触れた指の【とうらぶ/石さに】 2015年01月30日 刀剣乱舞 0 女審神者と石切丸。 恋愛未満。 「優しい指の」の続きにあたるけれど、単体でも問題なし。 触れた指の やらかしてしまった。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」 平謝りに謝りまくる。 縁側に正座して。 目の前の、今、殴り倒してしまった人へ。 * * * 事の起こりは、ほんの少し前。 縁側で、ぼーっとしているうちに、睡魔に負けた。 いつもと違って、今日はひとり。 お昼寝仲間は、今朝方、遠征をお願いしてしまった。 猫のように丸くなって、縁側を独り占めでお昼寝。 このぽかぽかが気持ちいい。 夜の冷たさとは大違い…… 「……」 何か聞こえた気がした。 うるさい。 「……い」 軽く、肩を揺すられた。 その瞬間、拳が何かにヒットした。 悲鳴を、夢の中で聞いた。 ……悲鳴? 「え……?」 目を開くと、すぐそばでうずくまる姿。 「えっと……」 何が起きたか考える。 あれ? もしかして…… そう。 寝ぼけて、起こそうとしてくれたひとを殴り倒したのだ。 * * * 「聞いてはいたけれど……強烈だったな」 「本当に、ごめんなさい」 床に額をこすり付けんばかりに謝る。 殴ってしまった顔……というか頬が赤い。 冷たい手ぬぐいで冷やしているけど……きっと腫れる…… 「こんなところで寝ていては、風邪をひいてしまうと思ってね」 それで、起こしてくれようとした。 優しい人だ。 他の人から、寝起きが悪くて危険だと聞いていただろうに…… ……とその時。 「……おや?もしかして」 突然、顔を見つめられて、思わず俯く。 「顔を見せて」 「え?」 穏やかに、けれど少し強引に掛けられた言葉。 逆らえずに顔を上げる。 「……ふむ」 「あ、あの……」 じっと見つめられると、少し緊張する。 知らず知らずの内に、頬が熱くなって、鼓動が早くなってしまう。 「ちゃんと眠れてるかい?」 どきり、とした。 なぜ、見抜かれた? 「え、どうして?」 「顔色がよくないな。目も赤い。それに……」 それに? 「ひゃっ!」 突然、頬に指先が触れた。 思わず、小さく悲鳴が上がる。 冷えた手拭いを持っていたからか少し冷たい感触。 「ああ、すまない。冷たかったかい」 そうじゃない、そっちじゃない。 「若い女性が、こんなに肌を荒らして……」 「え……?」 ひんやりとした指が、頬を撫で、目元を撫でる。 確かに。 このところ、肌荒れがひどい。 寝不足のせいなのは分かっていた。 とはいえ。 「あ、あの……っ!」 きっと、このひとは無意識なんだろう。 いつもの、怪我を治療してくれているのと同じ感覚なんだ。 でも、ここは縁側で…… 他の誰かが通るかもしれなくて…… そのうちに、指先は一番荒れの酷い口元に触れていた。 これは、どう誤解されてもおかしくない状態だった。 「ゆ、指……」 なんとか、絞り出すみたいに訴える。 「指?……うわぁっ!」 やっと気付いたのか、火傷した時みたいに手を離す。 みるみるうちに顔が赤くなってゆくのを、他人事みたいに見てた。 気まずくて、お互い目をそらす。 「も、申し訳ない」 謝られて、首を横に振る。 「いや、女性の肌に勝手に触れるなど、不躾なことを……」 「心配してくれたんでしょ?」 頷かれて、苦笑を浮かべた。 「ありがと。心配させてごめんなさい」 「もしよかったら、話してくれないか?」 どうしよう。 だけど、怪我させてるし、すごく心配してくれてるし…… 「不安なんです」 「不安?」 少しずつ進んでるのは分かってる。 それとともに仲間が増えてるの分かってる。 だけど…… 「このままでいいのか。他にできることはないか」 みんなに怪我させたくない。 みんなを失いたくない。 「そんなことばっかり考えて、気づいたら朝になってて」 だけど、そんなことで心配かけたくない。 「倒れてしまっては元も子もないよ」 「はい……」 「それに」 ぽん、と頭に手をのせられた。 それは、優しくゆっくりと頭を撫でてくれる。 「大丈夫。一人で背負うことなどないのだから」 「だけど……」 「何のための仲間だい?」 たくさん増えて、きっと、これからも増えてゆくだろう。 それを、バランスを考えて…… 「だから、ひとりで抱え込むなと言っているんだ」 「え?」 「頼りにならないかい?」 ふるふると首を横に振る。 「すごく頼りにしてる」 「それなら、信じてもっと頼ってくれ」 ああ、そうか。 「はい」 ひとりで考えて答えが出ないなら、相談すればいい。 これは、ひとりきりの戦いじゃない。 何より、戦うのはみんなの仕事なんだから。 それなら、ちゃんと話をすればよかったんだ。 「得意不得意はあるけれどね」 「ふふっ。得意なのは健康祈願とか戦勝祈願とか恋愛成就とか?」 「そうだね。加持祈祷は……え?恋愛!?」 文字通り目を白黒させて、でも顔は真っ赤で…… くすくすと笑いながら、冗談だと告げようとした。 「じょうだ……」 「そういう人ができれば、いつでも来なさい」 「え……」 驚いて顔を上げれば、穏やかな笑み。 逆に、こちらがどきどきしてしまう。 「……その時は、よろしくね」 思い出してしまった、触れた指の感触。 少し照れくさくなったけど、にっこりと笑顔で返す。 なんだかくすぐったい時間が流れる。 だけど、きっと。 もう眠れない夜が続くことはないだろう。 PR