夜の闇に淡く灯る【とうらぶ/石さに】 2015年03月16日 刀剣乱舞 0 石切丸×女審神者。 若干、石切丸黒いかも(当社比) 後半、少々手荒なことしてますが、R指定はございません。 夜の闇に淡く灯る 夜中に、ふと目を覚ました。 布団の中で寝返りをうち、寝直そうとしたけれど…… ――眠れない…… 朝早くからやることが多くて、昼寝もしてないから、疲れているはず。 それなのに、眠れない。 溜息を吐き、体を起こした。 寝間着の上から上着を羽織る。 「ちょっと外の空気吸ってこよ……」 部屋の外……淡い月の光が照る縁側へと出た。 軒の先から見える空は澄んでいて…… 誘われるように庭へと降りた。 * * * ぼんやりと、池に架かる橋の上で欄干に凭れて夜空を見上げる。 「婆様……わたし、ちゃんとやれてるかな」 ぽつりとこぼしてしまった弱音。 不意に胸を刺す寂しさ。 ちゃんとやれているかなんて、今でも不安だ。 けれど…… せめて、みんなが無事に戦いから帰ってきてくれることを、日々願ってる。 「静かだなぁ」 昼間の賑やかさとは真逆の静寂。 みんな眠ってる。 眠ってないのは、この夜の中……わたしだけ。 「どうかしたのかい?」 「え!?」 不意に掛けられた声に、驚いて振り返る。 橋の傍。 池のほとりに、石切丸の姿があった。 「どうして……?」 思わずこぼれた問いに、石切丸は苦笑を浮かべた。 「目が覚めてね……」 目を覚まして部屋を出たところ、庭に人影があるのに気付いた。 それで様子を見に出てきたらしい。 「ごめんなさい。驚かせてしまって」 踵を返し、橋を下りる。 傍に歩み寄るわたしの姿を、石切丸はじっと見ていた。 「何か悩み事がある……わけでもないようだね」 「ふふ、ありがとう」 石切丸の隣に立ち、空の月が映り込む池へと視線を落とした。 「わたしも、目が覚めてしまって……外の空気を吸いにきただけ」 零した弱音は隠しておく。 これは、わたしの問題。 しゃがめば、水面の月が違う顔を見せた。 「だからと言って、ひとりで庭にいるというのは、少し警戒心がなさすぎるね」 「そうかな?」 ここはもう、自分の家みたいなもの。 自分の家の庭で、警戒なんてしない。 「……そういう意味ではないよ」 ため息まじりの言葉。 不思議に思って、隣を見上げた。 ――えっ? どきんっと鼓動が跳ねた。 どうしたのだろう? どうしてしまったのだろう……わたしは。 見下ろしてくる石切丸は、昼間とは違う寝間着姿。 それだけでも普段と印象が違うなと思ってはいたけれど…… ――どうして? いつもの穏やかな表情とは違う、少し怖いくらいな真剣な顔。 「少し、薄着過ぎやしないかい?」 言われて、自分の格好を見下ろしてみる。 寝間着と薄い上着。 確かに、言われてみれば薄着だ。 「でも、それは石切丸だって……」 薄着なのは同じだろう。 そう言い返そうとした言葉に、返ってきたのは溜息。 「ここにいるのは……」 ざり……と足元の砂の音。 見上げるわたしの方へと、体ごと向き直った石切丸。 「元々は刀とはいえ、男ばかりなのだということを忘れていないか?」 「えっと……」 どう答えればいいか分からない。 なんとなく不安になって、立ち上がったわたしは僅かに後退した。 「そんなに無防備な格好で警戒心もなく夜に出歩くのは……」 「い、石切丸?」 どうしたの?と問いたい。 けれど…… わたしが後退した分、距離を詰められた。 「決して安全なことではないのだと、分かっていないといけないよ」 「あ、あの……」 それは、どういう意味? おずおずと、石切丸の顔を見上げる。 すぅっと細められた目が、わたしを捕えた。 「あっ!?」 突然、腕を引き寄せられた。 なすすべもなく、倒れこむ。 「人の身を得たということは、こうすることだってできてしまう」 そして、そのまま抱き竦められた。 急速に鼓動が速くなる。 かぁっと顔に熱が集まる。 「そして、もっと他のことだって……」 ――他のこと? 身動きの取れないまま、言葉を聞く。 伝わってくる熱。 背に回された両腕が、わたしを完全に閉じ込めていた。 「は、はなして……」 訴える声は、少し震えた。 「さて、どうしようか」 「ッ!」 低い声が耳元で囁いて、びくりと体が震える。 片方の手が腰を引き寄せ、もう片方の手は肩へ回った。 ――なに?なんなの……? 「……こんなに体を冷やしてしまって」 「ひゃぁッ!」 耳朶に何かが触れた。 思わず上げた悲鳴。 くすり……と笑う声は、耳元で聞こえた。 「あたためてさしあげようか?」 「え……?」 囁かれた声に、ぞくりと背筋を這い上がる何か。 今まで感じたことのないその感覚に、ふるりと体が震えた。 「言っただろう?他のことだってできる……と」 「他の……こと?」 「わからないかい?」 そうか。と呟いて、また、くすりと笑う声。 「これほどまでに無防備なのは、知らないから……だね。それなら……」 「きゃぁっ!」 突然ふわりと体が浮き上がった。 わたしの体は軽々と持ち上げられ、そのまま肩に担ぎ上げられた。 ――えぇっ!? 「ちょっ、降ろして!」 「暴れない方がいい。危ないから」 そう言って、そのまま歩き出す。 どこへ行こうというのだろう。 「それに、あまり騒ぐと皆を起こしてしまうよ」 言われて慌てて黙る。 黙りはしたけれど…… ――なんだっていうの!ほんとに 担がれているから、石切丸の顔が見えない。 じたばたしようとした両足は、押さえつけられている。 それに何より、この高さから落ちるのは、さすがに嫌だった。 * * * わたしの体重なんて物ともせず、石切丸は本丸の中へと戻る。 そして、躊躇なく歩いて…… ――え?ここ、は…… 入っていった部屋。 目の前で閉まる襖。 そして―― 「ッ!!」 どさりと少し乱暴に降ろされたのは…… 「ここなら、ゆっくりできそうだね」 自室の……寝室の布団の上。 そこに、わたしは仰向けに倒されていた。 何が起きているのかわからないわたしの上に、覆い被さってきた体。 「え?」 一体何が起きているの? 見下ろしてきた顔は、見たこともない表情を浮かべていた。 冷えた瞳。 口元にだけ笑みが浮かんでいる。 慌てて体を起こそうとついた手を、大きな手が掴んだ。 ――なに!? 「やッ!」 右手は、頭上に押さえつけられてしまう。 さすがのわたしも、ここまでされてしまえば状況を理解できる。 「や、やめて」 「おや、何をやめろと言うんだい?」 揶揄するような低い声。 耳元に寄せられた唇が、耳朶に触れた。 「冷えてしまった大切な主の体を、あたためてさしあげようかというのに」 「え、遠慮します」 「遠慮なんていらないよ」 心臓がうるさい。 顔が熱い。 「んッ!」 頬を短い髪がくすぐった。 そして、首筋に何かが触れる。 びくりと震えた体。 「だめ!」 捉えられていない左手で肩の辺りを押し返す。 けれど、力で敵うはずもない。 それどころか、左手も掴まれて押さえつけられた。 「こうしてしまえば、もう抵抗もできないだろう?」 「は……ぁ」 吐息がこぼれる。 首筋に触れたもの――唇は、そのまま下っていって…… 「ひゃぁ、ン……」 鎖骨の辺りに湿った感触。 ぞくぞくと、何かが体を駆け巡る。 たまらず首をのけぞらせた。 「わかるかい?」 いつもの優しい声。 でも、きっと…… 「や……ぁ」 ほら、またそんなに冷たい目でわたしを見つめる。 「無防備で警戒心がないと、こうなってしまうかもしれない」 不意に解放された両手。 驚いて見つめ返せば、ふっと浮かべられたいつもと同じ穏やかな笑み。 「いしきり……まる?」 頬に触れるてのひら。 「自分のことは、大切にしないといけないよ」 「え?」 わたしの体は、まだ組み伏せられたまま。 心臓は、どきどきと激しく鳴り続けている。 「沙弥は、男というものを全くわかっていない」 「そ、それはっ!」 かぁっと頬が熱くなる。 確かに……それは事実だ。 この歳になるまで、色恋沙汰と呼ばれるものとは縁がなかったのだから。 でも、この状況で言われれば、さすがにどういう意味かくらいはわかる。 「神社暮らしが長く、世俗に疎い私ですら……」 頬を撫でる指が、なんだか気持ちよくて、はぁ……と吐息が零れた。 自嘲するような笑みが浮かべられて、指は唇をなぞってゆく。 「触れたいと思ってしまうのだから」 ――触れるって…… 「好意を持ってしまえば、手に入れたいと思うだろうね」 ――それは、つまり…… 「……石切丸も?」 そう問えば、すぅっと細められた瞳に冷たい色が浮かんだ。 そして、笑みの形に歪む唇の端。 「そうだね……こうやって触れるだけで満足できるとは思えないな」 その答えに、胸の中で何かがざわめく。 体の芯が熱くなるのに気付いた。 「おや?」 ゆらりと、わたしを見つめる瞳の奥が揺らめく。 あぁ……また、見たことのない顔だ。 近付いてくる顔に、そんなことを考えていた。 「どうしたのかな?」 「え?」 吐息も当たりそうなくらいの距離。 あまりに近すぎて、鼓動はまた速くなる。 「自分のことを大事にするようにと言ったばかりなのに……」 頬に触れていた指は、するりとわたしの顎へと掛けられた。 ――え? 「そんな瞳で見られると、ちょっとまずいな」 親指が下唇に触れる。 撫でられて、小さく吐息が漏れた。 「ちょっとお灸を据えるだけのつもりだったのに、本気になりそうだ」 耳に届く衣擦れの音。 「皆に恨まれてしまうな……」 また、指が唇をなぞる。 そして…… 小さく首を横に振った石切丸は、わたしの額へと唇を落とした。 「え?」 唇の触れた額が熱い。 「これ以上ここにいるわけにはいかない、か……」 逸らされた視線。 そして、覆い被さっていた体が離れた。 「すまなかったね。辱めるような真似をしてしまって」 「ちょ、っ……」 「もう、そんな無防備な格好で出歩くのではないよ」 「待っ!」 呼び止めようとしたわたしには答えず。 色々と混乱したまま起き上がれないわたしを振り返ることもなく。 その背中は、部屋の外へと出て行ってしまった。 * * * 「…………」 急に寒さを感じた。 消えてしまったぬくもりを欲している自分に気付く。 「石切丸」 名を呼べば、胸にちくりと痛みが走った。 「なんだってのよ……」 今になって、じんわりと涙がこみ上げてくる。 頭の中がぐちゃぐちゃだ。 抱きしめられ、押し倒されて、首とか額にくちづけられて。 一方的にいろいろ言われて、なのに何も言わせてくれなかった。 ――あれ? わたしは、何を言おうとしたのだろう。 呼び止めて、どうしたかったのだろう。 「なんにも、わかんないよ」 額に残る唇の感触と。 体の芯に残る熱と。 耳に残る声と。 色んなものが次々と蘇ってきて……枕に顔をうずめた。 学生だった頃に同級生たちが恋をしていく中、わたしは無関心だった。 婆様と同じように未婚のまま生きていくのだと思っていたから。 審神者としてここに来て、刀剣男士と呼ばれる彼らに出会って。 正直、緊張したり照れくさかったりすることも多いけれど…… 男女という意味で考えたことなんて一度もなかった。 なのに、今…… 「どうして?」 何故、こんなにわたしの気持ちは揺らいでいるの? 「婆様、わたし……どうしちゃったの?」 助けを求めるけれど、それは届かない。 かわりに…… 「ッ!」 わたしの脳裏に浮かんできたのは、婆様ではなく石切丸の顔。 結局―― 頭の中を思考がぐるぐると回って、わたしは眠れない夜を過ごすことになってしまった。 PR