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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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触れた指の【とうらぶ/石さに】

女審神者と石切丸。
恋愛未満。
「優しい指の」の続きにあたるけれど、単体でも問題なし。

触れた指の



 やらかしてしまった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 平謝りに謝りまくる。
 縁側に正座して。
 目の前の、今、殴り倒してしまった人へ。





   *   *   *




 事の起こりは、ほんの少し前。
 縁側で、ぼーっとしているうちに、睡魔に負けた。
 いつもと違って、今日はひとり。
 お昼寝仲間は、今朝方、遠征をお願いしてしまった。
 猫のように丸くなって、縁側を独り占めでお昼寝。
 このぽかぽかが気持ちいい。
 夜の冷たさとは大違い……

「……」

 何か聞こえた気がした。
 うるさい。

「……い」

 軽く、肩を揺すられた。
 その瞬間、拳が何かにヒットした。
 悲鳴を、夢の中で聞いた。
 ……悲鳴?
 
「え……?」

 目を開くと、すぐそばでうずくまる姿。

「えっと……」

 何が起きたか考える。
 あれ?
 もしかして……



 そう。
 寝ぼけて、起こそうとしてくれたひとを殴り倒したのだ。





   *   *   *





「聞いてはいたけれど……強烈だったな」
「本当に、ごめんなさい」

 床に額をこすり付けんばかりに謝る。
 殴ってしまった顔……というか頬が赤い。
 冷たい手ぬぐいで冷やしているけど……きっと腫れる……

「こんなところで寝ていては、風邪をひいてしまうと思ってね」

 それで、起こしてくれようとした。
 優しい人だ。
 他の人から、寝起きが悪くて危険だと聞いていただろうに……

 ……とその時。

「……おや?もしかして」

 突然、顔を見つめられて、思わず俯く。

「顔を見せて」
「え?」

 穏やかに、けれど少し強引に掛けられた言葉。
 逆らえずに顔を上げる。

「……ふむ」
「あ、あの……」

 じっと見つめられると、少し緊張する。
 知らず知らずの内に、頬が熱くなって、鼓動が早くなってしまう。

「ちゃんと眠れてるかい?」

 どきり、とした。
 なぜ、見抜かれた?

「え、どうして?」
「顔色がよくないな。目も赤い。それに……」

 それに?

「ひゃっ!」

 突然、頬に指先が触れた。
 思わず、小さく悲鳴が上がる。
 冷えた手拭いを持っていたからか少し冷たい感触。

「ああ、すまない。冷たかったかい」

 そうじゃない、そっちじゃない。

「若い女性が、こんなに肌を荒らして……」
「え……?」

 ひんやりとした指が、頬を撫で、目元を撫でる。
 確かに。
 このところ、肌荒れがひどい。
 寝不足のせいなのは分かっていた。
 とはいえ。

「あ、あの……っ!」

 きっと、このひとは無意識なんだろう。
 いつもの、怪我を治療してくれているのと同じ感覚なんだ。
 でも、ここは縁側で……
 他の誰かが通るかもしれなくて……
 そのうちに、指先は一番荒れの酷い口元に触れていた。
 これは、どう誤解されてもおかしくない状態だった。

「ゆ、指……」

 なんとか、絞り出すみたいに訴える。

「指?……うわぁっ!」

 やっと気付いたのか、火傷した時みたいに手を離す。
 みるみるうちに顔が赤くなってゆくのを、他人事みたいに見てた。
 気まずくて、お互い目をそらす。

「も、申し訳ない」

 謝られて、首を横に振る。

「いや、女性の肌に勝手に触れるなど、不躾なことを……」
「心配してくれたんでしょ?」

 頷かれて、苦笑を浮かべた。

「ありがと。心配させてごめんなさい」
「もしよかったら、話してくれないか?」

 どうしよう。
 だけど、怪我させてるし、すごく心配してくれてるし……

「不安なんです」
「不安?」

 少しずつ進んでるのは分かってる。
 それとともに仲間が増えてるの分かってる。
 だけど……

「このままでいいのか。他にできることはないか」

 みんなに怪我させたくない。
 みんなを失いたくない。

「そんなことばっかり考えて、気づいたら朝になってて」

 だけど、そんなことで心配かけたくない。

「倒れてしまっては元も子もないよ」
「はい……」
「それに」

 ぽん、と頭に手をのせられた。
 それは、優しくゆっくりと頭を撫でてくれる。

「大丈夫。一人で背負うことなどないのだから」
「だけど……」
「何のための仲間だい?」

 たくさん増えて、きっと、これからも増えてゆくだろう。
 それを、バランスを考えて……

「だから、ひとりで抱え込むなと言っているんだ」
「え?」
「頼りにならないかい?」

 ふるふると首を横に振る。

「すごく頼りにしてる」
「それなら、信じてもっと頼ってくれ」

 ああ、そうか。

「はい」

 ひとりで考えて答えが出ないなら、相談すればいい。
 これは、ひとりきりの戦いじゃない。
 何より、戦うのはみんなの仕事なんだから。
 それなら、ちゃんと話をすればよかったんだ。

「得意不得意はあるけれどね」
「ふふっ。得意なのは健康祈願とか戦勝祈願とか恋愛成就とか?」
「そうだね。加持祈祷は……え?恋愛!?」

 文字通り目を白黒させて、でも顔は真っ赤で……
 くすくすと笑いながら、冗談だと告げようとした。

「じょうだ……」
「そういう人ができれば、いつでも来なさい」
「え……」

 驚いて顔を上げれば、穏やかな笑み。
 逆に、こちらがどきどきしてしまう。

「……その時は、よろしくね」

 思い出してしまった、触れた指の感触。
 少し照れくさくなったけど、にっこりと笑顔で返す。




 なんだかくすぐったい時間が流れる。
 だけど、きっと。
 もう眠れない夜が続くことはないだろう。

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