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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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待ち人、来るが……【とうらぶ/石さに】

審神者と石切丸。
石切丸→女審神者。
「この指に絡め取り」の続き。うちの本丸に漸く一期一振来た記念。
いち兄の出番最初だけです。ごめんなさい。

待ち人、来るが……



 ああ、やっとだ。

 大きく息を吐いて、わたしは肩の力を抜いた。
 優しい笑みを浮かべた、その太刀が、床にへたり込むわたしの姿を見て目を瞠る。
 近侍についてくれていた鳴狐が、苦笑を浮かべてわたしの肩を支えてくれた。
 彼の肩に乗る狐が、よかったですなと言い、今現れたばかりの太刀へと弟方をお連れしましょうと告げてするりと部屋を出ていった。

「やっと祈祷の効果切れたのかな……」

 ポツリと呟き立ち上がろうとすると、白い手袋をした手がわたしの前に差し出された。

 ――え?

 見上げれば、藤四郎たちの兄に当たる太刀である一期一振の優しい笑み。
 鳴狐に肩を支えられたまま、わたしはその手に自分の手を乗せた。
 ぐいと引かれて立ち上がる。

「来てくれてありがとう」

 そう伝えると、不思議そうな顔をした。

「……もしかすると、辛い思いをさせることになるかもしれない。けど、共に戦ってほしい」

 それは、ある種、我儘な願い。
 このひとが抱いているであろう、歴史上の辛い記憶を守らせることになるであろう、酷な願い。

「わたしは、今と今に繋がる過去を守りたい。今まで紡がれ続けた歴史をを守りたい。
 あなたとの――ここにいるみんなとの出会いが大切だから。
 過去が変わってしまったら、今が違うものになってしまう……わたしは、それを防ぎたい」

 ほんの少しのきっかけで、先は変わってしまう。
 掛け違えられた釦のように。
 今は過去の積み重ね。
 かつて、幼い頃のわたしが婆様に歴史を変えることがなぜ悪いのか聞いてから、自分のなかで見出だした信念。

「そうきますか」

 くすりと笑う声。
 おかしそうに笑い、わたしを楽しそうな目で見ていた。

「主は貴女です。戦えと命じればよいものを……」
「そういうのは嫌だから」

 わたしの答えに、一度目を閉じた一期一振。
 再び開かれた瞳がわたしを正面から見据える。

「承知しました。共に戦うこととしましょう」
「ありがとう」

 そこまで話をしたところで、にわかに騒がしくなる部屋の外。
 するりと戸の隙間から入り込んできた狐は鳴狐の肩――定位置へと戻る。
 それと同時に、外側から勢いよく戸が開いた。

「いち兄!」
「厚!乱暴に開けるな」

 薬研くんに怒られて、もそもそと言い訳している厚くん。
 次々と雪崩れ込んでくる藤四郎たち。

「ほら、みんな。騒がないの」

 わいわいと収拾がつかない状態になっている藤四郎たちに、苦笑を浮かべながら声を掛ける。

「ごめんね、ずいぶんと待たせちゃって」

 そう言って彼らの兄の前から避ければ、わあっと駆け寄ってきた。
 その様子を微笑ましく見つめ、わたしとともに避けていた鳴狐を振り返る。

「しばらく、兄弟だけにしといてあげよっか」

 頷く鳴狐とともに踵を返す。

「あ。いち兄」
「え?」

 藤四郎たちのように呼び掛ければ、驚いた顔でわたしを見る。

「わたしも、この子たちと同じように呼ばせて?」
「主様、ずっとお兄ちゃんお兄ちゃん言ってたもんねー」

 乱ちゃんがそう言って笑う。

「はあ。構いませんが……」
「正式な場では、ちゃんと呼びます。普段くらいは、ね」
「大将」
「薬研くん、あとで案内とか色々よろしくね」
「ああ、任せとけ!」

そうして、わたしは戸口で待っていた鳴狐と共に部屋を出た。


「主様、それではわたくしと鳴狐は、ここで失礼します」
「うん。ありがとう」
「失礼する」

 鳴狐とも別れ、わたしは自室へと向かう。



   *   *   *



 思えば今日まで長かった。

 ――まったく、もう……

 縁切り祈祷されていたのを知ってから、片手では数えられない日が経っていた。
 効果は数日続くと告げられたけれど……

 ――っ!

 ふと、それを告げられた時のことを思い出して、頬が熱くなった。
 ……って、いやいや、それは今は関係ない。うん。
 本当に祈祷が効いていたせいだとすれば、すごいな御神刀……としか言えない。

「石切丸の祈祷の効果、長すぎ……」
「呼んだかい?」
「ひゃぁっ!」

 突然横合いから掛けられた声に驚いて、悲鳴をあげた。

「驚かせてしまって、すまないね」

 振り返れば、石切丸の姿。
 いつからそこにいたのだろう。
 それに、すまないなんて言ってるけど、絶対そう思ってなんかいない。

「来たんだって? 待ち人」
「おかげさまで」

 頬を膨らませて答える。

「殴って許してくれたのでは?」
「それはそれ。これはこれ」

 ちらと横目で見れば、石切丸は苦笑を浮かべていた。

「それで、その憧れのお兄様はどうしたんだい?」

 言い方が意地悪だ。

「……どうして、そんな意地の悪い言い方するの」
「理由は、すでに言ったはずだよ」

 ――…………っ

 抱き寄せられ告げられた、あの夜の「嫉妬」の告白を思い出して頬が熱くなった。

「いち兄は、弟たちと兄弟水入らず」
「……いち兄、ね」
「なあに?」

 なんでもないと答えるけど……絶対何かある。
 そう思って見つめてみれば、すっと視線を外された。

「…………これで、残るは小狐丸だけなんだけど」

 見つめたまま告げてみれば、そうだね。と返ってきた。

「三条で揃って出陣させてみたいなぁ」

 言って、逸らされた視線に入り込むように顔を覗き込んだ。

「っ!」
「ね?」

 おねだりするように言ってみれば、目を瞠った石切丸の顔が僅かに赤くなる。

「また、そういう顔を……」
「うん?」

 吐かれた盛大な溜息。
 そして、突然近づいてきた顔。

 ――ち、近い近い!

 思わず後退すると、手首を掴まれた。

「え?」

 思わず目を瞬かせる。

「来なさい」

 ぐいと強い力で引かれる。
  
「え?ちょっ、待っ!」
「いいから」

 戸惑うわたし。
 けれど、強い力には勝てなくてそのまま着いて行く。
 着いた先は、わたしの部屋。
 ……というか、執務室。

「座りなさい」

 促されて座れば、目の前に石切丸も座る。

「ちょっと、一体、何なの?」

 むっとして問おうとすると、正面から石切丸に見つめられた。

 ――えっ、な、なに?

「このところ、私を近侍から外して何度も何度も鍛刀していたみたいだね」
「あたりまえでしょ!」

 縁切り祈祷していた張本人に近侍任せて、結果が出るとは思えない。
 外して当然だ。
 それがどうしたというのだ。

「……寝不足になるほど?」

 言われて、視線を逸らして押し黙る。
 図星だ。
 昼間は日々の任務をこなしながら鍛刀し、夜は色々調べもの。
 当然ながら寝不足になっていた。
 ……けど。

 ――そうだった……

 石切丸相手では、隠し通せないんだった。
 わたしは一度、このひとに寝不足を見抜かれている。

「全部、石切丸のせいじゃない」

 そうだ。
 あの祈祷のせいだ。
 半ば八つ当たり気味に言い返せば、石切丸は苦笑を浮かべた。

「私のせい……か」
「縁切りの祈祷とかするから!」

 きっ、と睨み付ける。

「この……目の下の隈は、私のせいなんだね?」
「ッ!?」

 不意に目元に触れた指。
 びくりと肩が跳ねる。

「ちょっ!」
「あぁ、いつかのように肌が荒れてしまっているね」

 つぅ……と指が頬を撫でる。
 転寝の寝起きに殴ってしまった日のことを思い出す。
 あの時のように、石切丸の指はわたしの肌を辿る。
 あの時と違うのは……

「い、いしきり、まる?」

 捕らえて離さない見下ろしてくる瞳と見たことのない表情。
 頬に触れる指も、あの時と少し違うような気がした。
 知らず知らずの内に、かあぁっ、と顔が熱くなる。

「髪も、少し痛んでいるね……」

 頬から離れた手は、わたしの髪を撫でる。
 撫でて、髪に指を絡めて……

「こんなことでは、また、燭台切に叱られるよ」

 くすくすと笑いながら、身嗜みに煩いひとの名を持ち出す石切丸。

「そ、そんなの石切丸に関係ないじゃない」
「関係はある」

 すっと顔を近づけて、指に絡めた髪に唇を落とした。

「寝不足が私のせいなら、これも全部私のせいなんだろう?」

 心臓がはちきれそうなくらい鳴っている。

「ぁ……」

 何も言えなくなったわたしに、石切丸は小さく、くすりと笑った。
 するりと、指から零れる髪。
 石切丸の手がわたしの頭を撫でる。

「今日はもう休みなさい」
「え?」
「待ち人が来たのなら、また私を近侍に戻してもらえるんだろう?」

 それは、まあ、確かに。
 そのつもりでいたから、わたしは頷いた。

「それなら、たまには近侍からの進言を聞き入れてもらいたいね」
「……はい」

 逆らうつもりはない。
 多分、言われなくても……
 否。

 ――行動、読まれてるなぁ

 言われなければ、休憩程度の休みだけで、いつもどおり動いていただろう。

「では、皆にもそう伝えてくるよ」

 離れていく手の重み。
 それにつられて顔をあげると、目が合った。

 ――え?

 とくん。と跳ねた鼓動。

「ゆっくり休むといい」

 微笑みながらそう言って、立ち上がった石切丸は部屋を出て行った。

[newpage]

 閉じられた障子の向こうに消えた背中。
 ふと、耳の奥に声が蘇る。

 『嫉妬と呼ぶのだろう?』

 それは、あの夜告げられた言葉。

 ――もしかして……

 本人には聞けないけど。
 鍛刀の時に近侍から外していたことや、いち兄のために寝る間を惜しんでいたことを……?

 ――まさか、ね

 妬かれたのかもしれないと過ったけれど、そんなはずがないと頭を振った。
 きっと、心配させてしまったんだ。
 寝不足にまでなって無理をしていたことを心配されたのだ。
 そう、自分に言い聞かせた。

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