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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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この指に絡め取り……【とうらぶ/石さに】

石切丸→審神者気味
いち兄難民中の審神者と石切丸の話
外見的に好みな一期一振が全く来ないのは、誰かさんが縁切りの祈祷でもしてるんじゃなかろうか?ってなったので、書けば出るの裏返しで書いて昇華したら出るかもという期待をこめて……
結果ですか?ダメでしたよ。はい。
この指に絡め取り……



「いつになったら、君たちのお兄さん来てくれるんだろうねー」

 最近は本丸に居ることの多くなった藤四郎兄弟たちと、縁側でお茶とお菓子で休憩しながら日向ぼっこ。

「なんだ、まだなのか」

 そう言われてしまうと、溜め息しか出ない。
 色々と試してはいるものの、一向に現れる気配がない。

「きっと、好きなタイプだと思うよ」
「え、ほんと?ふふ、楽しみだなぁ」

 何か含むような言葉。
 だけど、話に聞く限りでは、そのようだ。

「おや。今日は藤四郎たちと一緒にいたのかい?」
「あれ?石切丸」

 掛けられた声に振り返る。
 主力の大半は遠征に行っていて、今日は居残り組は実質休み状態。
 鍛刀や刀装で手伝ってもらう都合もあり、石切丸は居残り組。
 だから、部屋に籠って加持祈祷してると思っていた。

「今日は途中で出陣に引っ張り出したりしないから、ゆっくり加持祈祷してたらいいのに……」

 いつも、出陣の度に怒るから、ぷいっと唇を尖らせて言ってみる。
 そんな様子を見て、みんなが笑う。

「まいったな……」

 くすくす笑いながら、石切丸は隣に腰を下ろした。

「おかげさまで、久しぶりにゆっくりと加持祈祷させてもらったよ」
「そうなの?」

 チラリと横を見る。

「いつも、何を祈祷してるんだ?」
「遠征や出陣をする皆の無事と戦勝祈願と、主の健康と安全祈願だね」

 ――ん?

 なにかが引っ掛かる。

「わたしの、安全?」
「廊下で転ばないようにとか」
「分かった!怪我しないようにだ」

 やっぱり……
 がっくりとうなだれる。

「えっと、そんなに……」
「心配してるよ、いつも」

 比較的早いうちから傍に居る子たちが神妙に頷くものだから……
 全員が笑ってしまう。

「ひどいなぁ、もう」
「先日の遠征中は、気が気でなかったよ」

 先に笑いをおさめて、石切丸がこちらを見た。

「子ども扱いしないで……」

 頬を膨らませてそっぽを向く。

「はは、それはすまなかったね」
「ふん」

 膝を抱えてうずくまる。
 思ったようにはいかないし、みんなには笑われるし……
 おもしろくない

「あーあ、すねちゃった」
「えぇっ、私のせいかい?」

 もうしらない。
 ごろりと縁側の床へと寝転がる。

「あーもう!早く来い来い!!」

 じたばたしてみるけれど、こんなところで騒いでても意味はない。

「来い?」

 首を傾げる石切丸。

「あと太刀がふたり、槍がひとり……どうやっても来てくれないって」
「さっきから、こんな感じでグレてるんですよ」

 藤四郎たちが端折った説明をしてくれる。
 間違ってないけど、適当すぎやしない?

「というか、むしろ」
「うちのいちにい――一期一振に焦がれてるみたいですねー」
「へえ」

 視線が集まる。
 もう……いいじゃない。別に。

「お世話してくれるお兄ちゃんが欲しいー!」
「動機が不純だな」

 ――いいもん、別に

「ねえ、石切丸」

 体を起こして隣を見る。
 ……あれ?

「石切丸?」
「……え?あ、なんだい?」

 どうしたんだろう。
 なんだかぼーっとしてる?

「縁結びの祈祷したら、来てくれるかな?」
「それはどうだろう」

 考え込むそぶりを見せ、返ってきたのは芳しくない答え。

「そっか。地道に頑張るしかないかなぁ」

 うーん、と伸びをして立ち上がる。

「もう行くの?」
「また、色々調べてみる」

 手を振って、踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 御祈祷か……
 昔、婆様の元で、祈祷の真似事はしたことがある。
 少し、やってみようか。自分で。

 みんなも寝静まった頃。
 自室の奥の部屋――寝室に設えた小さな神棚へと向き合った。

 神楽くらいは舞えるし、簡単な祈祷ならできる。
 婆様に全部教わった。
 夜も遅いから、さすがに神楽鈴を持ち出すわけにもいかない。
 祝詞だけで済まそう……

「祓いたまえ、清めたまえ……」

 ひととおり済ませて……ふと違和感を覚えた。

 ――何?

 そっと部屋を出る。

 静かな夜の空気。
 静かだからこそ、微かに何かが聞こえた。

 ――なんだろう?

 その何かに向かって、足音を忍ばせながら歩き始めた。

 

 


 みんなの部屋がある辺り。
 既に寝静まっていて、どの部屋も静かで……
 否。

 ――ここ、は……

 耳を澄まして襖の傍へ寄る。

 幣の清らかな音。
 低く響く祝詞を奏じる声。

 ――こんな時間まで……

 思わず浮かぶ苦笑。
 どれだけ祈祷が好きなんだか。
 と、思ったところで何かが引っ掛かった。

 ――あれ?

 眉をひそめた。
 この詞は……

「誰かいるのか?」

 聞こえてきた声に、びくりと体が跳ねた。
 見つかる!?
 隠れなければ!
 逃げなければ!
 そう思って周囲を見回し……
 なぜ逃げ隠れしなければいけないのだと、自分にツッコミを入れた。
 襖が開き、部屋の住人が廊下へと出てくる。

「……!」

 驚いた顔。

「こ、こんばんは……」

 思わず零す挨拶の言葉。

「こんな時間に……どうかしたのかい?」
「えっと……」

 どう言えばいいか迷っていると、部屋へと招き入れられた。

「冷えるだろう。入りなさい」
「はい……」

 部屋に入り、促されて腰を下ろす。

「ごめんなさい。こんな時間に」
「構わないよ。それで――」
「あ、ううん。ちょっと、何か聞こえるなぁって思っただけだから」

 聞こえるものの正体が気になっただけだ。

「石切丸の祈祷の声だったんだね」
「ああ、すまないね。うるさかったかい?」

 問われて首を振る。

「夜が静かすぎただけ」
「これはまた、雅な表現をするね。歌仙殿みたいだ」
「ふふ、そうかな」

 くすくすと笑いあう。
 そして、ふと思い出した。

「あの……」
「なんだい?」
「――石切丸には、何か切りたい縁でもあるの?」

 聞こえてきた祝詞。
 その内容は、縁を切るためのものだった。

「…………ッ!」

 驚いたように目を見張る石切丸。
 それに、驚いてしまう。

「あ……わたし、婆様のところでひととおり教わったから」
「そ、そうか」

 なんだか落ち着きのない様子。
 聞いてはいけないことだったかと、後悔した。

「あ、ご、ごめんなさい。聞いちゃいけなった?」

 慌てて謝る。
 ふ……と、石切丸と目が合った。

 ――え?

 とくん……と鼓動が跳ねた。
 なに?

「……たとえ、それが主の心に背くとしても――」
「石切丸?」

 伸びてきた手。
 寝る前で結っていなかった髪が、その指に絡め取られた。

 ――な、なに……?

「人の身とは……心とは、難儀なものだね」
「えっと……」

 何が言いたいか分からない。

「主の心を奪うかもしれないものを、近づかせたくない」

 それは一体どういうこと?

「人は、これを嫉妬と呼ぶのだろう?」
「え?」

 ――嫉妬?……って、誰が?誰に?

「あっ!」

 突然、腕を掴まれて引っ張られた。
 なすすべもなく、体は重力に任せて倒れこむ……
 正面にいる、石切丸の方へと。

 ――何が起きてるの?

 倒れこんだ体を受け止められた。
 というよりは、抱きとめられた。
 そして、そのまま抱きしめられた。

「ちょっ!えっ?」

 慌てて両手を突っ張るけれど、背中に回った手に抱き寄せられた。

「戦力という意味では、早々に揃って欲しいのは確かだけれど」
「ちょっと、石切丸ってば!」

 心臓は激しくどきどきいうし。
 包み込むぬくもりとか、
 はっきりと感じる匂いとか、
 間近に感じる吐息とか、
 すべてが、顔だけではない……全身の熱を上げてゆく。
 さらさらと、指が髪を梳く。

「それほど執着する相手ならば、会わせたくない……と思ってしまった」

 ――もしかして……

「どうやっても来ない子たちって……まさか……」
「そのまさかだと言ったら、嫌われてしまうかな」
「石切丸の馬鹿」

 はぁ……と溜息を吐く。
 本当に祈祷が効いていたのだとすれば、ある意味すごい。

「すまない」
「……嫌いにはならない。でも、怒る」

 とん。と拳で、広い胸を叩いた。
 そんな程度で堪えるわけがないのは承知の上だ。

「グーで殴るか、パーで叩くか……どっちがいい?」

 ぐいっと力を込めて体を押し返した。
 今度は簡単に解放されて……少し拍子抜けしてしまう。

「できれば、どちらも勘弁願いたいところだけれど……」

 見上げれば、困ったように苦笑を浮かべる石切丸の顔。

「それは、なし」
「まいったな」
「まいったのはこっち!どれだけ資材無駄にしたと思ってるの!?」

 半分は、いきなり抱きしめられたことへの照れ隠し。
 半分は、呆れに似た怒り。
 どちらにしろ、一発くらわさないと気は済まない。

「…………では、グーで」
「え?」

 グーって、拳でぶん殴るってことなんだけど?
 思わず目を瞬かせれば、石切丸は苦笑を浮かべた。

「平手打ちの痕が残って、詮索されるのは面倒だと思ってね」
「……それは、確かに。そうかも……」

 つい納得してしまう。

「それじゃ、覚悟してね」

 深呼吸して、ぐっと拳を握る。
 目を閉じ、覚悟を決めたらしいその頬へと……
 拳を真っ直ぐに放った。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 自分でやっておいてなんだけれど……
 まだ痕の残る頬へと、そっと指を触れた。

「ッ!」
「あっ、ごめんなさい」

 慌てて手を引っ込めた。

 翌日。
 遠征組が帰ってくる前に。と、石切丸に刀装を手伝ってもらっていた。

「寝起きのあれに比べれば、まだましな方だね」
「……ッ!」

 思わず目をそらす。
 あれは、今でも申し訳なく思っている。

「それで……」
「なに?」
「刀装だけでいいのかい?」
「昨夜の今日で、誰かさんの祈祷の効果が消えてるわけないでしょ」

 じろりと睨む。
 ついと逸らされた視線。

 ――まったく、もう

「本当は、もう少し……」
「なに?」

 首を傾げる。
 けれど、それに対する答えはなかった。
 そのかわり――

「沙弥」

 つん。と髪が軽く引っ張られた。

「ちょ、っ……なにして……ッ!?」

 驚いて振り向けば、昨夜のように指に絡め取られた髪。
 それは、ゆっくりと持ち上げられ……

「ぁ……」

 髪へと触れたのは唇。
 かぁっ!と頬が熱くなる。

「い、い、い……」

 驚きと恥ずかしさとで言葉にならない。
 ちらりと視線だけが向けられて……完全に動けなくなってしまった。

「祈祷の効果は……まだ数日は続くよ」

 いつもよりも少し低い声。
 いつもと違う冷えた視線。

「え……?」

 唇の端に浮かんだ笑み。
 ぞくり、という背を這う、感じたこともない感覚。

 ――石切丸?

 得体の知れない何かに、言いようのない不安が襲ってくる。
 さらさらと指の間から零れ落ちてゆく髪。
 それは、さらさらと……白い衣の肩へと降り注いだ。

「あぁ、そろそろ皆が戻ってくる頃だね。行こうか」

 いつもの声で。
 そう言って部屋を出て行く後ろ姿を……
 茫然としたままで見送ることしかできなかった。


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