間まであと1時間。 まだ見つからない『時計』に、二人には焦りの色が見えていた。 「でも……」 「大丈夫。きっと見つかるから。」 微笑み、そう告げるあかねを見つめ…蘭は頷いた。 「分かった。頑張ってね。」 「うん。ありがとう。」 手を振り、その場で別れを告げる。 待ち合わせの場所からは、何駅か離れていた。 少なくとも、あと30分で見つけなければ…時間に間に合わない。 「さて、後は、あそこの駅裏だけだ!」 気合いを入れ、あかねは歩き出す。 絶対に、待ち合わせ時間までに見つけ出そう…… これからも、二人の時間を刻んでゆくための『時計』を。 喜んでもらえるかどうかは、分からない。 優しいあの人のことだ……逆に、気を使わせてしまうかもしれない。 時々よぎってしまう思い。 ……ここしばらく、胸の奥を占拠していた……不安の芽。 だけど…… 『これから先もふたりずっと一緒がいい』 伝えたい言葉と共に、贈りたいプレゼントだから…… 黄昏色に染まる空。 輝き始めた一番星に願いをかけた。 胸に抱えた、小さな包み。 待ち合わせ場所へ急ぐ足。 一足早く訪れる……聖なる夜。 今日は、大切なあの人が生まれた日……だから…… イルミネーションは、大切な人の生まれた日を祝福するように輝いていた。 おわり 奥井雅美さんの歌「サンクチュアリ」より PR