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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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優しい指の【とうらぶ/石さに】

石切丸+審神者 ※恋愛未満
怪我した審神者と治療してくれる石切丸との話
時系列としては「共に在る今を」の続き
優しい指の



「いい天気」

 うーん!と伸びをする。
 寝不足の目に、降り注ぐ日差しが眩しい。

「おはようございまーす!」
「おはよう。はしゃぎすぎて怪我しないでね!」

 庭を元気よく跳ね回る小柄で元気な今剣の姿。
 朝から、こちらまで元気になりそうだ。

「だいじょうぶですよー!」

 ふわぁと零れた欠伸。
 ダメダメ。
 今日もやることたくさんあるんだから。
 ぺしぺしと頬を叩き、もう一度大きく伸びをする。

「さて、と。今日も頑張りますか!」

 

 

 

 


「……それで、足を滑らせて庭に落ちた……と」
「はい……」

 落ちた拍子に縁側に打ち付けた肘からは、湿布の匂い。
 腕と脛の擦り傷に消毒薬が沁みて、ひゃっと小さく悲鳴を上げた。

「今剣が血相を変えて呼びに来るから、何事かと思ったよ」
「うぅ……ごめんなさい」

 今日も頑張ろう!と気合を入れた直後に、軽くめまいを起こした。
 そして、そのまま足を踏み外して……庭に落ちた。
 だけど、寝不足でめまいを起こしたことは、絶対に言えない。
 誰にも心配かけたくない。

「最初は、落ち着いたしっかりした女性だなと思ったけれど……」

 溜息交じりに、病気平癒の神社に奉納されていたというそのひとは苦笑を浮かべた。

「よそ見をして転んでは怪我をし、戸や柱に激突して瘤はつくり……」
「う……」
「私が来てからでもかなりの回数、治療をしてきた気がするよ」

 呆れられてるだろうな……
 そう思いながら、ちらりと顔を盗み見る。

「これまで、どれだけの怪我をしていたんだい」
「えーっと……」

 確かに。
 廊下で、部屋で、庭で、転んでは日々怪我をしていた。
 誰にも見つかってなければ、こっそりと自分で消毒して薬を塗る。
 誰かに見つかれば、呆れられながらも、その誰かの世話になる。
 ずっとそんな感じだった。

「生傷絶えないのは昔からだったし……」

 自分からすれば、いつものことなのだ。
 ただ、共に暮らすものが増えれば、現場の目撃回数も増える。
 そして、石切丸が来てからは、彼が治療役になってくれていた。

「そういう問題ではないよ」
「え?」

 手を止めて上げられた視線とぶつかる。
 少し強い口調で怒られた。

「もう少し、落ち着いて行動しなさい」
「……はい」
「痕が残ってしまったらどうするんだ」
「ッ!」

 傷口に指が触れて、びくりと体を震わせる。

「砂や棘が入っていないようでよかったよ」

 何度か、傷の具合を確認するように石切丸の指が触れた。
 擦り傷は少し熱を持っていて、消毒薬も冷たいと思っていたけど……
 大柄な体からは想像つかないくらい繊細な指は、少し冷たかった。
 触れるたびに、傷が発する熱が奪われてゆく。
 これは癒しの力の片鱗だろうか。

「膏薬を塗っておこうか」

 そう言って、取り出した容器から指先が薬を傷口へと塗ってゆく。
 
「ひゃっ!し、しみ……っ!」
「沁みるだろうね」

 くすくすと笑われた。
 じん……と傷に沁みる薬。
 でも、それを塗る指はとても優しくて……
 治癒の力を持つというのは本当なんだろうなと思わされた。


「戦うということは忘れてしまっていたけれど……」

 ふとこぼされた言葉。
 顔は上げず、脛の傷へと薬を塗りながら、それは続けられた。

 ――そんなひとを戦場へ引っ張り出してしまった……

 それは、いいことだったのだろうか。
 望まないことを、強いてしまってはいないだろうか。

「正直……こちらの仕事の方が性には合っているね」

 上げられた顔。
 浮かべられた優しい笑み。

「あ、あの……っ!」
「さあ、次は腕だよ」

 問いかけようとした言葉を遮って、有無を言わせず腕を取られる。
 そして、同じように薬が塗られてゆく。

「……それにしても」

 ちらりと向けられた視線。
 その瞳は少し悪戯っぽく笑っていた。

「こうやって、怪我を治療することはできても……」

 言わんとすることがわからなくて、首を傾げる。

「おっちょこちょいは、私にも治せそうにないな」
「っ!」

 思いもよらぬ言葉に、目を瞬かせる。
 そんな様子を見て、くすくすと笑われてしまった。

「怪我の回数を減らしてくれないと、心配で遠征にも行けないからね」
「もう!」

 治療を終え、薬箱を片づけて……
 笑いながら立ち上がる。

「では、私はもう行くよ」
「あっ、うん。ありがとう」

 部屋を出ていく後ろ姿を見送る。
 姿も気配も消えてから、そっと溜息を吐いた。

「心配、かけてるなぁ……」

 自分の不甲斐なさに、嫌気がさす。
 もっとしっかりしないといけない。
 このままじゃ、ダメだ。
 でも……何をどうすれば?
 ぐるぐると、昨夜と同じように自問自答を繰り返す。

「痛い……」

 まだ熱を持つ傷口が痛い。
 けれど、痛みと共に思い出したのは、そこに触れた優しい指の感触。

「……?」

 ふと過った知らない感覚。
 あたたかいような、痛いような、こそばゆいような、不思議な感覚。
 それが何かを考えようとした途端、外から賑やかな声が聞こえてきた。

「あっ!」

 時間を確認して、慌てて部屋を飛び出す。
 遠征に行っていた隊が帰ってくる時間だ。
 戻ってきた子たちを出迎えに行かないと。

 走るな!危ない!
 そう嗜める誰かの声が聞こえた気がしたけれど……
 ばたばたと、廊下を駆けていった。



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