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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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夏の庭【とうらぶ/石さに】

石切丸×創作女審神者
景趣【夏の庭】の風鈴の音聞いて勢いで書いたお話。
夏の庭



 ちりん…

 風に揺られて、風鈴が涼しげな音を奏でていた。
 庭の池に反射する光が眩しい。


 沙弥は、縁側に腰を掛けて庭に置いた盥の水へと足を浸していた。

「あっついなー」

 長い髪を無造作にまとめ、項へと手にした団扇で風を送る。

「そんな格好でいると、燭台切に叱られてしまうよ」
「あー、石切丸だー」

 聞こえてきた呆れ声に振り返れば、内番のラフな格好をした石切丸が、書類らしき束を手に立っていた。

「燭台切は遠征中でーす」

 クスクスと笑い、沙弥は盥の水を足先でかき回す。
 隣に腰を下ろした石切丸が、軽くため息をついた。

「頼まれていたものだよ」
「ありがとね」

 渡された紙の束を受け取る沙弥。

「どうするんだい?そんなもの」

 それは、今この本丸にいる刀剣男士全員に書かせた要望書だった。

「数も増えて、何かと不便なことも出てきてるんじゃないかと思って」

 ぺらぺらと端を捲る。

「……全部わたしへの改善要求だったらどうしよう」
「どうしようって……」

 苦笑を浮かべた沙弥が、傍らの手拭いを手に取って濡れた足を拭う。

「……っ!」

 膝の上まで捲り上げた袴から伸びる白い足に、石切丸は思わず息を飲んだ。

「石切丸?」
「あ、いや、その……」

 首を傾げた沙弥が、石切丸の顔を見て不意にイタズラっぽい笑みを浮かべた。

「わたしの生足にドキッとした?」

 クスクス笑いながら、下ろしかけていた袴の裾を持ち上げて足を見せ付ける。

「……」

 ついと逸らされた視線。
 その石切丸の横顔が僅かに赤くなっていた。
 沙弥は面白がって、石切丸の視界にはいるように足を差し出す。

「……いい加減にしなさい」
「えっ?」

 突然、強い力で腕を引かれ、沙弥の体が傾いた。

「へっ?」

 体が倒れ込み、沙弥は思わず目を閉じる。

「え?あれ?」

 倒れ込んだ沙弥の体は、胡座をかいた石切丸の膝の上に横向きに乗せられていた。

「こ、こら!石切丸!?」

 沙弥は慌てて身を捩った。
 近過ぎる距離と伝わってくる体温に、急速に鼓動が速くなる。

「じっとしていなさい」
「な、なにする気?」
「何……ね。何か期待しているのかな?」
「へ?」

 返された言葉に目を白黒させる沙弥。
 鈍感で無防備すぎる主に、石切丸はため息をついた。

「主は無防備過ぎる」
「へ?」
「そこには書かなかったが……」

 諭すような石切丸の言葉。
 視線は、置かれたままの紙の束から、続いて沙弥に向けられた。

「男所帯の中の紅一点だという自覚を持ってほしい……と要望しないといけないようだね」
「えっ、と……」
「普段は隠れている肌を、あんな風に見せ付ければ……どうなるか分からないかい?」
「どうって?」

 首をかしげる沙弥。
 石切丸は、唇を笑みの形に歪めた。

「主が、『そのつもり』ならば、別だけれどね」
「そのつもり?」
「……こうやって」
「きゃあっ!」

 足を掴んで引き寄せられ、沙弥は悲鳴を上げた。
 不安定な格好に、慌てて石切丸にしがみつく。

「この真っ白な肌に、己の印をつけたいと思う者がいるかもしれない」

 石切丸の唇が足の甲に触れて、沙弥は硬直した。

「な、な、な……」

 どきどきが激しくなって、沙弥は、ぎゅっと目を閉じた。
 足の甲に触れる柔らかな熱を感じる。

「ンッ…」

 思わず漏れてしまった声。
 ちゅっ、という音が耳に届く。

――え?

 離れてゆく熱に、沙弥は恐る恐る目を開いた。
 顔を覗き込んでいた石切丸の視線とぶつかり、びくりと体が跳ねる。

「あ……」

 足の甲に残る、小さな赤い痕。

「自分のことは、大事にしないといけないよ」

 向けられた視線が、少し怖いと思った。
 けれど、ぞくり…と背を這った感覚に、体の芯が熱を持つ。

――あつい……

 あつすぎて、何も考えられない。



 ちりん…

 風に吹かれ奏でられる音。
 池に反射する光が眩しくて仕方なかった。

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