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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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夜の闇に淡く灯る【とうらぶ/石さに】

石切丸×女審神者。
若干、石切丸黒いかも(当社比)
後半、少々手荒なことしてますが、R指定はございません。
夜の闇に淡く灯る



 夜中に、ふと目を覚ました。
 布団の中で寝返りをうち、寝直そうとしたけれど……

 ――眠れない……

 朝早くからやることが多くて、昼寝もしてないから、疲れているはず。
 それなのに、眠れない。
 溜息を吐き、体を起こした。
 寝間着の上から上着を羽織る。

「ちょっと外の空気吸ってこよ……」

 部屋の外……淡い月の光が照る縁側へと出た。
 軒の先から見える空は澄んでいて……
 誘われるように庭へと降りた。





   *   *   *





 ぼんやりと、池に架かる橋の上で欄干に凭れて夜空を見上げる。

「婆様……わたし、ちゃんとやれてるかな」

 ぽつりとこぼしてしまった弱音。
 不意に胸を刺す寂しさ。
 ちゃんとやれているかなんて、今でも不安だ。
 けれど……
 せめて、みんなが無事に戦いから帰ってきてくれることを、日々願ってる。

「静かだなぁ」

 昼間の賑やかさとは真逆の静寂。
 みんな眠ってる。
 眠ってないのは、この夜の中……わたしだけ。

「どうかしたのかい?」
「え!?」

 不意に掛けられた声に、驚いて振り返る。
 橋の傍。
 池のほとりに、石切丸の姿があった。

「どうして……?」

 思わずこぼれた問いに、石切丸は苦笑を浮かべた。

「目が覚めてね……」

 目を覚まして部屋を出たところ、庭に人影があるのに気付いた。
 それで様子を見に出てきたらしい。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」

 踵を返し、橋を下りる。
 傍に歩み寄るわたしの姿を、石切丸はじっと見ていた。

「何か悩み事がある……わけでもないようだね」
「ふふ、ありがとう」

 石切丸の隣に立ち、空の月が映り込む池へと視線を落とした。

「わたしも、目が覚めてしまって……外の空気を吸いにきただけ」

 零した弱音は隠しておく。
 これは、わたしの問題。
 しゃがめば、水面の月が違う顔を見せた。

「だからと言って、ひとりで庭にいるというのは、少し警戒心がなさすぎるね」
「そうかな?」

 ここはもう、自分の家みたいなもの。
 自分の家の庭で、警戒なんてしない。

「……そういう意味ではないよ」

 ため息まじりの言葉。
 不思議に思って、隣を見上げた。

 ――えっ?

 どきんっと鼓動が跳ねた。
 どうしたのだろう?
 どうしてしまったのだろう……わたしは。

 見下ろしてくる石切丸は、昼間とは違う寝間着姿。
 それだけでも普段と印象が違うなと思ってはいたけれど……

 ――どうして?

 いつもの穏やかな表情とは違う、少し怖いくらいな真剣な顔。

「少し、薄着過ぎやしないかい?」

 言われて、自分の格好を見下ろしてみる。
 寝間着と薄い上着。
 確かに、言われてみれば薄着だ。

「でも、それは石切丸だって……」

 薄着なのは同じだろう。
 そう言い返そうとした言葉に、返ってきたのは溜息。

「ここにいるのは……」

 ざり……と足元の砂の音。
 見上げるわたしの方へと、体ごと向き直った石切丸。

「元々は刀とはいえ、男ばかりなのだということを忘れていないか?」
「えっと……」

 どう答えればいいか分からない。
 なんとなく不安になって、立ち上がったわたしは僅かに後退した。

「そんなに無防備な格好で警戒心もなく夜に出歩くのは……」
「い、石切丸?」

 どうしたの?と問いたい。
 けれど……
 わたしが後退した分、距離を詰められた。

「決して安全なことではないのだと、分かっていないといけないよ」
「あ、あの……」

 それは、どういう意味?
 おずおずと、石切丸の顔を見上げる。
 すぅっと細められた目が、わたしを捕えた。

「あっ!?」

 突然、腕を引き寄せられた。
 なすすべもなく、倒れこむ。

「人の身を得たということは、こうすることだってできてしまう」

 そして、そのまま抱き竦められた。
 急速に鼓動が速くなる。
 かぁっと顔に熱が集まる。

「そして、もっと他のことだって……」

 ――他のこと?

 身動きの取れないまま、言葉を聞く。
 伝わってくる熱。
 背に回された両腕が、わたしを完全に閉じ込めていた。

「は、はなして……」

 訴える声は、少し震えた。

「さて、どうしようか」
「ッ!」

 低い声が耳元で囁いて、びくりと体が震える。
 片方の手が腰を引き寄せ、もう片方の手は肩へ回った。

 ――なに?なんなの……?

「……こんなに体を冷やしてしまって」
「ひゃぁッ!」

 耳朶に何かが触れた。
 思わず上げた悲鳴。
 くすり……と笑う声は、耳元で聞こえた。

「あたためてさしあげようか?」
「え……?」

 囁かれた声に、ぞくりと背筋を這い上がる何か。
 今まで感じたことのないその感覚に、ふるりと体が震えた。

「言っただろう?他のことだってできる……と」
「他の……こと?」
「わからないかい?」

 そうか。と呟いて、また、くすりと笑う声。

「これほどまでに無防備なのは、知らないから……だね。それなら……」
「きゃぁっ!」

 突然ふわりと体が浮き上がった。
 わたしの体は軽々と持ち上げられ、そのまま肩に担ぎ上げられた。

 ――えぇっ!?

「ちょっ、降ろして!」
「暴れない方がいい。危ないから」

 そう言って、そのまま歩き出す。
 どこへ行こうというのだろう。

「それに、あまり騒ぐと皆を起こしてしまうよ」

 言われて慌てて黙る。
 黙りはしたけれど……

 ――なんだっていうの!ほんとに

 担がれているから、石切丸の顔が見えない。
 じたばたしようとした両足は、押さえつけられている。
 それに何より、この高さから落ちるのは、さすがに嫌だった。





   *   *   *



 わたしの体重なんて物ともせず、石切丸は本丸の中へと戻る。
 そして、躊躇なく歩いて……

 ――え?ここ、は……

 入っていった部屋。
 目の前で閉まる襖。
 そして――

「ッ!!」

 どさりと少し乱暴に降ろされたのは……

「ここなら、ゆっくりできそうだね」

 自室の……寝室の布団の上。
 そこに、わたしは仰向けに倒されていた。
 何が起きているのかわからないわたしの上に、覆い被さってきた体。

「え?」

 一体何が起きているの?
 見下ろしてきた顔は、見たこともない表情を浮かべていた。
 冷えた瞳。
 口元にだけ笑みが浮かんでいる。
 慌てて体を起こそうとついた手を、大きな手が掴んだ。

 ――なに!?

「やッ!」

 右手は、頭上に押さえつけられてしまう。
 さすがのわたしも、ここまでされてしまえば状況を理解できる。

「や、やめて」
「おや、何をやめろと言うんだい?」

 揶揄するような低い声。
 耳元に寄せられた唇が、耳朶に触れた。

「冷えてしまった大切な主の体を、あたためてさしあげようかというのに」
「え、遠慮します」
「遠慮なんていらないよ」

 心臓がうるさい。
 顔が熱い。

「んッ!」

 頬を短い髪がくすぐった。
 そして、首筋に何かが触れる。
 びくりと震えた体。

「だめ!」

 捉えられていない左手で肩の辺りを押し返す。
 けれど、力で敵うはずもない。
 それどころか、左手も掴まれて押さえつけられた。

「こうしてしまえば、もう抵抗もできないだろう?」
「は……ぁ」

 吐息がこぼれる。
 首筋に触れたもの――唇は、そのまま下っていって……

「ひゃぁ、ン……」

 鎖骨の辺りに湿った感触。
 ぞくぞくと、何かが体を駆け巡る。
 たまらず首をのけぞらせた。

「わかるかい?」

 いつもの優しい声。
 でも、きっと……

「や……ぁ」

 ほら、またそんなに冷たい目でわたしを見つめる。

「無防備で警戒心がないと、こうなってしまうかもしれない」

 不意に解放された両手。
 驚いて見つめ返せば、ふっと浮かべられたいつもと同じ穏やかな笑み。

「いしきり……まる?」

 頬に触れるてのひら。

「自分のことは、大切にしないといけないよ」
「え?」

 わたしの体は、まだ組み伏せられたまま。
 心臓は、どきどきと激しく鳴り続けている。

「沙弥は、男というものを全くわかっていない」
「そ、それはっ!」

 かぁっと頬が熱くなる。
 確かに……それは事実だ。
 この歳になるまで、色恋沙汰と呼ばれるものとは縁がなかったのだから。
 でも、この状況で言われれば、さすがにどういう意味かくらいはわかる。

「神社暮らしが長く、世俗に疎い私ですら……」

 頬を撫でる指が、なんだか気持ちよくて、はぁ……と吐息が零れた。
 自嘲するような笑みが浮かべられて、指は唇をなぞってゆく。

「触れたいと思ってしまうのだから」

 ――触れるって……

「好意を持ってしまえば、手に入れたいと思うだろうね」

 ――それは、つまり……

「……石切丸も?」

 そう問えば、すぅっと細められた瞳に冷たい色が浮かんだ。
 そして、笑みの形に歪む唇の端。

「そうだね……こうやって触れるだけで満足できるとは思えないな」

 その答えに、胸の中で何かがざわめく。
 体の芯が熱くなるのに気付いた。

「おや?」

 ゆらりと、わたしを見つめる瞳の奥が揺らめく。
 あぁ……また、見たことのない顔だ。
 近付いてくる顔に、そんなことを考えていた。

「どうしたのかな?」
「え?」

 吐息も当たりそうなくらいの距離。
 あまりに近すぎて、鼓動はまた速くなる。

「自分のことを大事にするようにと言ったばかりなのに……」

 頬に触れていた指は、するりとわたしの顎へと掛けられた。

 ――え?

「そんな瞳で見られると、ちょっとまずいな」

 親指が下唇に触れる。
 撫でられて、小さく吐息が漏れた。

「ちょっとお灸を据えるだけのつもりだったのに、本気になりそうだ」

 耳に届く衣擦れの音。

「皆に恨まれてしまうな……」

 また、指が唇をなぞる。
 そして……
 小さく首を横に振った石切丸は、わたしの額へと唇を落とした。

「え?」

 唇の触れた額が熱い。

「これ以上ここにいるわけにはいかない、か……」

 逸らされた視線。
 そして、覆い被さっていた体が離れた。

「すまなかったね。辱めるような真似をしてしまって」
「ちょ、っ……」
「もう、そんな無防備な格好で出歩くのではないよ」
「待っ!」

 呼び止めようとしたわたしには答えず。
 色々と混乱したまま起き上がれないわたしを振り返ることもなく。
 その背中は、部屋の外へと出て行ってしまった。




   *   *   *




「…………」

 急に寒さを感じた。
 消えてしまったぬくもりを欲している自分に気付く。

「石切丸」

 名を呼べば、胸にちくりと痛みが走った。

「なんだってのよ……」

 今になって、じんわりと涙がこみ上げてくる。
 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 抱きしめられ、押し倒されて、首とか額にくちづけられて。
 一方的にいろいろ言われて、なのに何も言わせてくれなかった。

 ――あれ?

 わたしは、何を言おうとしたのだろう。
 呼び止めて、どうしたかったのだろう。

「なんにも、わかんないよ」

 額に残る唇の感触と。
 体の芯に残る熱と。
 耳に残る声と。
 色んなものが次々と蘇ってきて……枕に顔をうずめた。



 学生だった頃に同級生たちが恋をしていく中、わたしは無関心だった。
 婆様と同じように未婚のまま生きていくのだと思っていたから。
 審神者としてここに来て、刀剣男士と呼ばれる彼らに出会って。
 正直、緊張したり照れくさかったりすることも多いけれど……
 男女という意味で考えたことなんて一度もなかった。
 なのに、今……

「どうして?」

 何故、こんなにわたしの気持ちは揺らいでいるの?

「婆様、わたし……どうしちゃったの?」

 助けを求めるけれど、それは届かない。
 かわりに……

「ッ!」

 わたしの脳裏に浮かんできたのは、婆様ではなく石切丸の顔。
 
 結局――

 頭の中を思考がぐるぐると回って、わたしは眠れない夜を過ごすことになってしまった。

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