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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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それぞれの思惑【雅恋/和彩】

「彩りのことのは」本編中 捏造 ※ネタバレ注意
彩雪が内裏を出て行く決心をしていた頃
冷為の元へと和泉が訪ねてきた……


それぞれの思惑

 

 近づいてくる足音は部屋の前で止まり、簾を避ける微かな音が耳に届いた。

 

「冷為……」

 不機嫌な声に名を呼ばれ、やはり来たかと思いながら、冷為は振り返る。

「――なんだ?」

 そこにある予想通りの姿へと投げかけるのは、答えの分かっている問い。

 じっとこちらを見つめてくる瞳には、僅かに怒りが籠っていた。

 それの原因は分かっている。

 あの式神のことだろう。

 

 ――お前がそんなだから……なんだろうが

 

 冷為は、胸の内で、そうひとりごちた。

 

 

 下ろされた簾。

 外の空間とを阻むように配置された几帳や屏風。

 当然ながら、周囲には他に誰もいない。

 それは、ふたりで「今上帝」としての打ち合わせをする時と同じ状況だ。

 けれど、今は――

 

 

「あの子に・・・・・」

 紡がれる言の葉にも、滲む不機嫌。

 珍しい。

 と冷為は、普段とは全く違う雰囲気を見せる兄の――和泉の顔を見つめた。

「式神ちゃんに、お前は一体何を吹き込んだんだい?」

「……」

 

 いつもは飄々として、他人に向けて感情をあらわにすることなどない和泉。

 そんな和泉も、こと、式神参号に関しては、その仮面を捨ててしまう。

 それは興味深いことだった。

 

「冷為」

 詰問するような声。

 冷為は、深く溜息を吐いた。

「オレは、事実を言ったまでだ」

 告げる言葉に、目の前の兄が纏う不機嫌が更に濃くなる。

 

 ――まったく……

 

 双方の心配をしてやっているというのに。と冷為は思った。

 このままでは、どちらにとってもよろしくない。

 最初は、また酔狂なことを始めたものだと思っていた。

 和泉の意図――否、望んでいることには気付いていたから、協力のようなこともしてみた。

 一喜一憂する姿が面白くて、色々と画策もした。

 けれど――

 さすがに、潮時だろうと思っていた。

 和泉の望むものに見当がつくからこそ、この状況はよろしくない。

 

「お前が、調子に乗り過ぎたせいでもあるのだぞ?オレだけのせいにするな」

 今までの和泉ならば、もっとうまく立ち回っていただろう。と冷為は思う。

 そう……

 

 ――参号が絡むと、お前は……

 

 別段、うつつを抜かして政をおろそかにしているわけではない。

 彼女に告げた通り、参号が内裏に来てからの和泉は大胆になった。

 あの式神が傍にいることが嬉しいのは分かる。

 和泉が本当の意味で笑っていることは、いいことだとも思う。

 けれど……

 このままでは、全てが弊害としかなりえない。

 

「和泉」

「なんだい?」

「お前は……どうしたいんだ?」

「どうって――式神ちゃんのことかい?」

「他に何かあるのか?」

 冷為の言葉に、和泉の顔には微笑が浮かんだ。

「そう、だねぇ……」

「やはり、そのつもりなのか?」

 

 そのつもり――

 その言葉だけで伝わったのだろうか。

 和泉は苦笑を浮かべた。

「俺は、あの子だけでいいんだ……」

「……そうか」

 答えは、それだけで充分。

 だが、それは難しいことでもある。

 

 ――ならば、余計に……

 

 今は、今のこの状況下では、距離を置くべきだと冷為は思っていた。

 

 ――何のために宴の接待役をさせたと思っているんだ

 

 貴族連中に認めさせ、内裏の中の異質な存在ではなく、居場所を作ってやろうとした。

 そうすることで、ここにいられるようにしたというのに。

 

「まずは、ここに慣れてもらいたかったんだけどね」

 そんな弟の意図を知ってか知らずか、そう言って恨みがましい目を向けてくる和泉。

 冷為は、肩を竦めた。

「だから、オレだけのせいにするなと言っているだろう」

 軽く睨みつければ、わかってるよ、と和泉は苦笑を浮かべた。

「確かに、ね。俺は、ちょっと羽目を外し過ぎたかも知れない……それは分かってるし、反省もしてる」

 

 危険な目に遭わせたことも、居心地の悪い目に遭わせてしまっていることも、元はといえば自分のせいだと、自覚はしている。

 けれど、傍にいて欲しいのだ。

 一緒にいたいのだ。

 

「なら、オレを責めるな」

「でもね、俺と式神ちゃんを引き離そうとしたことは、許せないんだよね」

 ちらりと向けられた和泉の視線。

 それに含まれたものに、冷為は眉間に皺を寄せた。

「――ねぇ、冷為」

「なんだ」

 それは、何かを企んでいる時の顔だ。

「勝手なことをした代償は、高くつくよ?」

「……」

 

 余計なことなどしなければよかった。

 そうは思ったけれど、それはもう後の祭り。

 和泉の切り出した話に、冷為は、酔狂なことだと呆れながらも頷き承諾することしかできなかった。

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