共に在る今を 【とうらぶ/オールキャラ】 2015年06月30日 刀剣乱舞 0 とうらぶ 三日月+審神者 ※恋愛要素なし 悩んでいる審神者。 それに助言する三日月……みたいな話 まだ審神者に就任したばかりの頃の出来事 共に在る今を どうして彼らなのだろう どうしてわたしなのだろう ぼんやりと庭の池を見つめていた。 広すぎるほど広くもなく、狭過ぎることもない綺麗な庭。 池にかかる赤い橋から見る水面に波紋が広がり消えてゆく。 ゆらゆらと広がる小さな波。 思い出す、これまでの色々なこと。 はぁ、と溜息がこぼれた。 「どうした?主よ」 「え?」 不意にかけられた、おっとりとした声。 振り返れば、紺の古風な衣の長身のひと。 声と同じおっとりとした雰囲気を纏うその姿に、溶けてゆく心の中の澱。 「世話をしてもらうのは好きだが、世話をするのは苦手だぞ」 「それ、威張るようなことじゃないでしょ」 その物言いに、思わず漏れる笑い。 「まあ、思い悩む主の話を聞くくらいならばできるがな」 「ありがとう。でも、大丈夫」 大きく伸びをして、踵を返す。 庭の池にかかる橋を、ゆっくりとおりてゆく。 そのあとを、ゆっくりとついてくる足音。 ――足音……か 時折、自分の力が怖くなる。 本来ならば、ないはずの……それ。 けれど、声も聞こえれば足音もする。 触れることだってできる。 そうすることができてしまう、自分の力。 だからこそ、ここにいる。 そして、なすべきことをなしている。 だけど―― 「本当か?」 「……」 後ろから、おっとりした……けれど気遣うような声がした。 零れ落ちた溜息。 足を止めて、ゆっくりと振り返った。 「昨日の出陣……」 ぽつりとこぼす言葉。 そうだ。 分かっていたはずだ。 それなのに、分かっていなかった。 「戦うことの意味、ちゃんと分かってなかった」 俯けば、ぽんぽんと頭を優しく撫でられた。 「それは、彼らのことか?」 彼ら。 かつて、時代の流れに抗って戦った者たちと共に在ったモノたち。 「あちら側のしたいこと……それを潰えるのが、わたしたちの任務だけど」 だけど、それは…… 「あの子たちにとっては……」 「では、任務を放り出すか?」 言われて、首を横に振る。 「それはできない。だって『今』が変わってしまう。でも……」 「酷なことをさせている……と?」 頷いて、空を見上げた。 ふと零された想いが脳裏をよぎる。 あちらの最終的な目的は分からない。 所謂「歴史の節目」を変えようとしているのは明らかだけど。 ひとつ阻止するごとに、次々と時代を遡ってゆく。 「最期まで一緒だった子もいるけど、いられなかった子もいる」 「そうだな」 「でも、みんな……ずっと一緒にいたかったはずだから」 勝敗の決着が変われば、彼らの元の主は生きながらえたかもしれない。 少しでも長く、一緒にいられたかもしれない。 「優しいのだな」 ふるふると首を横に振った。 優しいのではない。弱いのだ。 ――婆様なら…… 思い出すのは優しくも厳しかった女性(ひと)のこと。 彼女ならば、こんな風にひとりで落ち込むこともなかっただろう。 誰かに心配をかけることもなかっただろう。 そして、もっとうまく立ち回れただろう。 「こんな弱い主でごめん」 「弱くなどないぞ」 顔を上げれば、優しい微笑みが見下ろしていた。 「弱くないから、皆を思いやれるのだろう」 「そんなこと……」 「彼らの今の主は誰だ?」 「え?」 つい……と、目の前の視線が動かされる。 それは、わたしの背後へと向けられていた。 肩越しに振り返ると同時に聞こえてきた、足音と騒がしい声。 「あっ!こんなところにいたんですね」 「まったく。心配かけやがって……」 元の主の性格を映したかのようなふたり。 かつて、歴史書や物語の中で見た彼らの元の主を彷彿とさせる。 「なんだ?じじいの散歩にでも付き合っていたのか?」 「兼さん!そういう言い方は……」 「はっはっはっ。確かに、散歩はしていたな」 くすくすと笑いが込み上げる。 「独り占めはだめですよ」 「そうだな。姿が見えねぇってんで、皆で探してたんだ」 思わず目を瞬く。 「……だ、そうだ」 ぽん、と頭に手がのせられた。 振り返れば、優しい笑顔。 見下ろす瞳の奥に、微笑む三日月。 「共に在る今も大事だぞ」 ――あ…… 「はい」 答えはまだ出ない。 けれど…… 「ほら、早くしろって」 先を行く、風に翻った浅黄色の羽織。 志を胸に、その浅黄を纏い散っていった者たちの記憶は真実だ。 彼らの誠を、歴史を変えることで穢したくはない。 そう思ったのも事実。 そのために、わたしも彼らもここにいる。 「きれいな色……」 「なんだ?」 訝しげに向けられた鋭い瞳。 「それ。浅黄色の羽織」 「ったりめーだろ」 嬉しそうに、誇らしげに、瞳が煌めいた。 「兼さん、あの羽織が嬉しくて仕方ないんですよ」 そう教えてくれた笑顔も、嬉しそうだった。 「あなたがいたから、こうやって兼さんとも、また会えました」 「てめぇら、なにとろとろしてんだ!」 聞こえてきた怒鳴り声。 駆け出してゆく、「彼」の相方。 『彼らの今の主は誰だ?』 この力を疎んだこともある。 けれど…… 「ありがとう」 「ん?」 振り返って伝える言葉。 「よかったな」 返ってきた言葉に返す笑顔。 「行きましょう」 のんびり歩く手を取って、先を行く二人を追いかける。 「ああ、待て。そんなに引っ張るな」 「のんびりしていたら、日が暮れちゃう」 経てきた時間(とき)は大切なもの。 変えるということは、その経た時間を消すことだ。 ――だから、負けたくない 辛い思いをさせてしまうかもしれないけれど。 ――その分たくさん大切にしてあげよう そして、一緒に過ごす思い出をたくさん作ろう。 おわり PR